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Warp【(心・判断などを〉ゆがめる,ひがませる】
sideナル(未来)
あの人がこの3年のオレを知らなくても、
オレは、あの人の3年を容易に想像出来る。
高校の時からの友人、茉莉菜に頼んで、オレは今この場所にいる。
3年前つきあってた元カノ、オレの隣にいる茉莉菜の双児の姉、茉莉亜さんの部屋。オレたちが同棲してた部屋とは違う場所だ。
他に誰もいないことは知ってる。3日前まで男がいたこと、今は彼女はフリーでこの部屋に一人で住んでる。
ただ、髪を切ったのは知らなかった。それだけが唯一、オレに彼女との3年の距離を知らせる。
でも、それ以外に彼女に全く違和感を感じなかった。最初にかわした一言で、オレ達の距離は一気に縮まったみたいだった。
昔と一緒、オレ達は全てを共有出来る。楽しいこと、悲しいこと、悔しいこと。彼女以外の女じゃダメだってこと、オレに思い知らせる。
なんで、別れたんだろう。オレと茉莉亜さんには未来しかないはずなのに。
あの時も、その前も、そして今も。オレには未来しか見えてない。
茉莉菜が言うには、茉莉亜さんはどうやらオレ以外には『振られて』終わってるらしい。オレだけが、彼女に振られている。
『茉莉亜さん、オレのことどうでもいいの?もっと一緒にいようよ』
『放っといてよ。好きなようにやらせてよ』
『何だよそれ、オレのこと嫌いなの?』
『嫌いよ』
必死にしがみつくオレを、彼女はあっさり切り捨てたのだ。
「……ナル、もうこんな時間。帰らなくていいの?」
時計は既に11時を廻っていた。
「ああ……そうだな。茉莉亜さんも明日早いんだろ?」
「……そうね」
オレ達から目をそらしながら、彼女は呟く。
こういう時の茉莉亜さんは、寂しいんだ。昔から変わってない。
ここで『さみしいんでしょ?』なんて言ったらおしまい。プライドの高い茉莉亜さんは、二度とオレに微笑んでくれないんだ。この人との距離の取り方は、よくわかってるつもりだ。どうしても感情的になってしまう時もあるけれど。
でも、さすがに茉莉菜がいる前では、そんなこと出来ない。茉莉亜さんに気付かれないように、彼女をうまく甘えさせてあげたいけど。
「茉莉亜さん、携帯かえた?香水は変えたみたいだけど」
「……ちょっと、ナル!」
オレが、茉莉亜さんに甘えて見せる。茉莉菜はうるさいけど、オレはまだ彼女にしがみついていたい。
「変わってないよ」
茉莉菜がオレを睨むので、仕方なく茉莉亜さんから離れる。
「今さら携帯なんか聞いてどうしようって言うのよ」
「なんで?オレは、茉莉亜さんのこと嫌いじゃないし。別れた男女が友達になったって、別に不思議じゃないだろ?もう3年もたってんだし」
友達なんかじゃない。そんなんじゃ、足りない。
「だからって……」
「ねえ、茉莉亜さん。3年たっても、オレのこと嫌いだった?」
3年前、オレのこと嫌いだって言ったけど、今は寂しいでしょう?
オレは、オレだけは君のそばにいるよ。
オレと茉莉亜さんには未来があるんだ。ずっと前から、これからも。
「嫌いなわけ、ないじゃない……」
その言葉が聞きたかった。
「ねえ、ナルってば、忘れ物があるって言うからお姉ちゃんの部屋に連れてったのに……、もしかして、まだお姉ちゃんのこと好きなの?」
茉莉菜を車で送っていた時、彼女は突然オレを責めた。
「そうかも」
「そうかも、って!ナルってば!あんた、振られてんでしょ?何でよ!何がいいの?」
なんでそんなに騒ぐんだよ……。茉莉亜さんとつきあってた時もそうだけど、なんでそんなにうるさいんだよ。
オレと茉莉亜さんがつきあうのが何かいけないのか?
茉莉菜って、なに考えてんのか時々判らないんだよ。
家につくまでずっと騒いでいたけど、オレは彼女の台詞を何一つ聞いちゃいなかった。
来た道を戻りながら、ずっとメモリに残しておいた茉莉亜さんの番号に電話をかけた。
『もしもし?』
深呼吸をして、オレはずっと言わなくちゃいけなかったことを心の中でくり返す。
間違えないように。
「ねえ、茉莉亜さん。そっちに戻っていい?忘れ物があるんだ」
『なに?』
「言い忘れてたことがある」
『……なに?』
あの時と同じ台詞を、オレは呟く。
もう一度、あの時からはじめるために。空白を埋めるように。
「茉莉亜さん、これからもずっと一緒にいようよ」
躊躇ってる?もうすぐ君の家についてしまうのに。
『うん。ずっと一緒にいたいよ』
やった。やっぱりオレ達はずっと一緒にいるはずだったんだ。
マンションの階段を駆け上がり、携帯を右手に持ったまま、オレは呼び鈴をならす。
空白の3年間を取り戻そう。
オレと茉莉亜さんには未来があるんだから。
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