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W.E.M【世界の終わる音が聞こえる】(W.E.M[World's end music])

W.E.M【世界の終わる音が聞こえる】 第2話(the heads) 04/11



 彼女を後ろに乗せ、いったん家に戻る。さすがに制服のままふらふらするわけにはいかないので、着替えるためだ。
  二人で家を出るとき、ちょうど雪がちらつきはじめた。

 一緒にバス停まで歩き、二人で並んでバスに乗る。会話は今までのことを思うと少なかったけど、彼女が隣にいるのはなぜだか心地よかった。
  地下鉄に乗って栄まで出て、オレも上ったことのないテレビ塔に行った。二人でご飯を食べたあと、雪の降る町を歩いていたらいつの間にか暗くなってきた。
  平日だったのでほとんど客のいない観覧車に乗った。向かい合わせではなく、隣同士で。

 ……完全にデートじゃん、これ……!
  いや、観覧車の個室で、隣同士に座りながら後悔してる場合じゃないけど。
  でも、御浜になんて言うかな……。こんなコトになってることを。

 流れに任せてたらこうなってました、とか。
  誘ってみたらついてきたのでなし崩し的に、とか。
  自分でもよく判らないままこの状況に、とか。

 うん。我ながらわけが判らん。てか、そんな理由でどこの誰が納得する?
  大体、何でオレはこの女を連れて歩いてんだ。
  何で……一緒にいようと思ったんだ?

 愛里のこと……は?オレ、忘れてないし、こんなにも心の奥底に引っかかってる。
  彼女の顔を、こんなにも簡単に思い描ける。
  残念ながら、どうしようもないくらい、自分でもバカだと思うけれど、彼女が好きだ。あの、酷い女を。

 じゃあ、ティアスは?

「なんか、デートみたいだよね」

 ……言わないようにしてたのに。あっさり口に出すか、この女は。

「よかろ?オレとデートできるの」
「自信過剰よねー。顔が良いからって、うぬぼれてんじゃないわよ」

 笑いながらばっさり切るな。
  もしかしたらこの状況を気にしてるのはオレだけか?

 御浜の存在、引っかかったままの愛里、そしてティアス自身の思い。

 どれもこれも、俺が思っているだけのことだ。もしかしたらそれぞれの人たちは、そんなことすら気にしてないのかもしれない。

 御浜は、別にオレがティアスとどこに行こうが気にしないかもしれない。オレがどうとかではなく、ティアスが彼に答えてくれることの方が大事なはずだし。……多分。

 愛里はオレのことなんか、親父に近付くためのダシと、自分が育てた生徒って言う程度の感情しかない。だから、彼女はオレに対してどこまでも残酷だ。それすらも彼女は何も気にせず行っているかもしれないのに、振り回されるのはオレの心のせいなのだ。

 ティアスは……。

「なに?何かおかしい?私」

 ティアスが少しだけ顔を赤らめる。オレは彼女の言葉を気にせず、ただまじまじと彼女を見つめた。

 何でこんなコトになってんだ?オレとティアスって、一体何?
  だって、この女とはつい一昨日会ったばかりで、昨日はうちに泊めて話し込んで、今朝は彼女を迎えに飛び出して……。

 ……わからん!
  てか、考えたくもない!

「あ、ついたみたいだよ」

 ビルの3階にある乗降場についた途端、彼女は焦って立ち上がる。

「……沢田くん、出ないと」

 オレのコートの袖を軽く引っ張った。
  それに引きずられるように、ゴンドラから降りた。少しだけバランスを崩して、彼女に一歩近付く。

「沢田くん?」

 オレとティアスって、一体何?

 オレは一体何に引っかかってる?御浜?愛里?ティアス?……それとも、オレ自身?

「沢田くん、ここだと邪魔になるから、行くよ?」

 近付いたままのオレを意識することなく、彼女はオレの背中に手をまわし、ぽん、と軽く叩いた。
  彼女は、誰に対してもこうなんじゃないのか?

 ビルとの間に設けられたステップを渡る彼女を追いかけ、肩を抱いた。
  肩から、彼女の腰に掛けて、ゆっくりとなでる。

「さ……沢田くん!?」

 彼女の動揺を見て、オレの心は少しだけ満たされる。
  つい昨日の出来事と同じだ。
  彼女の動揺を、彼女の心が僅かでもオレに傾くことを、オレは悦んでる。
  僅かだけれど、心が満たされる。

 その、満たしてくれる何かが、昨日よりも大きくなっている。それだけ。
  それはオレにとって何も脅威ではない。

 オレは何をこんなに不安に思っているんだろう。
  考えることがありすぎて、もう何もかもを捨てたくなる。

 だけど彼女の動揺が、オレを満たしている。
  オレを襲う脅威を、不安を、薄めてくれることはないけれど。
  正体が、判らないからか?

「連絡、あった?新島から」

 彼女の右手を、彼女の背中越しに右手で掴む。手を絡ませる。

「え?だけど……」

 こんなコトされたら、動揺して当然だ。
  そう言う意味で、彼女のこの反応は予想通りだし、期待通りだ。
  それがオレの心を僅かだけれど満たす。

 この心は、残酷なんだろうか?オレはどうして満たされるのか?

「邪魔されるのは、いやかな。いやじゃない?」
「……いやだ」

 彼女と右手を絡めたまま、オレの左手は、コートのポケットの中にある携帯へと伸びていた。彼女に気付かれないように、手探りで電源を落とす。
  まるで彼女の言葉に導かれるように。

「そう、良かった。一緒だね、私と」

 邪魔されたくない。一緒にいたい。その思いがオレにも彼女にもあると。

「沢田くんちって、門限あるの?今夜、沢田先生帰ってくるんでしょ?」
「うーん……連絡すればうるさくは言わないけど……柚乃にはうるさいかな、さすがに。なんで?」
「何時まで一緒にいられるのかなって思って」

 そう言いながら、彼女はオレが絡ませた手をはずした。

「終電までだろ?でも、地下鉄の終電だぞ?その時間はもうバスないし。お前が帰れるのか?どこら辺なんだよ、住んでるマンションって」
「ん?言ってなかったっけ?星ヶ丘だよ。終電の止まる駅だって」

 一歩ずつ、オレから距離をとりながら、言葉でオレとの距離を縮めてくる。

 オレとティアスって、一体何?

「じゃあ、遅くなったらお前んちに押し掛けよっかな?」
「明るい時間ならね」

 彼女の顔に、動揺はなかった。笑顔のまま、オレとの距離は保ったまま。

「おなか空いたね、何食べる?なんか辛いもの食べたいなー」

 方向を変え、一人でエスカレーターへ向かう。
  その後ろ姿を、オレは黙って追いかけた。

 ティアスにとって、オレって一体何?

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