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W.E.M【世界の終わる音が聞こえる】(W.E.M[World's end music])

W.E.M【世界の終わる音が聞こえる】 第3話(the heads) 10/12


 彼氏?この女に。あの態度で。いくらなんだってずるくないか?

「何で、ちょっと怖い顔なのよ」

 オレの考えてることが伝わったのか、不満そうな顔で文句を付けてきた。ティアスの隣で珈琲を飲む新島は、苦笑いをするばかりだ。コイツこそ、どういうつもりであんなことを告げたのか。タイミングが悪すぎる。
  まあ、今さらって気もしないでもないけど。

「元々こういう顔だよ。うるせえな」

 腹立たしいことこの上ないが、ここで罵るような仲じゃ無いっつーのが一番痛いな。
  ちくしょう。男がいるくせに、あの態度か。期待したじゃねえか。どんな男だ。彼女がこっちに来たから追っかけてきたのか?逃げられてんじゃねえのか、その男は。

「そういやさ、ティアス。昨夜、孝多から連絡あったんだけど。お前、連絡先教えてないの?携帯渡してから随分経ってるだろうが。何かいろいろ困ってるみたいだったぞ」

 そいつか?コウタってヤツが男か?
  睨み付けてしまったオレの視線に気付いたのか、ティアスも新島も、ちょっと引いた表情を見せた。いいからお前らは反省しろ。オレを振り回しやがって。

「いやよ。コウタに連絡したら、兄さんにも伝わるじゃない。意味がないわよ。あの人、真面目すぎて間抜けなとこがあるから、絶対何かしでかすと思うのよね」
「その件に関しては、全く否定しないけどよ。大体、時差も考えずに真夜中に電話してきて、それを突っ込んだら平謝りするような男だからな」
「うわ……コウタっぽい」

 目の前で知らない、しかもティアスの彼氏っぽい男の話をされるのは相当不愉快なんですけど。新島のヤツ、謝ったから良いと思ってるな。もう遅い、とっくにフラグ立ってるんだよ。
  それを、新島に言うのはいやだけど。でも言わなくても、とっくにバレてるモンだと思ってたけど。

「……あ、ごめん。コウタってね、灯路の昔からの友達でね……」

 ティアスがオレの不愉快な表情に気付いたというか、どうすればいいか気付いたらしく、説明を始めた。それに乗っかるというか、フォローするように新島が続けて説明を始める。

「オレの幼馴染みってヤツ。お前と白神みたいな感じでお隣さんだったんだけど、親が転勤族で中学上がる前に引っ越しちまったんだな。で、たまたま転勤先がコイツのいたベルギーの学校の側で……みたいな、なあ?」
「ご丁寧な説明ありがとよ」
「……ティアスじゃなくても怖いぞ、お前」

 誰のせいだ。

 あれ?しかし、話のつじつまが合わないな。新島と共通の知り合いなら、しかも出会いのきっかけがコイツなら、つき合ってたことを知らないわけがないだろうよ。別れたと思ってて、あんな思わせぶりなことをいろいろ言ってたのか?

「孝多のヤツは、相変わらず何を言ってるんだか、いまいちよく判らなかったんだが」
「頭はいいんだけど、バカよね」
「身も蓋もないな。で、その何を言ってるか判らん孝多の言葉を拾い上げた情報によるとだな、なにやら重要な話があるからティアスに連絡とってくれって」
「ふうん」

 何でもない顔をしとるな、この女は。もしかして、こういう話をするつもりだったから、新島は先にオレに情報を教えてくれたのか?男が来て重要な話っつったら。

「重要?」
「うん。だから一回こっちに来るって。いつかは知らんけど。何かのついでだからとか言ってたな」
「灯路の理解力がないんじゃないの?何、その適当な話の拾い方」

 全くだな。とりあえず、しばらく黙って様子を伺っていよう。珈琲でも飲みながら。
  新島がちらっと、オレに視線をくれる。それって、どんな気遣い?

「で、なんだったかな。蓮野……何つったかな」

 多分、そのハスヤってヤツなんだ。新島が言っていたのは。ティアスの表情が、「コウタ」って奴の話の時とはまるで違っていた。新島も、ちらちらとオレの方ばかり見ているし。

「蓮野遼平でしょ?」
「そうそう。そいつ。そいつのことでどうとか」
「死んだんじゃない?だから孝多のヤツ、知らせに来たのよ」
「……は?」

 言葉が出なかった。新島も知らなかったんだろう。固まった表情のまま、オレの彼女を交互に見つめた。
  何だ、状況が判らん。
  おそらく察するに、新島の言う「ティアスの彼氏」って言うのは、その「ハスヤリョウヘイ」って男なんだろう。それは彼女のあからさまな態度の変化でも明らかだ。だけど、「彼氏」という割には、彼の死を告げに来たであろう男が来るのにあっさりしているし、そもそもそんな状況の男がいながら、置いてきたってことだろうか。

「ティアス……お前、案外冷たいな」

 オレも思ったことを、新島は簡単に口にした。そう言いたかったけれど、オレの立場でそれを彼女に言うのは憚られたし、何より、言いたくなかった。

「え?」
「だって、孝多の話じゃ、その蓮野って男と……」

 「雨に唄えば」の着信音が鳴り響く。ティアスが無言で新島のポケットを指さし、彼は渋々携帯をとった。

「もしもし?孝多かよ。時差考えろっつーの!って、朝だからいいけど」
「『彼氏』って聞いた」
「うわ、待て沢田……いやいや、こっちのこと」

 あっさり、オレがそう口にしたことで慌てたのは他でもない電話中の新島だった。オレは無視して、真正面から彼女を見つめた。
  よく考えたら、別に他意のない話じゃないか。彼女を責める資格はないけど、聞くくらいならいいんじゃねえの?と思っただけだ。

「彼氏じゃないよ?別に」
「わざわざ死んだことを知らせるために来るような相手なのに?」
「端から見たら、そう見えてたのかも知れないけど」

 そう言うの、つき合ってるって言うと思うけど。ああでも、言いたくないそんなこと。
  彼女は少しだけ怒ってるような顔を見せた。その様子が、余計にオレを苛立たせているとも知らずに。

「何で、『死んだ』って判るのに?」
「あの人、病気だったの。まだ29で若かったんだけど、ずっと療養してたのよ。長くないって言われてたから」
「何でそんなにあっさり言えるんだ?そう言うこと」
「だって、そう約束したの、リョウと」

 なんじゃそりゃ!約束したからってこと?いろんな意味にとれるぞ?それ!
  ホントはすごく悲しいけど、彼と約束したからそう振る舞ってるのか。
  口約束程度で簡単に彼の死を突き放せるほど、どうでも良いってことなのか。
  どっちでもいやだ。

「……わかった。ティアス、喧嘩腰の所、悪いけど」
「喧嘩腰じゃないわよ。テツが、私のこと責めるんだもん」
「別に責めてないだろうが。ちょっと冷たくないか?って思っただけだ」

 違う。冷たいとか冷たくないとか、本当は多分どうでもいいんだ。少しだけショックではあったけど。そんなことより、その「リョウ」なんて呼ぶ仲の男と、今でも続いているのかどうかって話だ。死んだのかも知れないけど。それはそれで、彼女の心にいるのかどうかって方が大事なんだ。
  そう考えるオレは、どうしようもなく冷たかった。彼女を冷たいとか冷たくないとか、言う資格なんてホントはなかった。同じように、彼女を挟めば嫉妬の対象として見てしまう御浜には、そんなことは絶対思わないはずなのに、自分と関わっていない人間に対しては何でこんなに残酷な気持ちでいられるのか。

 御浜との関係も、ティアスとの関係も、どっちも手に入れたいと願うくせに。どっちともうまくやっていきたいと願うくせに。そのために、ずるく天秤のバランスをとろうと、昨夜決めてしまったくせに。見ず知らずの蓮野って男には、彼女の心から消え去って欲しいと願っている。

「待て待て。お前ら、普通に痴話喧嘩してるじゃねえか。なんなんだ一体」
「痴話喧嘩って!そんなんじゃないわよ」

 オレに同意を求めるな、へこむわ!
  思わず彼女から目を逸らしたら、彼女は怪訝そうな顔をしていた。

「それより、孝多がもうセントレアついてるって。あと1時間くらいでこっちに着くってよ」
「何それ、昨日の電話って……」
「トランジットで降りた空港からしてたって」

 いやだ。昨夜の葛藤は何だったんだ。愛里のことも、御浜のことも、彼女との関係も、何も解決しないまま、何も決められないまま、余計な荷物ばかりが増えていく。
  ティアスのことを好きだと思う気持ちと、愛里に執着し続ける思い。
  彼女を自分のものにしたいという欲望と、御浜に対する遠慮と彼との関係の維持を望む心。
  未だにそれは拭い切れていないけれど、どちらをとるかなんて選べないけれど、それでも、彼女に一歩踏み出そうとしていたところなのに。

『びっくりした』

 彼女も、オレのことを受け入れてくれそうだったのに。なんだこの展開。彼氏じゃないって言われたって、それ以上に面倒だろうが。

「テツ、どこに行くの?」

 立ち上がり、玄関に向かうオレを彼女が追いかけてきた。何故か、新島は一緒じゃなかったけど。

「……帰る」

 別に帰りたくはないんだけど。むしろ、オヤジとは顔もあわせたくないし。御浜にも会わせる顔がないし。

「待って、一緒に来て」
「なんで?!」
「ホントにリョウが死んだんなら……」

 初めて、彼女は少しだけ悲しい顔をして見せた。それが、オレには辛い。

「死んだんじゃない?って言ったのはお前だろうが」
「でも、もしかしたら違う話かも。だけど、ホントにそうだったら」

 俯く彼女の思いが、さすがに伝わった。

「テツに、……いて欲しいよ」
「新島でいいだろうが?」

 俯いたまま、彼女は首を横に振った。
  またオレは、彼女に期待してしまう。新島が玄関の方に来ないことを確認して、彼女の頬に自分の頬をすり寄せた。赤くなってたのか、彼女の頬が熱くて、思わず笑ってしまった。

「もう一回、はっきりと言えたら、一緒に行ってやるよ」
「テツ!」

 まさに鬼の形相で、オレを怒鳴りつけた彼女に、軽くキスをすると、驚くほどあっさりおとなしくなった。その様子が、オレの心を簡単に解きほぐす。ずるいな、とは思うけど。

「ずるいよ。何でそう言うことできるの?」
「お前もな。そんな男がいて、何で昨夜の態度かな?だけど」

 彼女は再び黙ってしまった。オレ達は多分、いろんな意味でお互い様なんだろう。

「1人で聞けないって言うなら、仕方ないから一緒にいてやるよ」

 お互い様だと思っているのはオレだけで、冷たいのもずるいのも、本当はオレだけかも知れない。
  不安を抱く彼女につけこんで、触れられる部分を全て合わせるように、力一杯抱きしめた。


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