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W.E.M【世界の終わる音が聞こえる】(W.E.M[World's end music])

W.E.M【世界の終わる音が聞こえる】 第3話(the heads) 12/12


 あの後、芹さんは随分疲れていたらしく、新島と話をしたあと眠ってしまった。仕方ないといった顔で新島が彼をベッドに運んだ。「時差もあるしな」と苦笑い混じりに言って。
  オレもティアスも、黙っていた。新島のフォローにも、芹さんの無言の圧力にも。
  新島はその後、キッチンで電話を掛けていた。最初はどうやら母親に。2回目は話し方から察するに佐伯さんだった。
  込み入った内容になってきたのか、彼は携帯を片手にキッチンから客間へと移動していった。おそらく、リビングにいるオレ達に聞かれたくなかったのだろう。

「責められるの、判ってたんだ」

 新島が立ち去った後、彼女はゆっくりと口を開いた。また少しだけオレに近付き、彼女の右手とオレの左手を重ね合わせた。

「孝多は、リョウに心酔してたの。すごく憧れていたの。だから、孝多の世界は、リョウを中心にまわってるの」
「だから、責められる?」

 彼女は黙って頷いた。明確に言葉にしてはいけないような気がしていた。

 要するに蓮野がいながら、オレとつき合ってるようなティアスを、死の淵にいた蓮野からティアスを奪ったオレを、彼は責めていた。事実はそうではないにしても。いろんなことが、少しずつずれて、誤解が絡み合っているけれど、それを説明も出来なかったし、したくなかった。はっきりさせたら、多分オレは彼女の隣にいられない。自身の心と、周囲が許さない。いろんなことをずるいまま、隠しながら、だけど彼女が欲しいのだと。こうして身を寄せ合っていられるこの状況を逃したくない。

「心酔って、すごいな。体育会系だな。でも、まあ、御浜みたいだって言ってた理由、少しだけ判った」

 御浜にもそう言う、何か人を惹き付けるモノがある。判らないんだけど、大きな力みたいなモノを持ってる。全ての人に伝わらなくても、数少なくても、人を心から動かす何かを。

「責められても仕方ないんだ。だって、応えられないのはどうしようもないし。私が中途半端だから」

 応えられないって言うのは……。やっぱ、そう言う話にはなってたわけね。彼女は否定したくせに。だけど、応えてはいないってことか?なのに、応えられないと言いながら、どうして芹さんはあの態度で、ティアスもこの態度なんだ?

「テツ、ピアノ弾いて?歌うから」

 肩越しに、上目遣いでオレを見つめる。

「え?……いや、その……」

 人前で今弾くのは……。だって、弾けなかったら困ると言うに。指が動かないかも知れないのに。確かに、こいつの前では動いたけど。正直、自信がない。

「こないだの。子守歌」
「弾くって言ってないだろうが!」
「良いじゃない。誰も聞いてないよ。私だけ」
「は?」
「私だけのために、弾いて?」

 もしかして、甘えてる?そんなに可愛い顔されても困るんですけど。
  ただ、甘えてはいたけれど、彼女が泣きそうな顔をしているのも判った。真っ直ぐ顔を見たことで。
  甘える程度に、彼女は辛いってことくらい、知ってる。気付きたくはなかったけど。

 今この状況で、不謹慎かも知れないとは思ったけれど。けど、オレは彼女に軽くキスをしてから立ち上がり、彼女の手を引いて、リビングの隅に置いてあるアップライトピアノに向かった。

「ちょっと待て、指ならししてから」

 横に立つ彼女にそう告げると、素直に頷いた。
  多分、大丈夫。弾けるはず。

 ゆっくりと練習曲を奏でる。思っていたよりすんなり指は動いた。いつも通りだった。
  逆に、何で1人になると弾けなくなるんだろう。

「テツ、何か必死だね」

 この女は……またずけずけとそう言うことを。
  ちくしょう、判ってるよ。図星刺されてるから、腹が立つってことくらい。

「別に?」
「あんまり、楽しそうじゃない。せっかく、綺麗なのに」
「……綺麗?」
「うん、テツのピアノ、綺麗よ。もったいない」

 誉めといて、けなすか?でも、佐伯さんとの話から、コイツがオレのピアノを誉めてたのはホントっぽいしな。

「好きよ」
「は?」

 突然、何を言うかこの女は!オレが言えないで黙ってたことを簡単に!てか、告られてるし、これって。
  思わず、指も止まるって。

「テツのピアノ」
「……ああ、そう」

 うん。いや、そう言うオチ?判ってたけど。1人でおたおたしてみっともない。まあ、実際好きとか嫌いとか言われても、それはそれで困るけど。嬉しいって言うのとは別にして。

「だから、もったいないよ。そんなにつまらなさそうに弾くの。つまらなく聞こえるから」
「お前が、楽しくしてくれるんだろ?その実力、今こそ見せてもらおうじゃないの?」

 彼女はやっと笑った。オレのピアノに合わせて、歌い始める。
  オレは勝手に弾いているだけだけど、彼女は合わせてくれていた。合わせてくれていたはずの彼女の音に、今度はオレも引き上げられる。
  音の重なりが、体の芯に響く。その感覚が異常なほど気持ちよかった。

 オレだけかも知れないと、ちらっと彼女を見たら、彼女は泣いていた。歌いながら。

 

 

 

 夕方ごろ、仕方なく家に戻ったら御浜と秀二がキッチンに居座っていた。この家の人間は一体何をしてるんだと突っ込みたかったが、それに加担してるのはオレなのでやめておいた。

「オヤジと柚乃は?お前ら、いつから居座ってる?しかも秀二がいるのに、飯もねえのか」
「冷蔵庫に入ってますよ。先輩はさっきちらっと顔を出して、私に留守を任していきました。あそこの研究室、今は相当忙しいらしいですからね。その後、御浜が来たんですよ。柚乃はさっき出かけました。友達と約束があるとかで」

 家にはいなかったんだ。どうしても秀二の言葉に返事が出来ず、黙って椅子に座ると、見かねて補足してくれた。

「心配はしてましたけど、何も言ってませんでしたよ?ただ、誰の家に泊まるかくらいは言った方がいいかも知れませんね」
「新島の家だよ」
「オレ、結構連絡したのにな」

 責めるわけでもなく、ぼやくようにそう言う御浜。

「お前はオレの保護者か。たまたま出られなかっただけだよ。オヤジよりお前が心配してどうする。別に、電話に出ないのなんかいつものことじゃねえか」
「そうだね。たまたま、ちょっと心配だっただけで」
「なんだそれ」
「何となくだよ。理由とか、よく判んないし」

 どこまでオレのことを疑ってるのか、感づいているのか。どう思ってるのか、掴みきれなかった。ただ、妙な威圧感は持ってるんだ、コイツは。
  ただそれ以上に、彼に対して後ろ暗い気持ちでいたくないんだけれど。

『孝多は、リョウに心酔してたの。すごく憧れていたの。だから、孝多の世界は、リョウを中心にまわってるの』

 そこまでじゃなくても、オレの世界の中心には御浜がいるような気がしてならない。憧れてるわけでも、心酔してるわけでもないけど。だけど、芹さんがオレを見たあの目で、オレはオレ自身を見ている。御浜から彼女を奪おうとしている自分自身を。奪うわけでも、奪いたいわけでもないけれど。

「ティアスからも、連絡無かった?」
「……御浜が心配してるって言ってた」

 どうやってかわして良いか判らなかったけど、何もなかったというのは無理がある気がした。彼女とは、そう言う意味での御浜の話は出来なかった。
  だけど、御浜とティアスって一体どこまで、どんな話をしてるんだろう。
  勝手にしろって思いながら、裏切りたくないと願いながら、だけど彼女が欲しいと自覚してしまった今、彼らの間の出来事が気になる理由も明確になって、肥大化して、オレを押しつぶしていた。

『刺されてはいないみたいだけど……刺したつもりだよ』

 本当は、全て知ってるのかも知れない、御浜は。だとしても、多分オレは驚かない。心は重くなるだろうけど。

「お前、ハスヤリョウヘイって、知ってる?」

 怖かったけれど、いま立っている場所を、オレは確認しておきたかった。彼女と、オレと、御浜。それからこの死んだ男。距離感を。
  秀二がいるから、御浜と二人だけじゃなかったから、少し安心していたのもある。これが真だったら、とてもじゃないけどこんな大胆な台詞は出てこない。

「?ティアスから聞いたことある」

 やっぱ、そうなんだ。予想はしてたけど、辛かった。彼女がどういうつもりか、掴みきれない。もしかしたら、愛里に振り回されているときより酷いかも知れない。何でオレってこういう女ばかり選んでしまうんだろう。やっぱ真の言う通りドMなのか?

「どんな人か聞いたことある?」

 秀二は黙って煙草を噴かしながら、オレと御浜を交互に眺めていた。御浜は真正面に座るオレを、ただ真っ直ぐに見ていたけど。

「うん。賢木先生と知り合ったのは、その人の仲介らしいよ?いま、日本で佐伯さんがバックアップしてくれてるように、向こうでは彼がしてくれてたって」

 やっぱりな。
  そう思うしかなかった。オレが彼女のことを話題に出さないから。聞きたくなかったから。聞こうとしても止めてたから、御浜は言わなかっただけで。予想以上に彼は彼女からいろんな話を聞いていた。予想はしてたけど。その内容は鋭い針のようにオレを突き刺した。
  いや、知ってるものだとして、口にしなかっただけかも知れないけど。

 彼女とオレは連絡を取っていても、オレが怖がって踏み込んでなかった。それを思い知らされる。

「御浜のこと、ちょっと似てるって言ってた」
「この子に似てるんじゃ、相当天然ですね」
「何だよ、秀二は人のこと言えないし。でも、言われたよ?オレを見てると、ちょっと思い出すって。今は入院してるって聞いた」

 オレが初めて知ったことを、彼はよく知っていた。オレには誤魔化しながら話したくせに。

「今朝、芹孝多って人が来た……らしいんだけど」

 一緒にいたとは言えない。それは、言っちゃダメだ。

「うん?その人も聞いたことある。向こうにいたんじゃ?」
「蓮野って人が死んだのを、伝えに来たって」
「そうなんだ……。泣いてた?ティアス?」
「いや」

 泣いてたけど。

「きっと泣いてるよ。大事な人だったみたいだから。……そっか。大変なときに連絡しちゃったな」

 申し訳なさそうな顔をする御浜は、泣いているであろう彼女を思う。
  なんだかやりきれなかった。
  御浜と彼女の距離も、蓮野と彼女の距離も、オレと彼女の距離なんかよりずっとずっと近くて。それを、今、御浜に思い知らされて。

 オレにだけ誤魔化す彼女に、怒りをぶつけてる自分が惨めだった。
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