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W.E.M【世界の終わる音が聞こえる】(W.E.M[World's end music])

W.E.M【世界の終わる音が聞こえる】 第4話(the heads) 11/14



 結局あの後、舞台に立つだの云々の話は、オレのご機嫌を伺っていたのか知らないけれど、彼女たちの口から出ることはなく、普通に食事をして再びタクシーに乗った。オレの家まで送ってくれたのだが、そんなに遅い時間でもないのに、家に電気はついていなかった。

 また後日。別れ際、そう言ったのは佐伯さんだった。ちゃんとピアノを聞かせて、と付け加えて。
  もちろん、練習しに来るよね。オレの返事を聞く気のないティアスの捨て台詞を残し、タクシーは走り去った。
  愛里がオレを振り回すように、ティアスもオレを振り回す。同じようにオレの心がきちんと息苦しくなっているのが、余計に腹立たしかった。
  溜息をつきながら顔を上げると、向かいの玄関に秀二と御浜が立っているのが見えた。みんなで一緒に帰ってきて、助かったような、面倒なような。

「……どういうことですか、あれ。佐伯佳奈子じゃないですか」
「言わなかったっけ?ティアスの話」

 御浜は、ホントにどこまで知ってるんだろうな、ティアスのこと。

「テツ。柚乃は今日は帰りが遅いそうですから。何か食べますか?」

 家の管理人か、お前は。

「いや、いい。佐伯さんに奢ってもらったから。牡蛎食ってきた」

 ポケットを探り、家の鍵を弄びながら玄関に向かう。その後ろを二人がついてくる。

「どういうことですか」
「佐伯さんはティアスのプロデューサーだよ。オレに、彼女の後ろでピアノ弾かないか、ってさ」
「テツみたいに、ろくに練習もしてないヤツにですか?妙な話ですね」

 五月蠅いな。してないんじゃなくて、出来ないの。……とは言えないけど。
  玄関に上がり、コートを脱いで、リビングに向かうため廊下を進む。

「その話、受けたの?」

 後ろからついてくる御浜の声は、少しだけ不安気だった。その理由は、今のオレには判らない。

「そんな気はありません。お前、もしかして、ティアスから聞いてた?」
「うん。でも、テツはコンクールも苦手で出ないくらいだから、難しいんじゃ無いかなとは言っておいたけど」

 やっぱり。御浜は御浜だけど。
  御浜の彼女への対応は間違ってないし、事実を言ってるし、あらかじめ断っておいてくれたのはありがたいはずなんだけど。はずだけど。何でティアスも御浜も、そう言うことを言わないかな。ティアスはともかく、御浜に限って。
  いや、原因は分かってる。ティアスのことだからだ。オレが彼女との間にあったことを、どんな小さなことでも細心の注意を払って伝えるように、彼も、そこまでではなくても、そう思ってる部分があるはずだ。はっきりと、彼がそう言ったわけではないし、どこまで疑ってるか判らないけど、オレに釘を差す程度には、オレのことを彼女がらみの件に関しては警戒してるはずだ。オレがそうするように。
  でも、オレが彼を警戒するのは、何も彼から彼女を奪おうとしてるわけではなくて……。いや、もう、何をどう言っても言い訳になるな。言わなきゃ良いんだ。もう近付かなきゃ良い。1度や2度のこと、黙っとけば無かったことになる

「その話をしてたんだ?」

 オレがピアノの椅子に座るのと同時に、彼らはソファに座った。御浜の視線を真正面から受けるのは、ちょっと今は辛い。

「いや。音無悠佳のライブがあるから、見に行こうって言われただけ。でも、音無さんは、うちのオヤジ達と一緒に、蓮野のお兄さんに会いに行ったみたいだけど」
「そうなんだ。お兄さん、こっちに戻ってきてるんだ」
「何か、遺灰を持ってきて、実家に戻るとか何とか。新島が聞いてた話を少し聞いてただけだから、何とも」

 多分オレが知ってることなんて、彼は全て知ってるのだろう。こんなに簡単に話が通じることが、こんなに不愉快に思う日が来るとは思わなかった。

「なら、ティアスもそっちへ?」
「いや、親父が声をかけてたけど、断ってた。代わりに芹さんに連絡するって」
「やっぱりそうなんだ」
「やっぱり?」

 オレには納得がいかなかったことを、彼は簡単に納得する。目の前の御浜が悪いわけじゃない。あの女が悪いって判ってる。判ってるのに。

「うん。ティアスさ、蓮野さんと約束したって言ってたから。彼に、彼のことを忘れるように言われたって。長くないことを彼自身が知っていたことを、彼女は知っていたし、知っていたからこそ彼の側にいてあげたかったけど、彼がそれを拒んだ。そう言ってた」
「『いてあげたかった』って、デキてたってこと?」
「そうとは言わなかったけど、そうだろうね。その話を聞いたとき、さすがにオレも何も言えなくてさ……」

 まあ、元カレの話をさらっと言われたわけだから、普通に考えてショックだろうよ。もう少し気を使えよ、あの女は。御浜がティアスに気があるのなんか、バレバレなのに。
  そもそも気を使ってるなら、オレとホテルには行かないか。オレとの行為のことを話している素振りは無いけれど……どうしよう。

「音無さんの名前は聞いたことありますよ、先輩から。奥さんと結婚する前から仲の良い友人の一人だって。賢木さんも確か共通の友人ですよね。先輩に紹介してもらったんですか、あなたが?」

 オレと御浜の微妙な会話をどういうつもりで聞いていたのか、秀二は最初の話に無理矢理引き戻してきた。

「んなわけない。親父達がいたのは、たまたまだって。元々、音無さんにプロデュースしてもらう話だったらしい。周りの人たちもみんなそれ知ってたし。その話が、音無さんの心変わりで無しになって、佐伯さんがティアスのバックにいる今の状況なんだと」
「なら、あなたに舞台に立つように言ったのは、佐伯佳奈子なんですか?」
「どうだろ……」
「ティアスだよ。佐伯さんは、ティアスを待っててくれてるって言ってたから」

 言葉にならなかった。
  ティアスがオレを選んだということを彼に言ってたという事実と、オレに言わず彼にだけ言っていたという事実。物事は側面次第で、こんなにも違うのか。
  彼女がオレを求めていたことの嬉しさと、彼女のずるさへの怒りと、彼と彼女の仲に対する嫉妬。オレはもう、処理しきれない。
 
「チャンスって気がしますけどね。やれるときにやれることをやっておかないと、年をとったときに後悔したりしますよ」
「お前が言うと、重みがあるな」
「余計なお世話ですよ。私は、そんなに世渡りもうまくなければ、チャンスもなかった。地味に努力して、今の場所にいますから。そう思うと、若くて、チャンスにも恵まれているあなたが、一時の感情でそれをフイにするのはもったいない気がしますね。あなたはこのままピアノを続けて、どうしたいんです?」

 ちょうど2年前、秀二は高校受験を目の前にしたオレに同じコトを言った。もしかしたら、親父に何か言われていたのかも知れないし、ただの老婆心からかも知れない。真剣にピアノをやりたいなら、コンクールにももっと出るべきだし、進路も考えた方がいい。それは、愛里にも言われていたから充分判っていた。だけどオレは、それを先延ばしにすることを選んだ。
  ただ愛里の側で、ピアノを弾ければ良かった。コンクールは苦手だったし、その苦手を乗り越えてまで何かを手に入れようと言う欲求は、その時のオレにはなかった。

「チャンスかもしれんけど、そうじゃないかも知れない。あいつらがどうしたいかも判らず、オレの何を気に入ったのかも判らず、ただティアスのおまけとして扱われることが、オレにはチャンスとは思えない。ティアスの音無さんへの対抗心を満たすためだけの道具かも知れない」
「随分、言うじゃないですか」
「……なんかあった?」

 心配そうにオレを見る御浜の視線を、今のオレは素直に受け止められなかった。オレは何か、まずいことを言っただろうか。
  彼女に対して怒りを感じているのに、一度動いた恋心のようなものがどうしても消えない。それどころかオレを支配し、余計に苦しめる。彼女を切り捨てられない。
  そして彼女と同様に、御浜も。

「別に。ただ、秀二がチャンスとか言うほど、具体的な話じゃないってことだ」
「具体的じゃないなら、余計に動いた方がいい気がしますけどね」

 彼の老婆心が、オレには重すぎた。

「テツが嫌がることを彼女は知ってたから、提案しづらかったみたいだけど。今まで、いろんなピアニストと組んでみたけど、うまく行かなかったから、どうせなら荒削りで多少技術的に未熟でも、自分が気に入った人と組みたいって言ってたからね」
「お前、何げに酷いこと言ってるぞ」

 未熟で悪かったな。発展途上と言ってくれ。

「でも、テツが気にしてるのはそこだろ?何で『オレなのか』ってのは、そう言うことだろ?」
「……まあ」

 複雑だ。複雑すぎる。彼女の思いを、御浜から聞かされてる。素直に、彼女の思いは嬉しい気もするけど、彼がその相談に乗っていたことをこんな風に聞かされるのは正直、きつい。嫌味の一つも言いたいところだけど、怒りにまかせて暴言でも吐いてしまいたいけど、それもオレには出来ない。
  彼に内緒で、彼女に触れ続けたことを、激しく後悔している。いやになる。

「いや、でも、オレには向かないし。いいよ。ピアノも、好きで弾いてるだけだし。未熟なのは誰より自分が判ってるし。受験もあるし、練習時間もそろそろ減らすつもりで、あまり弾いてなかっただけだし」

 我ながら、うまいこと言うもんだと思った。自分にも御浜にも秀二にも、そして愛里達にも言い訳が立つ。これで良いじゃないか。
  ティアスにだけは言い訳できないけど、だけど、もうやめないと。こんなに彼と彼女は近いのに。体だけのオレに勝ち目はない気がするし、仮に勝ったとして、勝利と引き替えに御浜がいなくなるだけだ。

「もったいないですね」
「秀二がもったいない、て言う意味がよく判らないけど。オレとしては、テツとティアスが一緒に舞台に立ったら面白いかなって思ってただけで。何より、彼女が望んでたし。テツもね」
「オレ?」 
「そう。彼女が歌っている姿を、羨ましそうに見てたから」

 どうしても反論の言葉が出ず、黙って首を振った。

「賢木先生のピアノを思い出してたろ?」

 オレは、彼らの前で譜面を読んでただけなのに。

「彼女がライブの話をする度に、少しだけ悔しそうにしてたの、自覚してる?」

 判らない。だけど、息苦しくなるような、締め付ける思いはあった。それが、彼女が他の男と一緒にいることに対してなのか、その行為に対してなのか、彼女の横にいる同じくスポットを浴びる存在に対してなのかは、オレには判らなかった。
  恋愛感情なのか、コンプレックスなのか。何れにしろ、彼女がオレの何か欠けた存在であることだけは確かだけど。

「そんなことは……ないんじゃないか?」
「かもね。オレの見てる範囲だからね」

 かもね、とか言いながら、自信たっぷりじゃねえか。ホントに何なんだろう、コイツのこの妙な存在感と説得力。

「テツってさ、考え過ぎなんだよね。しないならしない、するならするで、どっちでも良いし?時期を待つなら待てばいいと思うし」
「何だよ、そこまで言っといて、その突き放した意見は」
「だってそうだろ。そこにただ留まる以外はどうしたって良いんじゃない?だって、自分の責任だし」
「留まるって?」
「何もしない、ってこと。それを自分で選んだのならともかくね」

 動くのが怖いから、何もしない、じゃダメだろうか。ダメだろうな。

「あと、嘘はダメかな。練習量を減らしてるって言うのとか。減らしてる人は、10時ぎりぎりまでピアノの前に座ってたりしないしね」

 やっぱりばれてる。弾けないのを知ってるとは思ってたけど。
  秀二と言い、御浜と言い、何で、オレの行動が手に取るように判るんだ。

「せめて、もっと夜遅くまで弾けると良いのに。未だ何か言われる?」
「言われなくても、近所迷惑ですよ。家までまる聞こえですからね」

 ティアスが、家に練習しに来ればいいって、そう言ってたんだ。
  思わずそんなこと、口が滑りそうになった。
  言ったほうが楽かもしれない、とも思ったけれど。だけど、多分、オレはまだ何かを期待していたのだろう。
  かすかにだけど、御浜はオレの心を言い当て、その先を(どっちかというと退路を絶たれた感じだが)指し示した。にもかかわらず、オレはこの男を裏切っていいのか?

 まあ、答えはNOなんだけど。それはあくまで理屈の問題なんだよな。頭では判ってるんだ。だからオレがこんなに、考えすぎといわれながら、悩んでる。
  だからオレは、いつもここに留まることを望んでいるのか。

「御浜。ティアスがどうとか、面白そうとかなしでさ。オレはどうしたらいいと思う?」
「知らない。好きにすれば?」

 なんか、答えは判ってたけど……突き放すなーこいつは。

「オレが見てるテツなんて、ほんとのテツの気持ちじゃないと思うし。テツが自分で何とかしたいと思わないなら、何したって意味がないし」
「相変わらず、厳しいですね。案外、自分よりも他人のほうが、客観的に自分の事を見てくれるから、正確かもしれませんよ?」
「でも、決めるのは自分だよ」

 修二はその御浜の台詞に苦笑いを見せたけど、きつい言葉とは思ったけれど、その通りだとも思った。

「……そういえば、今日はどこに行ってたんですか?先輩に聞かれると困るんですけど」

 思い出したように確認をする修二。多分、話を変えたかったんだろう。御浜は多分、答えも出さないし、その態度を変えることもないだろうから。オレを哀れに思ったか。

「音無さんのライブで一緒になったときに、聞かれなかったんですか?その後、電話とかは?」
「……そういえば、電源切ってた」

 脱いだコートのポケットに入れっぱなしだった携帯を探し当て、電源を入れる。ほぼ同時にメールやら留守電やら入ってきた。最近、こんなのばかりだな。

「どうして、また」

 時々、そうやって保護者みたいな顔をするのはずるいぞ、修二。隣で御浜が聞いてるじゃねえか。アリバイ工作しといてよかったよ。

「ライブだったから。あと、新島んちに泊めてもらってたから。……悪い、ちょっと電話でていい?」
「誰ですか、こんな遅くに」
「佐伯佳奈子」

  一応、余計な話にならないように、携帯をもってリビングを出た。
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