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W.E.M【世界の終わる音が聞こえる】 第1話(the heads) 06/11
練習を終えてキッチンに向かうと、大抵、御浜と柚乃がそこにいる。真がそれにつき合って……。
でも、今日は柚乃と秀二だけがそこにいた。
「御浜は?もしかして帰った?」
「真さんが、今日は御浜さんちに泊まるから、また明日って言ってた」
「最近、よく来ますね、あの泉って子」
秀二は勝手しったる何とやらで、勝手に換気扇を回し、側に椅子を移動し、煙草に火をつけた。
彼は向かいの開業医の次男で、N大の理学部で講師をしている。こうして時々家の様子を見に来る。
寝ぐせだらけで、もうそう言う髪型のように見えてしまう、手入れの全くされていない長髪に、中途半端に細い黒縁眼鏡。無精ひげもしょっちゅう生えている。はっきり言って、清潔感ゼロ(本人はわりと潔癖性なのだが)今どきオタクだってもう少し身なりに気を遣う。制服のままの柚乃とキッチンに座る姿は、はっきり言って犯罪一歩手前。
ちなみに、ただご近所さんなだけではなく、戸籍上は御浜の「甥」に当たる。といっても、秀二はもう今年で32になるのだが。
「まだ31です。失礼な」
「そんなにかわんねえだろうが。1歳や2歳でがたがた言うな。こんな夜中に何しに来た?」
「テッちゃん。秀二さんは夕食持ってきてくれたのよ。様子見に来てくれたの、パパに言われて」
「先輩も助教授ともなると、忙しさに拍車がかかっているようですね」
「親父は賢木先生と飲みに行ったんだよ。いつものことだ」
「そんなこったろうと思いました……」
親父と秀二はN大理学部の先輩後輩だったそうだ。そのまま二人とも院にいき、教員になった。(その間、オレも柚乃も生まれてたし、母さんも死んでたのに、金は一体どうしていたのか?母さんの実家が金持ってるのは知ってるけど、子持ちの婿を院まで行かせるか?我が親ながら謎の多い人だ……)
「御浜が先に帰るなんて珍しい。何かあったのかと思ってましたが」
「何かって?」
「いいえ。……今日はちらし寿司です。桃の節句に向けて、花まるで特集してたので、参考にしてさらにバージョンアップ版です。錦糸卵の幅も均一で完璧です」
「秀二さんて、ちゃんと大学行ってます?何で、そんな朝やってる番組見て、料理作れるんですか?」
柚乃のつっこみももっともだ。家に来るたびマニア度の高い料理を持ってくる。
「ちゃんとしたもの食べないと大きくなれませんよ?特にテツ。こそこそ毎朝ランニングしたりピアノ弾くだけじゃなく、ちゃんと栄養とんなさい、栄養を。だから筋肉ばっかついて、背が伸びないんですよ」
お前と比べたら、(真以外の)大抵のヤツは「背が低い」に分類されるっつーの……。オレはフツーだ。
てか、それより……
「……何でオレの朝の行動を……ストーカー?」
「秀二さん、いつ寝てるんですか……?」
ノーコメントかよ。
「じゃあ、私はこれで。ついでだから、御浜の家にも差し入れしてきましょうか。……テツ、何か伝言は?」
「伝言て……。別にないよ」
「そうですか。なら結構」
彼はそう言うと、たばこをくわえたまま、玄関へ向かった。
秀二がここに来たのは、親父に言われてオレ達の様子を見に来ただけなんだろうけど……。
「何なんだよ、一体?」
何か言いたげな秀二の態度が、オレの混乱を増していく。