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W.E.M【世界の終わる音が聞こえる】(W.E.M[World's end music])

W.E.M【世界の終わる音が聞こえる】 第2話(the heads) 08/11



「あれ?なんか人数多いな……。ま、いっか、多い方が楽しいよね、きっと」

 ソファに座ったままリビングに集まった人数を見渡し、満足そうにそう言ったのは御浜だった。
  隣でシンが、いつもの嘘臭い笑顔を浮かべながら相づちをうつ。
  オレは、話に入る気などもちろんなく、二人を少し離れた場所から見守っていた。

「動くのめんどくさそうだけどねえ。どっか行くつもり?」
「……考えてなかった」
「あ、やっぱり?」

 ……人んちのリビングに多人数集めたかと思ったら、何も考えてなかったのか、こいつら。
  おおかた、ティアスを呼びつける口実って所だな。結局、また新島連れてきちゃってるけど。

「紗良さんも連れてくればよかったのに」
「今日ねえ、バイトなんだって。その後、研究室の人たちと飲み会だって。寂しいよねえ」

 そういや、御浜っていつの間に南さんとか仲良くなってんだろ。何気にすごい。オレだって、ほとんど面識ないのに。

「そういや、秀二さんは?あの人、大抵この家にいるのに」
「そんなにしょっちゅうはいないよ。それに、年末年始は忙しいって言ってたし」

 このメンツの中に秀二がいたら大変だろうよ。あいつ、自分の独壇場以外は、ほとんど喋れないし、若い力にあのおっさんが勝てるとは思えん。

「テッちゃん、なんか目つき悪いねえ」
「いつものことだって。ほら、あの人ああ見えて人見知りだし、人が多いところ苦手だしね」

 うるせえよ!聞こえるように悪口言うなっての!お前らは!

「うわ、睨んだよ!!ひどーい」
「絶対、『うるせえよ!』とか思ってるね、あれ」

 ……お前はオレの心が読めるのか?御浜!

「ティアス、きてくれたんだね、嬉しいよ」

 御浜達にティアスが近付くと、彼は屈託のない笑顔で彼女を受け入れる。その笑顔に、彼女は笑顔で返す。
  まあ、この場面で、あんな可愛らしいこと言っちゃうのが御浜だよな。

「忙しかった?」
「ううん」

 彼女は少しだけ照れていた。まるで、一緒に出かけたあの時のように。
  クリスマスイブに、気に入った女呼びつけて、多人数とはいえ出かけようってのは……御浜にしては、良い傾向かな。こんなコト、あいつには今までなかったし。
  その相手がティアスじゃなければ……。

 いや、別にティアスでも良いじゃん。オレとティアスなんか、何でもないし。新島が変なこと言うから。
  そりゃ、こっそり一緒に出かけてるし、メールもしてる。電話だって、別に初めてじゃない。
  でも、べつに何でもないじゃん、オレ達は。

 彼女は、オレの方をちらっと見ると、微かに微笑む。
  思わず、オレもこっそり笑顔を送ったりする。だけど、その行為に、オレの心臓は高鳴ると同時に、締め付けられる。

 だって、御浜が見てる。

 友達が好きな女とつき合うなんて面倒なこと、オレはしたくない。
  これは別に、御浜を怖がってるって言うのとは違うと思う。
  だから、こないだはうっかり一緒に出かけちゃったりしたけれど、もうしない。
  ……連絡はとり続けてしまうかもしれないけど。

「どこ行くの?」
「名駅とかは?イルミネーション綺麗らしいよ?」
「えー、御浜、こう言うときは、もっと人の少ないところへ!今日なんか、あり得ないくらい人がいるよ?」
「じゃあ、どこ行こうか」
「……要するに、決まってないのね」

 ティアスの突っ込みに、3人で笑い合う。
  なんか、一緒にいるところをあんまり見てなかったからその様子にまだ違和感を感じるけど、いつの間にかそれなりに仲良くなってたんだな。そのわりには、まだ保護者付きか。
  でも、つき合うなら、さっさとつきあえよ。めんどくさい。

「沢田、何でそんな遠巻きに見てんの?」
「……別に」
「眉間に皺寄ってるし」
「ほっとけ、いつものことだ」

 新島はこう言うとき、特に機嫌を悪くするでもなく、苦笑いをする。なんか、妙に落ち着いてて、大人っぽい。
  正直、羨んでるんだろうな、オレは。こんな新島のことを。

「そういや、お前、ホントに良いの?ティアスと一緒にいて」
「なんで?別に、いつものことだし。オレ達、仲良いんだよ、こう見えても」
「いや、何がこう見えてなのか。充分すぎるほど仲良いって。そうじゃなくて、こんな保護者まがいのことして振り回されてて、それで良いのかってこと」
「楽しめばいいんだって。オレは、ティアスのこと気に入ってるし」
「気に入ってる、ねえ」
「いいじゃん、顔は可愛いんだし」
「……他は?」
「まあ、いろいろかな」

 誤魔化したな。

「また、眉間に皺寄ってる。言いたいことがあれば、素直に言った方がいいこともあるよ?人生長いんだし」

 何でかな。やっぱりあいつらの方を見ると、嫌な顔になるな。別に、どうだって良いのに。

「出かけますよー」
「重たい、乗るな!」
「いてえって!、泉!」

 こそこそしてたのが気に入らなかったのか、真がオレと新島の間に割って入り、無理矢理オレ達二人と肩を組んでのしかかってきた。体でかいんだから重いっつーの!

「オレ達、一緒に行く意味あんのか?」

 御浜には聞こえないように、真にそう聞いたのだが、コイツは一切顔色を変えなかった。

「一緒に行かなきゃいけないくらい、初々しい関係なわけよ、そこんとこ判ってる?」
「しらねえよ」

 あからさまに嫌悪感を示してしまい、しまった、何て思った瞬間、地面が軽く揺れる。そんなに大きな揺れではなかったけれど、体が浮くような、妙な感覚が残った。

「最近、こういう小さい地震多いよねえ」
「そうか?」
「ほら、夜中とか……。テッちゃんて、あれだよね、鈍い?」
「お前が神経質なだけじゃねえのか?」

 ……うまく話がそらせたようで、何より。

 ピアノの前では、ティアスと御浜が笑い合ってる。
  それで良いんじゃない?何だか楽しそうだし。

 そう思えるのに、どうしてこんなに鮮明に、彼女と出かけたときのことを思い出しているんだろう。

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