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Warp【(心・判断などを〉ゆがめる,ひがませる】
side マリア(現在)
立ち上る煙草の煙りを見つめながら思い起こすことって言うのは、どうしてこんなに暗くなってしまうものなのか。
3日前に別れたばかりの男の言葉に、悲しいと言うよりも腹が立つばかりの自分はなんて可愛げが無いんだろう、とか、あんなひどいこと言われるようなことばかりしてたのかな?とか……。
今が楽しければ、どうでもいいはずなんだけどな。
ああ、もう、考えるのめんどくさい……。
あ、そう言えば茉莉菜が来るっていってたっけ。
茉莉菜は私の双児の妹。私と全然違って、可愛くて、甘え上手で、優しい子では無いけど、女の子っぽいって言うのはきっとああいう子を言うんだな。
そう言えば、昌くんとはまだ仲イイのかな。
あの人も、嫌いだったわけじゃない、ただ……。
「茉莉亜さん」
玄関を開け、そこに立っていたのは茉莉菜と昌くんだった。
どうして?今ごろ昌くんが?
昌くんは、3年前と変わらない笑顔で私に話し掛ける。
「ごめん、忘れ物があって……今さらかとも思ったけど。茉莉菜につきあってもらったんだ」
「そう」
「茉莉亜さん、変わってないね。髪は今の短い方がいいけど」
昌くんの言葉。昌くんの気遣い。全てが以前のままだった。
懐かしさも手伝って、私は昌くんと随分長い間話をしていたような気がする。彼と話をしていて、3年間離れていたとは思えないくらい違和感がなくて。
私も彼も変わらないんだと思うとなんだか嬉しくて。
「お姉ちゃん、彼氏どうしたの?」
突然の茉莉菜の言葉。昌くんと喋ってたら、そんなことすっかり忘れてた。2人がここに来てからいつの間にか3時間もたってるし。
「3日前に別れたって言わなかったっけ?」
「ふうん、なんかお姉ちゃんってさ、つきあっても1ヶ月くらいしかもたないから、いつのことだったか忘れちゃうのよね」
やめてよもう、やっと忘れかけてたんだから。私のせいなわけ?
「茉莉亜さんて振られてるの?いや……茉莉菜が、そう言うから」
「そうよ、いっつも同じパターンなんだから。『お前ホントにオレのこと好きなのかよ』『オレ達つきあってんじゃないのかよ』『もういいよお前は』ってね。ナルの時もそうじゃないの?」
「言わなかったっけ?オレ、茉莉亜さんに振られてんの」
昌くんのその言葉に、何故か茉莉菜は黙ってしまった。
「……ナル、もうこんな時間。帰らなくていいの?」
「ああ……そうだな。茉莉亜さんも明日早いんだろ?」
「……そうね」
ホントは、もう少し昌くんと話をしたかった。昔みたいに、時間も気にしないで、一緒にいたかった。
「茉莉亜さん、携帯かえた?香水は変えたみたいだけど」
「……ちょっと、ナル!」
極自然なことだった。昌くんは耳許で囁くように私に話をする。彼が甘える時はいつもそうだ。
「変わってないよ」
彼の横で騒ぐ茉莉菜を気にして、彼は私から少しだけ距離をとった。
「今さら携帯なんか聞いてどうしようって言うのよ」
「なんで?オレは、茉莉亜さんのこと嫌いじゃないし。別れた男女が友達になったって、別に不思議じゃないだろ?もう3年もたってんだし」
「だからって……」
「ねえ、茉莉亜さん。3年たっても、オレのこと嫌いだった?」
3年間、味わえなかった感覚が、私の体内を駆け巡る。
3年前の後悔と一緒に。
「嫌いなわけ、ないじゃない……」
最初の一言で、最初の笑顔で、もう私は彼を忘れられなくなってた。
3年もたってる、今さらなのに。何で来るのよ。
昔のことにしがみついたってしょうがないじゃない。
昔どんなに仲良くたって、私は彼を『嫌いだ』と言って切り捨てて、別れてる。ただ懐かしいだけ。
私だけが彼との距離を縮めたような気になってるだけ。昌くんはいつも通りなだけ。
だって昌くん、昔のことなんか忘れたみたいに楽しそうだったじゃない。あの人、昔からそうだったじゃない。真直ぐで、前向きで。すごくポジティブ。彼に見えてるのは未来だけ。
なのに、おかしいよ。さっき帰ったばかりの彼からどうして電話が?
「もしもし?」
『ねえ、茉莉亜さん。そっちに戻っていい?忘れ物があるんだ』
「なに?」
『言い忘れてたことがある』
「……なに?」
ずっと一緒にいたみたいに、3年の空白なんかなかったみたいに、昌くんの顔が思い浮かぶ。
『茉莉亜さん、これからもずっと一緒にいようよ」』
彼は、3年前と同じ台詞を呟いた。
「うん」
はっきりと理解した。彼が昔、言っていたことを。
私といる、ずっと先の未来を、彼は見ていたのだ。
目の前のことで精一杯で見えなかったけど、今なら。
「ずっと一緒にいたいよ」