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W.E.M【世界の終わる音が聞こえる】(W.E.M[World's end music])

W.E.M【世界の終わる音が聞こえる】 第4話(the heads) 08/14


「どうしたのよ、こんな所で、きょろきょろしちゃって。学校は?」

 愛里は、ついさっきまでオレの隣にいたティアスには気付かなかったようだ。オレの行動を不審がりながら、簡単にオレの腕に触れる。
  辺りにティアスはいなくなっていた。と言うより、人が多すぎて、どこを見て良いか判らなかった。

「大雪警報で……」
「ああ、そうよね。おかげでこんな所で足止め食らっちゃったんだった。テツは一人?」

 戸惑っていたのは、おそらく5秒くらいだったと思うけれど。だけどその時間が、オレには酷く、重く長く感じられた。

「いや……ツレとはぐれたんだけど」
「そうなの。あんまりテッキに心配かけさせないようにね。最近、あんたが出歩くことが多いって、ぼやいてたから」

 愛里の口からオヤジの話を聞くことが、どんなにオレを苦しめるか。彼女は気づきもしない。一番見せたくない顔を、彼女に見せてしまいそうになる。

「どうしたの?」

 何でティアスはオレの隣にいない?
  愛里の訝しげな表情が、オレを追い込む。この手持ちぶさたで不安定な左手を、今、ティアスに握っていて欲しいのに。
  愛里の存在が、オレを追い込み、突き落とす。胸が苦しくなるその感覚を、思い出すことすら嫌なはずなのに、時々それのせいで、うめき声すら上げている。それを愛里が知ることはないと思うと、その事実がさらにオレを追いつめる。

「何でもない」

 ティアスが横にいたら、彼女の手を握っていたら。
  そうしたら、この傷みは少しでも楽になるのだろうか。楽になるような気がしているのは、期待のしすぎだろうか。

「オヤジ、いつぼやいてたんだよ、そんなこと。オレ、そんなに出歩いてないぞ?」
「そう?あんまり練習もしてないみたいだって。進路の話もしてないでしょ?来週の月曜から、またレッスン始めるからね」

 そういえば、課題曲はほとんど弾けていない。だって、一人だと指が動かないから仕方ないし。
  それにしても、愛里もオヤジもこそこそ連絡とりやがって。愛里はオレのこと、ホントにどう思ってるんだろう。

「じゃ、あんまりふらふらしてるんじゃないわよ?テッキが心配するから」

 ハンドバッグから携帯を取り出しながら、彼女はそそくさとオレの前から立ち去る。申し訳ないといった素振りなど一つも見せないまま。いや、オレの存在がその程度だってことくらい、判ってるんだけど。
  悔しいけど、それでもオレは、あの女の心に引っかかりたい。彼女にオレを見てもらいたい。どんなに振り回されても、どんなに余所を向かれていても、それでも。

「あっち、人がいないよ?」

 ティアスはオレの左手を握り、親指の腹でオレの手の甲を滑るように撫でた。その指は、オレの涙腺も一緒に触ってしまったらしい。
  彼女はオレの顔を見ないように、ぎゅっと左手を握ったまま引っ張って、人混みの中を歩き出した。
  一番見られてはいけないヤツに、泣き顔を見られてしまった気がする。しかも、愛里のことでなんて。

「……人、いるし」

 もう、涙は止まっていたけれど。こんな赤い目でうろうろしたくないし。

「さっきの所よりは少ないでしょ?」

 彼女が連れてきたのは、先ほどまでいたテラスの南端だった。所狭しと置かれた点灯前のイルミネーションが壁になって、確かにさっきの場所よりは人が少ないけれども。日陰には未だ溶けていない雪が固まって凍っていて、滑ってしまいそうだ。

「大体、お前はなんでいなくなったんだ?」
「邪魔かと思って。それに私、あの人に嫌われてるみたいだし」
「だからって、お前がいなくなる理由になるか?」

 左手に力を込めた。彼女が痛がったから少しだけ力を緩めたけれど、離すつもりはなかった。

「だって……テツは、佐藤さんのこと」

 そう言うくせに。オレも彼女も、どうしてこんなに矛盾だらけだ?
  関係ないと言えないオレも。何も言わないオレと寝た彼女も。

「そんなこと……」
「何度も言ったでしょ?知ってるって。否定しなくて良いよ」
「だけど、関係ない」

 手は離さない。オレが愛里を好きなことは確かだけど。オレ自身、バカだとは思うけど。あの女のことをどうしても、心の中から振りきれないけど。
  だけど、ティアスのこととは関係ない。
  気が多いだけかもしれない。だけど、この手を離したくない程度には、ティアスのことを好きだと思う。
  多分、昨夜より、今朝より、こうして手を引いてくれた今の方が、ずっと彼女を愛しく思える。

「イルミネーションが点くまで、どこかで時間潰そうか?私の用事はもっと夜遅いし」

 彼女の提案に、オレは黙って頷いた。彼女が愛里のことを、あれ以上何も言わなかったことに、自分が甘えているのもよく判ってる。だけど、さっきまでのように、一緒にいられる時間が決まったことを純粋に喜べはしなかった。
  彼女と一緒の時間は楽しいし、ちゃんとオレの心は浮き立つけれど。だけど何かが引っかかったままだ。その何かは、多分一つじゃないんだろう。それはオレのせいでもあるし、彼女のせいでもある。

 少しだけ変わったような、何も変わらないような、妙な距離感を保ったまま、オレは彼女と時間を過ごす。つないだ手を離す気もなかったし、違和感はあっても、突き放す気はなかった。
  そうしながら、彼女の用事というヤツを聞いた。今夜、あの音無悠佳がライブをするらしい。そこに佐伯さんと一緒に行く約束をしていたのだという。
  そんなところにオレが着いていって良いのか?と聞いたら、彼女は一緒に来て欲しいと返した。それがオレの心を少しだけ軽くする。不安定だけど、彼女にとって必要だと判る言葉が、オレの存在を明確にする。

 ライブの話から、やっと自然に音無悠佳の話を聞くことが出来た。彼女は、彼を追いかけてこっちへ来たらしい。それくらい彼女にとって、音楽をする上で、彼の存在は大きいようだ。佐伯さんも、賢木先生も、その支援のために力を貸してくれているのだという。もちろん、その礼というのはおかしいが、賢木先生にも、佐伯さんにも、それなりのことをしているとは言っていたけれど。

 音無さんは、活動の拠点を急に日本に戻し、しかもこの名古屋近辺ばかりに出没するようになったらしい。オヤジも賢木先生も、神出鬼没だとは言っていたけれど、出没するなんて言われ方もどうなのか。
  連絡を取っているのにちっとも会えない、だから会いに行くのだと彼女は言っていた。元々、佐伯さんも音無さんとは知り合いらしいけど、それでもなかなかつなげないらしい。オヤジとは普通に連絡を取っていたみたいだから、妙な話もあるモンだと思った。
  佐伯さんの話が出たときに、オレに何か言いたそうにしているのが少しだけ気になった。未だ何か、言い出せないことでもあるんだろうか。オレにまた、少しだけ距離を感じさせていると、彼女は判っているのだろうか。
  オレの悪い癖だとは思うけれど、いやなことをイメージしてしまう。家に帰ったらまた御浜と秀二がいて、それは普通のことなんだけど、うっかりティアスの話になんかなったりして、御浜の口からまたオレの知らない情報やら、オレが知ったばかりのことが出てきたりするんだ。それが、思った以上に辛い。

 オレの持つ違和感の正体は、こんなにも明確だ。思っていた以上に簡単に彼女の体は手に入ったのに、彼女との距離が縮まった気はしない。むしろオレだけが、どんどん深みにはまっていく。間抜けな話だ。
  素直に、彼女もオレのことを好きなんじゃないかと、オレはどうして思えないんだろう。それならば二人で、全てから隠し通せばいいんじゃないか?そうできたら、オレにとって一番良いんじゃないのか?

 あちこち歩き回って疲れたのと、小腹が空いたからと、百貨店の2階にあるカフェに入る。賑わっている店内だったが、窓際の席に案内された。雲の隙間から夕陽が差し込んでいるのが、窓から見えた。また雪が降ってきそうな、不穏な空模様だ。けれど、平日と言うこともあるし、昼間は比較的穏やかな天気だったせいか、人通りは結構多い。
  明らかに、カップルにしか見えないんだろうな、オレ達は。窓際の席はペアシートになっていて、二人で横並びに座ることになった。普段もそうしてるけど、改めてそう見えているのだと思うと、少しだけ戸惑う。彼女がオレの左側にいることは、なんの違和感もないのに、不思議な感じだ。

「……実はね」

 彼女は真剣な眼差しでメニューを見つめながら、重い口調で呟く。

「何だよ……その……」
「私、あんまり甘いものって好きじゃないのよね。女子なのに」
「……心臓に悪い。お前、出されたもんは食うけど、相当偏食だよな。あと、味覚がおっさん」
「何よ、テツだって偏食じゃない。味覚がおっさんなのはお互い様だし。でも、たまにはこういう可愛い店も入ってみたいのよ。テツ達みたいに」

 その「達」にはオレと愛里が含まれるわけ?
  そういやティアスとは大抵、外でそのまま会うか、夜遅いからファミレスとか、クラブとかだったからな。昨日は愛里がいなかったから、二人でスタバにいることになったけど。

「別に、一緒に行けばいいだろうが。レッスン無くても、オレはあの場所にいるし」

 彼女は黙って微笑む。彼女の膝の上で手を握ると、握り返してくる。何もなかったように、オレは再びメニューを見るよう彼女に促す。

「ティアス。オレ達、これから……」

 答えが欲しい。確証が欲しい。
  この握っている手の、この温もりに、何も考えずただ甘えたい。
  彼女がオレと同じ思いなら、オレ達うまく行くんじゃないのか?

「これから……?」

 彼女がオレを握る手に、力を込める。
  一瞬目を伏せ、照れたようにも見えたけれど。彼女は上目遣いでオレを見つめた。

「これから……」

 こんな台詞、自分で吐いたことなんて無いから、なんて言って良いか判らないけど。
  どうしても、彼女の手を強く握ってしまうけど。

「ティアちゃん、ここにいた。背中向けてるんだもの、わかんなかった」

 彼女の肩を、佐伯さんが軽く叩く。オレと二人でいることを当たり前のように扱う彼女の態度に、オレも彼女も手を離さなかったけれど、オレの台詞は完全に止まってしまった。

 むしろ彼女の登場にほっとしてしまったオレは、やっぱりただずるいのかもしれない。

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