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W.E.M【世界の終わる音が聞こえる】 第3話(the heads) 01/12
『オレは、お前らが気にするから……』
確かにオレの目の前にいるこの男は、そう言った。
そんなにストレートにそんなこと言われても……しかもこの状況で。もっと違う状況なら、判りやすくて良かったかも知れないけれど。
「……えっと、オレ、用事思い出し……」
「逃げんなって」
新島は、がしっ、と音がしそうなほど、力強くオレの首根っこを掴んだ。
「それはいくらなんだってずるいだろ?オレ、そう言うのどうかと思うし」
「いや、どうかとって言われても……。オレにはオレの事情があるよ。お前はそう考えるかもしれんけど、同じような状況になったら……」
「逃げたって、なにも解決しないって。どっちかっつーと、状況はどんどん自分の意志とは関係ない方へ向かう。一応言っておくよ、経験上」
経験上、経験上って……新島も真も、大人ぶっちゃって、むかつくな、おい。
そんなにオレの行為はお子さまか?
「意外とさ、沢田って壁にぶつかっていったことないんだな。壁があっても、避けてきたっぽいんだ。そんな風に見えないからさ、意外だな」
「……待てよ。その言い方は……」
「あ、悪い。失言だった」
「失言どころの騒ぎじゃねえと思うけど」
「だから、意外っつったじゃん。そんな風に見えないって」
「それが余分だっつーの!」
だから、図星刺されてっから、さらに腹がたつんだって!
つーか、図星って判る自分も不愉快だ!
ちくしょう……オレ、絶対今、相当嫌な顔してる。
「灯路、なにしてんのよ?」
しかも、よりにもよってこんな時に首を突っ込んでくるか?ティアスは。
「行くわよ?」
「お前、何でそんなに偉そうなんだよ」
文句を言いながらも、新島は嫌な顔をしてなかった。
新島の背を押しながら、肩越しに彼女はオレの顔を見つめた。
『そんくらいには、お前のことティアスも見てる』
どうしたらいい?
ホントに新島の言うとおりなのか?!
だとしたら、……だとしたら、今までの彼女の行動に簡単に理由が付けれてしまう。彼女からのメールも、あの日の行動も。今日のこの行為ですら。
どうしたらいい?
新島はそう言うけれど、彼女はそう思っているかも知れないけど、彼女とあんなに楽しそうに話す、御浜はどうなる?
……よりにもよって、御浜は1人で座ってオレを待っていた。
周りの席にはカップルやら家族連れやらばかりで、連中の姿は見えなかった。
「他の連中はどうしたんだよ?」
「何か、座っててって言われて。テツのこと待ってるように言われたから。並んでるよ」
御浜の指さす先には、話しながら売店に並ぶ新島達の姿があった。……真と柚乃がいねえけど。
「座れば?今日、何か変だよ?もしかして調子悪かった?」
「寒いから疲れただけだ」
……なんでだ?今朝まで普通に話をしてたのに、なんで今は顔を見ることすら出来ないんだ?
どこに座ればいい?なるべく視界に入らないようにしたいんだけど……。
仕方なく、円形のテーブルを囲む椅子から、御浜の向かいも隣も避け、一つ分椅子を挟んで座る。
「ふうん。テツって結構、判りやすいからさ」
「お前ほどじゃないぞ。大体、オレがこう言うの苦手だって、知ってるじゃん、お前」
「オレもそんなに得意じゃないよ?」
「……企画したのお前だし……」
「いや、最初はグループで攻めた方がいいって、真が……」
入れ知恵してんじゃねえか、あの男は!いかにも御浜が考えたみたいに言いやがって。なに考えてんだ。
「真はオレの味方だけど」
「だけど?」
?突然、何なんだ?思わず御浜の顔を見てしまったが、いつも通りだった。
「だけど、テツの味方じゃないんだよね、残念ながら。いや、普段はテツの味方でもあるんだけど。オレとテツなら、オレを選ぶんだな、これが」
「お前、結構すごいことを、さらっと言ってるぞ……?」
力抜けるなあ、もう……。事実だけど、判ってるけど、判りきってるけど。だからこそオレは新島に釘を差したんだし。
「あいつの好き嫌いがはっきりしてるのは充分判ってるって。だからいったい何なんだよ」
「うん。オレも何なんだろうって思ってる」
「聞いたのはオレなんだけど」
「真がそう言う態度に出てるのだけは、判るんだよ。何でだと思う?」
……何ででしょう……。
真っ正面から見るの、やめてもらえませんか。
御浜は、ホントは何でも知ってる。何もかもお見通し。
そう言うところがあるんだよ。
なのに、どうしてそう言う問いかけを、オレにしてくるかな?
お前、本当はどこまで、『何もかも』知ってる?
「さあ、オレにはよく判んないけど。何か勘違いしてんじゃねえ?」
「勘違い?」
「誤解とか?」
余計なことを言ってしまった気がする。
「誤解ね……何を誤解してんのか、オレにはよく判らないけれど」
ほら。
御浜は、しっかり突っ込んでくる。オレの今の台詞は、完全に失言だ。
「そんなに、一体何を気にしてるの?テツは」
「……別に、何も?」
「そう。気にしてるわけじゃないなら良いけど。テツは、自分が思ってるよりいろんなことを気にしすぎだし、空回りするから」
「……お前には、お見通しって?」
「さあ、どうだろ。そう思ってるなら、そうなんじゃない?」
「何?二人して」
いつの間にか、真がオレと御浜の間に座っていた。
「何でもない」
「何でも無くないでしょ?釘でも刺された?つーか、刺した?」
ストレートに、当たり前のように、でも茶化しながら、真はオレと御浜を交互に指さした。
「刺されてはいないみたいだけど……刺したつもりだよ」
「お、怖いね、相変わらず」
真はその御浜の台詞に大喜びするが、オレは背筋が凍る思いだった。
『つき合ってるわけじゃねえんだし。確かに、気まずいかもしれんけど。何をそんなに白神のこと怖がってるかな?』
怖がってないし、怖がる理由はない。ただ、気を使ってるだけ。
オレは彼と同じ土俵に立ちたくはない。ただそれだけ。
彼女のことなんか、どうだって良い。
まだオレは、悲しいくらい、オレに振り向かないあの女を思っている。