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W.E.M【世界の終わる音が聞こえる】 第2話(the heads) 06/11
酷く、心が重かった。
冬休みに入って、愛里は用事でも出来たのか、オレの冬休みが明けるまでレッスンは無しだと伝えてきた。しかもメールで。相変わらずだ。代わりに大量に課題を出されたけど。
でも、正直、助かった。
これで、指が動かなくても、つまらなさそうにピアノ弾いてても、オレに何か言ってくる者はいないはずだ。御浜とティアス以外は。
愛里に言われるよりは、良い。オレの心に深く突き刺さったりはしないから。
「……沢田、お前、ちゃんと寝た?」
「多少……」
起き抜けに布団の上で、眉間にしわ寄せながらメールチェックしてたオレを、怪訝そうな顔で見ていた。
「大丈夫かよ……」
携帯を触っていたら、ティアスからメールが来た。
『昨日はありがとう。楽しかったよ。また一緒に出かけようね(*^_^*)今日はちゃんと学校行ってね』
「沢田……顔、にやけてる……!ホントに大丈夫か?」
「にやけてた?!」
「うん。ただでさえお前、愛想悪いんだから、急ににやけると怖いよ。モテなくなるよ?」
「モテてるか?」
「あんだけ声かけられりゃじゅうぶんだ。お前、顔が恵まれてるんだっての。口も愛想も悪いけど。……何でかな?」
もうそう言うの、どうでも良いって。中学のときに懲りたから。
「中身お子さまのくせに、何でそんな人生悟りきった爺の顔してんだろね、お前」
「どういう意味だ!」
「良いから、メールに集中すれば?誰から?」
「……いや」
すいません。布団も片づけずにメール打ってて……。
しかし、そんなににやけながらメール見てた?失礼な。
確かに、ちょっと浮かれてるけど……。
でも、この浮かれてるのと、オレの心が重たいのは別問題なんだよな。
新島の両親と、談笑しながら朝食をとり、新島と学校に向かった。
昨日、雪が降ってたとは思えないほど、外はいい天気だった。
バスから見える景色がいつもと違っていて、妙に気持ちが高ぶっていた。
「ティアスって、今日はなにしてんの?」
「さあ、家でおとなしくしてんじゃない?賢木先生がいなくて怒ってたし」
「……ふーん、そっか……」
新島がオレのことを不審な目で見てる。
「いや、別に特に何も……!ほんとに」
「別に違うなら違うで良いけどさ。……あ、泉」
もしかして、真っていつもこのバス?路線違うから知らなかったけど、いつも同じバスだったらしい。
「なんでテッちゃん一緒なの?てか、新島昨日休みだったし、テッちゃん抜けてたし」
「昨日、たまたま会ったから、話聞くついでに家に泊めたんだよ。ちなみにオレはサボり。……泉くん、昨日の古典のノートを……」
「あはは、高いよ。それよりテッちゃん、どこをふらふらしてたんだよ。御浜が心配してたっつーの」
新島のフリは、最高だったと思います。当たり障りないっつーか。
「あのなあ。御浜はオレの保護者か?お前は御浜の保護者か?」
「うーん……。テッちゃんの保護者かどうかはともかく、御浜の保護者はやっても良いかな?で、なにしてたの?」
「お前だって、時々ふらっといなくなるじゃねえか」
「テッちゃんはそう言うこと無いでしょ?最近言動が怪しいけど。愛里ちゃんはどうしたよ?」
「休み明けまでレッスンなしだって。レッスンない方が課題がきつい……」
真は苦笑いをすると、オレの横に無理矢理座ろうと入ってきた。
二人がけの座席に、二人で座ってるっつーの!あげく、この巨体でオレの膝の上にのしかかる。
「御浜がさ、昼くらいからテッちゃんともティアちゃんとも連絡が取れなくなったっつって、心配してたんだよね。テッちゃん、オレのメール見た?」
「いや、夜中に見た。電源きれてるのに気付かなかったし」
「あっそ。御浜にフォローいれた?」
「だから保護者かよ。親父よりうるせえな」
隣で新島が苦笑いをしていた。
昨夜、真と御浜の話をしたけれど、理解してもらえた、と思いたい。
それにしても、オレより新島の行動の方が怪しいんだから、そっちにつっこめばいいのに……興味ないってコトかな?
「良いから、重いから退け。膝に乗るな」
「やだー。オレ、体力無いしー。終業式なんだからさぼればよかった。テッちゃん、今日の午後は……」
「練習」
「あっそ。つまんない。良いバイトの話があるんだけど」
「バイト?」
金はあって困るもんじゃないぞ?
「そ、知り合いの代理店の人が、安く使えるモデルが欲しいって言ってんの。事務所経由すると高いし、動けなくても良いっつってたから。友達でいない?って」
「そういうのかよ……。お前、よくそう言う話持ってくるよね。顔広いっつーか。オレ、勘弁して、そう言うの。無理。御浜は?顔良いし。近所のおばさん達に大人気よ?」
「うーん……ちょっと違うかな、イメージと。まあ、放課後まで考えといて。……新島、女のモデルも頼まれてんだけど……」
「……ティアス自身はともかく……。いや、まあ聞いとくわ」
「?微妙なお返事。まあ、他にも声かけるから良いけど」
そう言って、真が膝から降りた。もうバスは学校の前に着いていた。
「なあ、昨日の英語のノートって、どうなった?」
「ん?コピーあるよ。何、英語なんか捨てたって言ってたのに」
「いや、やらんとさ……」
昨日、ティアスが教えてくれるって言ってたのを思いだした。
「あー受験ね。昨日、進路相談表を配られたから、机ん中につっこんどいた。年明けに出せってさ」
バスを降りながら、オレと新島の顔を交互に指さした。
「テッちゃんは音大でしょ?大変だよな、学校はフォローしてくんないから」
「……いや、判んないけど。そういや、お前がどこ行きたいとかって聞いたこと無かったな」
コイツこそ、南さんを追って芸大!とか言いそうだけど。
校門を抜け、校舎へ向かいながら、真は珍しく少し考えていた。
「うーん。市立大の情報科学部とか、良いかなって。大学は行けって言われたんだよ、おじさん達に」
……そっか、コイツ、時々忘れそうになるけど、両親いないんだっけ……。
もしかして、すごく考えてたかな、進路のこと。
行きたかったとしても、確かに、言いにくいよな。
「新島は?」
「オレ、関東行くよ。どこでも良いから、6大学。理系でね」
う……みんな考えてる。御浜はそのまま持ち上がりで大学部に行くだろうし……。
教室着いたら、怖いけど相原とかにも聞いてみよっかな。
そう言えば、ティアスはどうするんだろう。来年度、普通に芸大受けるって言ってた。何か目的があって、わざわざベルギーから来てるはずだし……。
オレだけか?オレだけなのか?こんなんなの!?