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W.E.M【世界の終わる音が聞こえる】(W.E.M[World's end music])

W.E.M【世界の終わる音が聞こえる】 第4話(the heads) 12/14


 佐伯さんからの電話は呼び出しで、例の、ティアスが住んでるマンションのエントランスに来いというものだった。
  オレはティアスに会う意思がないことを伝えたら、会わせるつもりもないと言っていた。いいから来いという彼女に押され、仕方なく、深夜だけど家を出た。なんと言うか、有無を言わせない女性だと思った。親父がいたらどうする気だよ。相手が修二だからよかったものの。
  御浜には佐伯さんのマンションに行くとだけ告げた。(ティアスが住んでいる場所のことを知っているかどうかは判らないけれど、怖くて話を出せなかった)

 原付で向かったら、15分くらいでついてしまったので、約束の時間を遅めに告げたことを後悔しながら、普段ティアスと会うときには使うことのなかった側のエントランスで待っていた。
  深夜だからか、エントランスの奥にある管理室前の受付に若い男性が立っていて、声をかけられてしまった。なんて答えていいかわからないところに、佐伯さんが上から降りてきた。

「なんか、ホテルの受付みたいになってるんですけど」
「普段も常駐してるんだけどね。こっちから入ったことなかったんだっけ?奥にラウンジもあるのよ。ごめんね、そっちで待っていてくれたらいいかと思ってたんだけど」

 ますます、どこかのホテルみたいだぞ?いや、結構すごいマンションだとは思ってたけど、予想以上にすごくないか、ここ。

「そっちの、駐輪場側からしか入ったことなかったですから」
「ああ、通用口のほうね。ティアちゃん、表玄関から入ると、管理の人が立ってて緊張するって言ってたから」

 彼女に誘導されるままに、エントランス奥のラウンジに案内される。マンションの住人しか入れないという、スペイン風の簡単なバーがあった。その存在に、なんだか頭が痛くなってきた。

「あんまり、外に出ないようにしてるの。こんなところに呼び出しちゃってごめんね」
「いえ……」

 やばい、完全に飲まれてる。つーか、何でカウンターで、しかも隣に座らせるんだよ。ずるくない?

「何から聞きたい?ティアちゃんのこと」

 ストレートすぎて、何も言えなくなってしまった。

「オレのこと、からかってませんか?」
「少しだけよ、少しだけ」

 嘘でも良いから否定しろよ。完全に子供扱いだな……つーか、子供か。オレなんか、この人から見たら。
  新島は男扱いっつーのが腑に落ちんけど。

「別に、ティアスのことなんか、どうでも良いです」
「そんなこと言うと、ティアちゃんが泣いちゃうわよ」
「オレが突き放したくらいで泣きますかね?あの気の強い女が」

 蓮野のために泣く彼女を思い出し、佐伯さんのせいじゃないって判ってるのに、余計に腹が立ってきた。

「そう?あの子、よく泣くのよ?甘えるの下手なくせに。遼平くんにもそうしてれば良かったのに。不器用だから」

 オレがこの「場」に戸惑ってるのを彼女は悟っているのだろう。簡単にオレに了承をとって、勝手に飲み物を注文していた。
  もしかしたら、わざと蓮野の話も振ってるのかも知れない。

「そんなに警戒しなくても」
「別に、してませんよ?」
「それがしてるっていうのよ」

 彼女は苦笑いを浮かべながら、出されたグラスの一つをオレに勧め、乾杯の素振りだけを見せた。

「……別に、ティアスのことなんかどうでも良いですって言ったじゃないですか?オレがあなたに聞きたいのだとしたら、ティアスが言っていた『舞台に立つ』話ぐらいです」
「どうしてそんなに喧嘩腰なの?まだ良い話とも、悪い話とも聞いてないのに。少なくとも、悪い話じゃないわよ?」
「悪い話かどうかはオレが判断します」

 気を悪くするかと思ったが、彼女は人の悪い笑みを見せただけだった。

「だったら、悪い話だと思ってるからその態度?ティアちゃんがずっと気にしてたからね、君のこと」
「気にしてた?」

 オレの質問に、わざと間をおいて答えた彼女の対応に、してやられたとしか言いようがない。また、オレは彼女のペースに持っていかれた。

「白神くんだっけ?沢田くんの幼馴染みが、君のコンサート嫌いの話をしてくれたって。小学生くらいのころは、従姉妹のお姉さんと一緒に何度か出てたみたいだけど、中学生くらいからほとんど出たことが無くって、学校行事くらいしか人前に立たないって。どうして?」

 彼女は明らかにオレに気を使っていた。それはよくわかる。ひどく言葉を選んでいるということが、痛いほど伝わってくる。
  そりゃそうだ。この年で、受験どうする?なんてレベルまで音楽やってるくせに、コンサートやコンクールが苦手なんていう奴の理由なんて、たかが知れてる。ましてや、思春期真っ盛り、腫れ物を触るように扱われたっておかしくない。

 ……なんて、冷めたこと考えてるって知ったら、オレも新島みたいに男扱いしてもらえるんだろうか。正直、愛里や親父がオレのことをそんな扱いしてくるから、もう慣れっこだ。思春期も反抗期も、それらしいものは残念ながらやってこなかった。
  辛かったり、恥ずかしかったり、悔しかったり。わけのわからないものに振り回されたのは一瞬だった。オレを振り回すのは、あの女に対する執着だけだ。ほかはどうでもいい。

「あまり、好きじゃないですから」
「緊張なら、誰だってするものよ?」

 やっぱり、そう思われてるよな。そうだよな。

「……意味がないですし。いや、オレの感情より、オレに場数が少ないことは、その話を聞いたら判りきったことでは?」

 愛里と一緒だからオレはピアノを弾いていたし、愛里に習うことが出来るからオレはピアノを続けている。元々、子供のころに習っていた先生とは合わなかったから(エキセントリックな先生で、愛里は優秀だから気に入られていたけど、オレは出来が悪かったからよく怒られてた)、愛里が受験のために先生を変えたタイミングでやめても良かったけど、彼女が教えてくれると言うから続けていただけ。ピアノを弾くことは好きだったし。
  コンサートは元々苦手だったけど、先生につかずに、愛里に教えて貰うようになってからは、逆にその手の柵が無くなって楽になったと思ってたくらいだ。
  ……とか、絶対この人の前では言えないし。

 我ながら、恥ずかしいくらい愛里に依存し、振り回されまくってる人生!

「何で、オレなんですか?ティアスは他にも色々違うピアニストをバックにつけて歌ってるでしょう、今でも」
「ティアちゃんが気に入ったからよ?簡単な理由。ほかに必要?」
「それの意味がわからないんですよ」

 彼女が言う「簡単な理由」という奴が、オレの心の奥深いところで、なあんか引っかかる。
  嬉しい気もする、怖い気もする、納得いかない気もする、悔しい気もする。

「考える時間がほしい?」
「え?」
「そんな顔してたから。なんか難しく考えすぎてない?とりあえずやってみればいいのに」
「……そんな」

 難しい顔してたか、オレは。

「ティアちゃんみたいに、とりあえず」

 ……

 思わずグラスを落とすところだったじゃねえか!なんつう……いや、他意はないと思う、多分。いや、新島のあの台詞から、この人も確実にオレとティアスがヤったと思ってんな。いや、事実ですけど。
  てか、とりあえず。そうですか、とりあえず。そんな軽がると。まあ、そもそもあの女、オレに嘘ついてんだよな。彼氏いたことないって。なら、蓮野は何なんだよ。大体、初めてじゃないくせに。
  いや。そんなこた、どうでもいいはずなんだが。引っかかる、引っかかる。気持ちが悪い。どうしたらいいんだ、オレは。

「……もしかして、今まで彼女とかいたことないの?そんなに動揺しちゃって。ちょっとからかっただけなのに」

 ちっ、悪意だらけかよ、ちくしょう。この女……。

「いましたよ。失礼じゃないです?別に、動揺とかしてませんし?」

 いや、親父より年上の女だからさ、わからないでもないけど。せめてもう少し反応して見せろよ。悲しすぎる、完全に馬鹿にされてる。

「冗談よ。でもわかった。ティアちゃんが君に興味を持った理由が」
「……理由?」
「とりあえず、悪いようにはしないから」

 そういって、彼女はオレに、名刺とスタジオのチラシを押し付けた。

「何ですか、これ」
「文句はやってから言いなさい。いろいろ気に入らない理由はあるみたいだけど、やらない理由らしいもの、彼女に言える?」

 だって、舞台に立ったときに指が動かなかったらどうするんだよ。とは言えないけれど。いっそ、言ってしまえば良いのか、何度も迷ってたんだから。
  いや、それはそれで、なんだか逃げのようにも聞こえるし、言いたくない。第一、オレだって、それが引っかかってるわけじゃない。

「それは……大体、あの女が最初に言わないのが」

 そう、彼女に食って掛かったが、御浜の顔が浮かんでしまったので、それ以上言えなくなってしまった。
  御浜は知ってる。言わないだけで。オレのことを何もかも。だからオレの妹がそうするように、彼も愛里にいい感情を持っていない。それだけオレは、あの女に振り回されてる。オレを大事に思ってくれる人たちが、彼女をよく思っていないのなんか、知ってる。

 だけど御浜は、ティアスには言わなかっただろうし、これからも多分言わない。彼の気遣いが、彼女からオレに話が伝わらなかった遠因だと言うことを知ったら、それは誰のせいにもしたくない。

 御浜は、彼女からオレの話を聞いたとき、どう思ったのだろう。蓮野の話を聞いたときのような動揺をしたんだろうか。
  だとしたら……。

「やってみたら、案外いいかもよ?」
「音無さんに対抗するための道具ってのは、気に入らない」
「利用し返してやろうっていう程度の野心くらい、持てばいいのに」

 それはそれで、そういわれると悔しいぞ。野心がまったくないって言うのも、男としてなんだか、恥ずかしい。

「プロデューサーですから、一緒にやるならきちんと話くらい聞くから。本格的に彼女が動くなら、私もつきっきりになるし」
「ずいぶんティアスに期待してるんですね」

 それは、公私ともども、彼女に援助をしている佐伯さんの態度で知ってはいたが。言葉にされるとなお重い気がする。
  それも、オレが引いてしまう理由のひとつではある。
  彼女への期待の大きさを、オレの指が壊してしまうんじゃないかって。

 野心がないといわれて腹が立つのに、期待がでかいと引いてしまうオレは、気が小さいってことか?
  指が動かないことすら、そのせいだと思われたら、いや過ぎる。

「それもあるけど、遼平くんの遺言だからね」

 なんだかやりきれないこの思いを叫んでみたいような気もしたけど、たくさん理由がありすぎて、何から言っていいかわからないけど。でも、ひとつだけ、何者にもはばかられず、だけど人知れず叫びたいことは、この男だ。

 話したことも、会ったこともない、今は存在すらしていない。そのくせに、オレの前に立ちはだかる。

 これはたぶん嫉妬だ。御浜や愛里のことを考えたとき、こんな風にティアスを思い出すことはないのに、蓮野の話になったとたん、はっきりとオレの中に彼に対する妬みと、彼女に対する思いが噴き出してくる。
  ずいぶんオレはずるいものだと、思わず冷笑してしまう。だけれども、どうしようもない。

 認めたくないけれど、全てオレの中にある。
  オレは、どうしたらいい?どうしたら……。

「テツ」

 ティアスが、オレの後ろに立っていた。横で「会わせるつもりはない」と言っていた佐伯さんが苦笑いをしていた。

「私の隣で、ピアノを弾いて」
「何で……」
「私が、楽しくするって言った。責任とれって言ったのはあなた」

 彼女は手を伸ばし、オレに触れる。たったそれだけのことなのに、触れられた部分は以前よりも酷く痺れる。彼女の上に乗ったことを思い出すと、その出来事があったにもかかわらず、余計に。
  オレの手をとり、立ち上がらせる。彼女に逆らえない。

 だめだ。このまま流されたら、だめだ。

「……だけど、隣で、人前では、無理だ。オレ……」
「テツ、私といるときは弾いてたじゃない。弾けるでしょ?」

 彼女はオレの手をとったまま、バーの奥にあるステージに引いていく。グランドピアノのカバーを勝手にあけ、オレを座らせた。
  客は佐伯さんを入れても3組。ここで弾けってことか?

「テツが気にしてるのは、時々指が動かなくなること?それとも、別のこと?」

 彼女は知っていた。彼女が知っているのも、知っていた。多分、御浜も知っている。ティアスも御浜も、知らない振り、見なかった振り、何もなかった振りをしてくれていた。知ってて、オレは甘えた。
  オレの練習不足を嘆く愛里は、きっと知らないけど。だから彼女には、必死に取り繕った。

「動かないかもしれないぞ」

 本当は「全て」だと言ってやりたかった。オレ自身、どうしていいかわからなくなっていた。そうとしか、言えなかった。
  ほか「全て」なんて、オレがオレ自身を責める要因を増やすだけだ。十分判ってる。
  今オレができる、精一杯だ。

「大丈夫。動くよ」
「どこからそんな自信が」
「だって、私と一緒のときは、弾いてくれたじゃない」

 彼女が楽譜をオレの前に置く。てっきり、以前読めといって渡された佐伯さんがアレンジした曲だと思ったのだが、違った。子守唄だ。

「お前、ずるいよ」

 どうせ心を持ってくなら、愛里への執着も全て、持って行ってくれたら良かったのに。
  あの夜から、オレはとっくに持っていかれていたのだと、いまさら自覚させられた。
  愛里への執着も、そのままだったけれど。

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