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W.E.M【世界の終わる音が聞こえる】 第3話(the heads) 02/12
「柚乃はどうしたんだよ?あいつらと一緒にはいないみたいだけど?」
オレは話を変えるつもりで、売店に並ぶティアス達を指さしながら、真に聞いた。
「さあ?電話鳴ってたから。どこかにいるんじゃない?すぐ戻ってくるでしょ?」
「ああ、そう」
目的を果たし、ほっとした途端、オレの携帯が鳴り響く。
相手は……愛里だった。どうして?
「……テッちゃん、どこ行くのさ?」
真の声を無視して、オレは彼らから距離をとり、電話に出た。
「どうしたんだよ」
『テツ、今どこにいるの?港にすぐ来れる?』
「……港?港のどこだよ?」
『観覧車のあるところ。今日、花火やるのよ。でも、迎えに来て』
「……迎えにって……意味わかんねえし」
『良いから来てよ。すぐね』
電話切りやがった。あのわがまま女。
迎えにったって……お前を送り迎えしてる連中見たく、オレには足がないだろうが。高校生だぞ?!判ってんのか?
「テッちゃん、何?またお父さん?それとも愛里ちゃん?」
真のその台詞に、一瞬、御浜がオレを見たが、すぐにいつも通りの表情に戻った。
「……愛里」
オヤジだと言ったら、きっと御浜は嫌な顔をする。その理由はよく判らないけれど。愛里だと言っても、あまりいい顔はしないけど。
「オレ、帰るわ」
「つーか、なに言ってんの、テッちゃん!?ちょ……御浜も何とか言ってよ」
「え?うーんと、寒いから気をつけて」
「何それ!?意味判んないし!!」
そう言うヤツだって、御浜は。
重荷にも、抑制力にも、推進力にもならないし、なろうとはしない。
しないけれど、釘はきちんと刺すし、何かあったら隣にいる。
オレにとって、必要な存在だって、痛いほど判ってる。こういう何気ない時にこそ、それを痛感する。
だからこそ、オレが彼の邪魔にはなりたくない。
『何をそんなに白神のこと怖がってるかな?』
だけど何で?何で、あの新島の言葉が、頭を離れない?
「沢田くん、どこに行くの?」
新島と一緒に売店の列に並んでいたはずのティアスが、オレを追いかけてきた。
「……なんだよ」
「なんだよ、じゃないわよ。……どこに行くのかと思って」
少しだけはにかんだように、オレの機嫌を伺うような聞き方をする。
その彼女の様子に、再び新島の言葉を思い出す。
そうだと思えば思うほど、どうして良いか判らない。
「別に……用があるから、帰るだけ」
「そう。寂しいね」
「え?」
直球!直球過ぎるよ。しかもちょっと可愛いし。そう言うとこ、ずるいよな。
ちくしょう、悪い気はしないし。
オレは別に、御浜のこと以外は気にしてないけど……でも、嫌いじゃない。多分、それだけ。
「冗談よ」
「あ、そ。そう言うこと言わなくてもいいんじゃねえか?」
「お互い様。私、こんなに酷くないけどな」
「酷い?お前、本人を目の前にして酷いってなあ……。つーか、何でお前の話になるんだ」
「だってトージが、君と私が似てる、なんてこと言うんだもん。失礼よね。私、こんなにぶしつけじゃないし、偉そうじゃないし、口も悪くないし」
「そっくりそのまま返してやるよ」
……あれ?てことは、やっぱ似てるのか?
「強がってるくせに、弱っちいとこもそっくり、なんて言ってた」
「オレは違うけど、お前はそうかもね」
彼女のメールも、電話も、回数を重ねれば重ねるほど、それを感じていた。
言葉が足らない彼女の心が、少しずつオレにも見えてくる。
そんな感覚を覚えていた。
だから、何度もやめようと思ってた。
これ以上、深みにはまる前に、やめたかった。
彼女の歌を聴いて以来。
彼女がオレの家に泊まって以来。
彼女と一緒に出かけて以来。
彼女と連絡を取るようになって以来。
ずっと、思ってた。
思ってたのに、やめられなかった。
こう言うの、なんて言うんだっけ?
「冗談でしょ?それは、君だよ?自覚してる?」
「失礼だよ、お前。オレは弱っちくなんかないって」
「弱いって言うのは語弊があるかも知れないけど……なんて言うか、何か、常に怖がってるって言うか」
「怖がってる?誰が、何を?」
「判んないけど……そう見えるよ。何か、自分みたいで、判るんだ」
メールでも電話でも、そんなことは言わなかったくせに。
「うるせえよ、お前。オレは急いでんだ。もう行く」
「そう。寒いし、人も多いから……気をつけてね」
そう言ってくれたティアスの顔を、オレは見ることが出来なかった。
どうして彼女はそうなんだろう。
まるで御浜のようなことをさらっと言う。
なのに、まるで愛里のように振る舞うときもある。
でも、何より、彼女はオレに似ている。
だからだ。だからこんなに、彼女のことが引っかかるんだ。
オレは別に、それ以上の意味で気にしてるわけじゃない。
御浜も怖くない、彼女のことも気にしてない。あれは新島の勘違いだ。
だってオレは、こんなに急いで愛里の元へ向かおうとしてるのに。