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W.E.M【世界の終わる音が聞こえる】(W.E.M[World's end music])

W.E.M【世界の終わる音が聞こえる】 第3話(the heads) 11/12


 ティアスの願いで、新島はオレと彼女を部屋に置いて芹孝多という男を迎えに駅に向かった。オレ達は昨夜と同様、リビングのソファに横に並び身を寄せ合った。
  こうしてるとつき合ってるような気もするんだが、言えないし、言える状況じゃない自分がもどかしかった。
  彼女の腰に手をまわし、もう一方の手で頭を撫でる。

「孝多の話がリョウのことだったら、沢田先生や賢木先生にも伝えて欲しいの」
「オヤジに?」

 いま、あんまり会いたくないんですけど。つーか、何か外に出るといろいろめんどくさそうだから、ティアスの隣にだけいたいんですけど。
  さすがに、そう言うわけには行かないけれど。

「うん。沢田先生達と随分仲が良かったって言ってたんだけど、病気のことが判ってから、わざと距離をとってたみたいなのね。音無だけは時々会いに来てたみたいだけど」

 音無さんは呼び捨てか。結局、コイツは何しに来たんだろうな、こっちに。オヤジの話しぶりからすると、音無さんに関係してるっぽいけど。連絡があった、なんて伝えるくらいだし。
  今はそんな話を聞ける状況ではないけれど。

「ふうん。その仲のよい友人とも距離をとるような男と、お前は近かったわけだ」
「だから、何でそう言うこと……」
「どんな男なの、そいつは」
「いいじゃない、別に」

 ふてくされてみせるくせに、彼女はオレに体を預けたままだった。何か、関係がはっきりしてないけど、これはこれで良いような気もしている。それじゃ納得いかないような、責任が無くて楽なような。逃げ道が用意されてるその感覚が、気楽でもあり、不安でもあった。

「聞きたい」
「……御浜……」

 聞きたくなかったかも。何でそこで、その名前が出てくるかな。

「御浜みたいな男ってこと?ご近所の王子様か。30近いくせに」
「まあ、病院内ではそんな感じだったかしら。優しくて、綺麗で、穏やかで、真っ直ぐで」
「表向き、御浜っぽいな」

 気にしてない口振りをして見せたけど、思わず彼女の腰に回した手に力が入る。

「でも、ちょっと内に籠もるというか……暗い部分もあって」
「ああ、そう。そこが嫌いじゃなかったと」

 彼女は黙ってしまった。せめて何か言ってくれ。肯定のサイン以外の何モノでもないじゃないか。

「要は、元彼ってこと?」
「だから、つき合ってもないって。そう言うのじゃなくて」

 そう言うのじゃないと言うくせに、どうしてそんな含んだ言い方なのか。

「違うよ。テツが気にするようなことじゃない」
「ああ、そう」
「だって、ホントは何も見たくないんでしょ?」
「そうだな」

 見透かされてる。少しだけ、ぞっとする感覚を覚えた。オレがいろんなモノから逃げてることを、確かに少しずつ伝えはしたけれど、そう言う言い方をされると少しだけ怖い。

「私も、見たくないものはもう見ずにいたいんだ」
「え?」

 呼び鈴の音が鳴り響いたので、急いでオレ達は距離をとる。彼女は立ち上がり、玄関に向かった。
  彼女の言葉の意味を、どうとっていいか迷っていたから、無粋だとは思ったけれど、少しだけ安心もした。

「沢田。紹介するよ。コイツがさっき言ってた芹孝多。2個上であっちの大学に通ってる」

 ……年上なんだ。
  ソファから立ち上がり、紹介された、どう見ても自分と同じかそれより下にしか見えない男に会釈をした。穏やかそうな、悪く言えばちょっとぼんやりしてそうな、天然ボケっぽい男だった。よく言えば無邪気な笑顔が印象的だった。ただ、新島と並んでいても、明らかに新島の方が年上に見えてしまう。

「芹です。よろしく。さっき少し、灯路から話を聞いたので。沢田先生の息子さんだって。こんな大きな息子さんがいるなんて驚いたけど、沢田先生の話は蓮野さんからよく聞いてたので」

 オヤジの話に、オレはどうしても、うまく笑顔が作れなかった。そんな、オレの知らないこと言われても、正直困る。
  彼らの後ろから戻ってきたティアスは、再びオレの隣に立った。何故かその行為に、オレは妙な緊張感が緩んだような感覚を覚えていた。

「テツは、あんまりそう言う話は聞いてないと思うよ?沢田先生って、そう言う話はしなさそうだったもの。元々、リョウのお兄さんと仲良かったんでしょ?賢木先生とか」

 ちらっと、オレの様子を伺いながら、彼女は説明をしてくれた。その話の方が、納得できる。オヤジより賢木先生や音無さんの方が年上だけど、大学の友達と言われたら何とか関わっていてもおかしくない年齢だ。だけど、ハスヤリョウヘイという男は、ティアスと何かあったってことが生々しすぎるくらい、簡単に想像できる程度に若い。

「……灯路」
「何だよ。何でそんなちょっとおどおどした顔なんだよ。気持ち悪い」

 この芹って人は、ホントに新島と仲が良いんだろうな。新島は元々、丁寧な男ではないけれど、ここまで他人に対して突っ込んでいくような男でもないから。距離感を適切にとれる男が、久しぶりの男にここまで近付いているのは、何だかほほえましかった。

「沢田くんとティアスって、つき合ってる?もしかして」
「……そこ、突っ込んじゃダメなとこだから、多分。黙ってろ。つーか、口にするな、思ったとしても」

 本当だよ。そこで全否定することも肯定することも出来ねえぞ、いまのオレには。ティアスに全否定されても、いやだけど。

「孝多は黙っててよ」
「でも、蓮野さんは……」
「関係ないでしょうが。もう、孝多はリョウの肩を持ち過ぎよ!一体何しに来たのよ!」

 否定も肯定もしなかったが、彼女が芹さんから余計な言葉を出させないようにしていることは手に取るように判った。彼女が、わざと彼を怒鳴ったことで。

「まあまあ……孝多のことだし、許してやれば?落ち着けって、座れよ。立ってるからヒステリックになるんだ。孝多も、何か喋る前にオレに言え」

 芹さんもティアスも、新島にかかったら酷い扱いだな。ホントに年上か?と言うか、この3人の中で、新島が一番年下だって言うのが信じられん。

「沢田くん、苦笑いしてるよ」
「するしかねえだろ、そりゃ!オレだってするわ!」

 頭痛いなあ、もう……。うっかり笑うことも出来ん。

 まるでオレがするように、隣に立つ彼女がオレの背中に触れる。その行動に促され、彼女と一緒にソファに座った。芹さんは、半ば強制的に新島に命じられるようにして床のクッションに座る。その様子を確認してから、新島が革張りのソファのアームに腰掛けた。
  言い出しにくそうに、ティアスを見つめる芹さんの様子に、彼女は大きく溜息をついた。

「リョウが、死んだんでしょ?」

 彼は黙って頷く。彼女のことを思いやって、と言うよりは、芹さん自身が彼の死に対して酷くショックを受けているように見えた。実際、さっきの彼女の話からすると、そうなのかも知れない。

『でも、蓮野さんは……』

 だとすると、彼のあの台詞はどういう意味だったんだろう。オレとティアスがつき合ってたとしたら、ハスヤリョウヘイがどうだと言うんだ。蓮野がティアスの彼氏って言う情報が新島の所に届いたのは、確実に芹さん経由だ。だけど、ティアスはあの調子だし、蓮野はもう死んでいる。
  死んだ男のことを気にする必要なんか無いはずなのに、いろんな人の思いが絡みついて、唯一確認したいはずのティアスの本音が見えにくい。
  彼女の心に、彼の存在がこびりついていなければ、彼の死が彼女の心に余計な影響を与えなければ。オレの知らない男なんてどうだっていいのに。

「いつ?」
「昨日、葬儀が終わった」

 終わってすぐに、こっちに来たってことか。もっと落ち着いてからでもいいだろうに。
  こんな冷たいことを考えてるのはオレだけかも知れない。新島もティアスも、彼の言葉を静かに、真剣な面持ちで聞いていた。怖いくらいに。

「お兄さんは……ティアスには知らせなくていいって。蓮野さんも望んでないしって」

 新島が俯いた。彼の元には、何度かティアスの兄から連絡があったはずだ。オレも聞いてるし。そのことを思っているんだろう。

「それで、これ。あの、預かってて。蓮野さんから。……ごめん、オレ、どうしていいか判らなくて」

 芹さんが体を浮かせ、ティアスに手紙を差し出した。彼女はそれを受け取ると、少しだけオレの方に体を近付けた。

「あとで読むよ。孝多にはちゃんと教えるから」

 芹さんはゆっくりと首を横に振った。

「いいんだ。オレももらったし。オレはちゃんと看取ったから。だけど」

 ちらっと、オレを見つめた。その視線が少しだけ怖かった。悪意は感じられなかったけれど、彼の何か秘めた思いのようなモノを感じて。



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