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Warp【(心・判断などを〉ゆがめる,ひがませる】

side マリナ(過去)


 お姉ちゃんと一緒にいるナルを見るのは、不愉快でしかなかった。

 ナルってば、普段そんなこと絶対に言わないくせに。

「茉莉亜さん、変わってないね。髪は今の短い方がいいけど」

 そんなふうに誰かを誉めたりするような男じゃない。そんなふうに誰かに興味を持つような人じゃない。ナルが優しいのは…優しく見えるのは…。

「昌くんも、変わってない」
「そう?ちょっとは成長したでしょ?」

 ナルは、誰にも、何にも興味なんかないの。何にも執着しないから、誰にでも優しいフリをしていられるの。ずっとそばにいた私が一番よく知ってる。
 お姉ちゃんが興味のあるたくさんのことや、たくさんの人のことに頷いて、2人で楽しく話してるけど。

 知ってる、お姉ちゃん?
  ナルはあなたの話の内容なんて、どうだっていいんだよ?

 昔もそうだったでしょ?あなたがいれば、それで良かったんだよ、ナルは。そんな人、いらないくせに。

 2人とも、似合わないよ。今さらなんだって言うのよ。
 お願い、そんなふうにしないで。

「お姉ちゃん、彼氏どうしたの?」

 3時間。さすがに我慢の限界だった。
 嫌な子だわ、と思わずにはいられなかったけど、敢えてその話題を口にした。

「3日前に別れたって言わなかったっけ?」
「ふうん、なんかお姉ちゃんってさ、つきあっても1ヶ月くらいしかもたないから、いつのことだったか忘れちゃうのよね」
「茉莉亜さんて振られてるの?いや、……茉莉菜が、そう言うから」

 ……ナルは、予想通りこの話題に食い付いて来た。
 思い出してよ。別れたんでしょ、2人は。

「そうよ、いっつも同じパターンなんだから。『お前ホントにオレのこと好きなのかよ』『オレ達つきあってんじゃないのかよ』『もういいよお前は』ってね。ナルの時もそうじゃないの?」
「言わなかったっけ?オレ、茉莉亜さんに振られてんの」

 え?……初耳……。

 ……でも、そうだよね……。
  だって、ナルってば、あの時はホントにお姉ちゃんのことが好きで……生活の全てが彼女を中心に廻ってて……。それに疲れてナルから別れを切り出したんだと思ってたけど、そうじゃない。あんなにお姉ちゃんが好きだったナルが、自分から別れを切り出すわけがなかったんだ。

 嫌だ……。なんだか、嫌な感じ……。
 ナルに帰るよう促し、立ち上がった。

 しかし、ナルは私についてこないで、お姉ちゃんにすり寄ると、耳許で囁くようにして甘い言葉を囁いた。

「茉莉亜さん、携帯かえた?香水は変えたみたいだけど」
「……ちょっと、ナル!」

 思わず叫んでしまった。
 お姉ちゃんもお姉ちゃんだわ!なにしおらしくなってんのよ。

「今さら携帯なんか聞いてどうしようって言うのよ」
「なんで?オレは、茉莉亜さんのこと嫌いじゃないし。別れた男女が友達になったって、別に不思議じゃないだろ?もう3年もたってんだし」
「だからって……!」
「ねえ、茉莉亜さん。3年たっても、オレのこと嫌いだった?」

 ひどい……ナルってば……。まだ、お姉ちゃんのこと……。
 忘れ物だなんて、ただの言い訳だわ。お姉ちゃんのこと口説きに来ただけじゃない。
 ……お願いだから……お姉ちゃん、3年も前に振ったんでしょ?
 今さら……こんなこと。

「嫌いなわけ、ないじゃない……」
 
 昔は、こんなふうじゃなかった。
 鈍いにもほどがある。ナルは私の気持ちを踏みにじったんだ。
 ずっと好きなのは私なのに。どうして、今さらお姉ちゃんのとこへなんか……。
 よりにもよって、私を出汁にしなくたっていいじゃない。

「ねえ、ナルってば、忘れ物があるって言うからお姉ちゃんの部屋に連れてったのに……、もしかして、まだお姉ちゃんのこと好きなの?」

 わかってることだけど、私は声に出さずにはいられなかった。
 ナルが否定してくれるのを期待していた。

「そうかも」
「そうかも、って!ナルってば!あんた、振られてんでしょ?何でよ!何がいいの?」

 あっさり認めたわねー!ホントにどう言うつもりよ。

「うーん」
「そんなんじゃわかんないわよ。バカねホント。また同じパターンで振られるのは見えてんだから。やめときなさいよ!それより……」

 私と。
 どうしても、その続きが言えない。
 今の関係を壊すことが、どうしても出来なくて。

 ……ナルが、私のことを見てないのも知ってるから、余計に。

「いいよ、もう……。送ってくれてありがと」

 昔は、こんなふうじゃなかった。
 ナルは私の方を見ることなく、さっさと行ってしまった。

 でも、今さら私は彼に何も言えない。
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