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W.E.M【世界の終わる音が聞こえる】(W.E.M[World's end music])

W.E.M【世界の終わる音が聞こえる】 第4話(the heads) 09/14


 オレはどうかしている。冷静に考えて見ろ。何一つ、オレの心を蝕むモノは、無くなっていないのに。
  蓮野の件も、彼女自身の心の件も、愛里の件も、何より御浜の件も。にも関わらずうまく行くわけがないのに。

「邪魔しちゃったみたいね。もうちょっと後で来ればよかったかな」
「少しだけね。でも、もう時間でしょ?早く行きたい」

 どっちだ、それは。ホントに一緒にいたかったのか、オレへのたんなる気遣いか。

「そんなに楽しみ?ライブ」
「ええ。あいつに挑戦状をたたきつけてやれるかと思うとね」
「……おいおい。何しに行く気だ」

 何か、「憧れて」とか「好きで」と言うのとは、ちょっと違う気がするな。何だ、挑戦状って。

 サエキさんに誘導されて連れられたライブハウスは、思ったより小さなハコだった。入口の前で新島が待っていたのが妙に照れくさかった。彼を連れ立って4人で中に入ると、思った以上に人がいた。何とか壁際を陣取り、そこで落ち着く。

「沢田くんは、音無さんのライブって見たことある?お父さんのお友達だって聞いてるけど」
「面識はありますけど……彼が歌っているのも弾いてるのも聞いたことがないです。CDでなら。会ったのも、子供のころですし。父は連絡を取ってるようですけど」
「気まぐれなんでしょ?あの人」
「みたいですね」
「日本に拠点を置いたくらいから、気まぐれ度が上がってるのよねえ。いいかげん、いい年なんだから、落ち着いたかと思ったのに。彼のマネージャーも嘆いてたのよね」

 気まぐれ度て……。まあ、人間関係が適当な印象は拭えないよな。そのわりには、蓮野の件ではすぐに動いていたみたいだし、オヤジが電話して、会えないにしても捕まらないことはないし。

「落ち着いたんじゃない?一カ所に留まるなんてこと、今まで無かったし。しかも、自分から出ていった日本によ?」

 音無さんに会えるからか、ティアスは少しだけ興奮気味に吠えていた。……オレと寝た後だって、そんな風にはしなかったじゃねえか。むかつくな。

「そうね。そうかもね」
「何か、腑に落ちないって顔よね」

 ティアスの言うとおり、彼女は納得がいかないようだった。

「元々、勝手な人だったけど。だけど最近、酷い気がするのよね」

 彼女を見つめるティアスの顔を、思わず見てしまった。

「何?どうかした?」
「いや。お前はそうは思わないんだと思って」
「カナみたいに、音無のことを知ってるわけではないもの。あのね、テツ……その……」

 ティアスがオレに手を伸ばし、触れた。その様子を見て、新島が意図不明な笑みを見せたのを確認したとき、照明が落ちた。ステージがライトアップされ、音無さんが現れた。
  オレは、ステージを見ることが出来なかった。ステージからの強い光が、ティアスを時折照らす。その瞬間を、オレは食い入るように見つめる。音無さんのピアノは、まるでオレの鼓動のようにリズムを紡ぎだし、ステージを揺らす。彼女を押さえるように、オレに触れたままの彼女の手を取り、握りしめる。
  挑戦状だなんて、ただの彼女の照れ隠しでしかない。彼女はこんなにも、彼に、彼のピアノに焦がれている。オレと一緒に歌ったあの姿は、なんて冷静で、なんて他のものに振り回されていたのか。
  悔しいけれど。だけど、オレもまた、彼の音楽に振り回される。だけど純粋に感動なんて出来なかった。オレにない、何かを動かす力を彼は持っている。比べることすら烏滸がましいのかもしれないけれど。

「すげえな。ピアノだけなのに。何か、オレはこういうのよく判んないけど……」

 曲の合間に言葉を探す新島に、佐伯さんは笑顔で応えていた。それに新島もほっとした顔を彼女に見せる。二人が見つめ合っている隙に、オレは黙ってティアスの手を離す。再び、曲が始まり、彼らの意識がステージに向かうと同時に彼女の手を取った。
  彼女の手が熱を帯び、汗ばんでくるのが伝わる。オレはその部分だけ、妙に冷静な気がしていた。理由は判ってる。『悔しい』だなんて、ホントは思いたくもない。世界が違いすぎるのに。
  プログラム通りに6曲を終え、彼は引っ込んだ。アンコールの声に応える気はなかったようだ。客もそれを判っているのか、声が挙がったのはひとときで、今はやんでいたが、熱気は収まらなかった。

「バックヤード行こうか?アポとってあるのよ。ティアちゃんのことも、聞いてるって言ってたから」

 佐伯さんの誘導で、彼女と一緒に彼を訪ねることになってしまった。良いのか?こんな簡単に。
  オレの不安などお構いなしに、彼女たちはオレを引っ張る。新島に助けを求めたが、彼は彼で自分のことでいっぱいのようだった。

「音無さん。この間、話してた子を連れてきたけど……」

 順に入った、狭いハコの狭い楽屋には音無さんと一緒に、オヤジと和喜さんがいた。オレは和喜さんに会うのは久しぶりだったけれど、オヤジとはよく連絡を取り合っているみたいだし、音無さんとも共通の友人みたいだから、一緒にいるのは判るけど……。

「オヤジ、何でここに?!」
「それはこっちの台詞だ。こんな日に、何でこんな所をうろついてる?」
「大雪警報で休みだし……」

 と、新島と佐伯さんに助けを求めてみたが、オレが制服を着てる理由にはならなかった。

「ごめんなさいね。こんな雪の日に息子さんを連れまわしてしまって」
「あなたは……?」

 不審そうに佐伯さんを見るオヤジに、後ろから音無さんが耳打ちをした。どうやら彼女の説明をしたようだ。でかい声で言えばいいのに。

「どこかで見たことがあると思ったら。プロデューサーをされてるんですね。音無が、今日あなたとアポがあったと」
「ええ。こんな所で鉄人くんのお父様と会えるなんて、奇遇ですね。でも、ホントによく似てらっしゃる」

 さりげなく、自分のせいにしてくれた佐伯さんには、もう頭が上がらないかも。ホントはティアスと泊まりだったとは、いくら家がそれなりにオープンな家庭とはいえ、言えないぞ。

「……鉄城の子供、こんなにでかかったっけ?嫌だな、年感じるなあ……。なあ、悠佳?」

 和喜さんの問いに、音無さんは不思議そうな顔でオレを見るだけだった。音無さんはともかく、和喜さんとは少なくとも高校入ってから会ってるはずだが。

「コイツ、最近物忘れが激しいんだ。音無、オレの息子の鉄人だ。今年17になる。……何でこのメンツで来たかは知らないが……」
「彼女、デビュー前に、音無さんともう一度話がしたいって。何度か私からも、彼女からも連絡していたと思うけど」

 ……でびゅー?デビューて、何?聞いてないし。どういうこと?

「オレからも、賢木からも連絡したな、そう言えば」

 オヤジがちらっと音無さんを見るが、彼は黙ったまま。この人、何か不思議な人だな。

「なんで?なんで何も言わないのよ。ベルギーにいたときは、もうライブはしないって言ってたのに、日本で始めてるし。リョウにもそう言ったくせに、嘘ばっかりじゃない」
「覚えてないって言ってるぞ」

 あくまで、オヤジにしか聞こえないくらいの小声で喋る彼に、彼女は苛立ちを隠せないようだった。オレが、彼女の口から出てきた男の名に、同じように思っているとも知らずに。

「覚えてないって?!」
「まあまあ、ティアちゃん。そんな喧嘩腰に話してたら、相手がびっくりしちゃうでしょ?」
「喧嘩腰じゃないよ」

 喧嘩腰だよ。だから一体何があったんだ。

「お前、ホントに物忘れ酷いのな。オレは覚えてるけど。こんな可愛いのに」

 苦笑いしながら彼女のフォローをする和喜さんに対しても、彼は黙って首を振るばかりだった。何か子供みたいな人だと思うのはおかしいだろうか。オヤジよりも年上なのに。

「お前、この子のプロデューサーをするように、随分前に言われてたろ?途中まで乗り気で、蓮野弟ともこの子とも連絡とって、偉そうにピアノ弾いたり歌って見せたりしてたろうが」
「私も随分、連絡させてもらいましたけどね。日本でのコーディネートも引き受けるって、マネージャーさんとは話が付いてましたし……」

 オレが思ってる以上に、でかい話になってないか?それに、蓮野遼平の名前も出てきてるな。ずっと元カレだと思ってたけど、さっき言ってた「デビュー」がらみの存在ってことか?いやいや、それはきっかけでしかなくて、そのままつき合ってたなんて話はいくらでもあるし。

「そういや、遼平もコーディネーターみたいな仕事をしてると聞いてたけど。それで賢木が、この子を大学で教えようとしてたってことか。間に合わなかったみたいだけど。……お前、何でここにいるんだ?」

 オヤジのしつこい疑問はごもっとも。

「……成り行き?」

 オレにもよく判らないけど。

「違うもん!見てなさいよ?私は、別にあんたの助けなんかいらないんだから。テツと一緒に舞台に立って、歌うもの!」

 オレの腕を引っ張り、高らかに宣言をする。

「聞いてないぞ、オレは……」

 この場で怒鳴らなかったオレは、ホントに大人だと思った。

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