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W.E.M【世界の終わる音が聞こえる】(W.E.M[World's end music])

W.E.M【世界の終わる音が聞こえる】 第1話(the heads) 05/11


 ……弾かなきゃ。
  御浜が、心配する。

 何とか体を起こし、電気をつける。
  母のグランドピアノの蓋を開け、赤いキーカバーを無造作にはずし、楽譜を開く。
  ショパンエチュード。確かに、面倒くさくて、難しい。けど、別に嫌じゃない。


 指、動かねえし!なんで?!


 ついこないだ、普通に弾いてたつもりだったのに。
  これが愛里が言ってた、メンタル面ってヤツかな……?
  でも、こんなことで?別に何もないのに。辛いこととか、大きなショックとか、別に何もない。

 ティアスの言った「つまんない」って台詞?

 いや、あの程度ならいくらでも言う奴はいる。
  今、彼女の言い方を思い出せば、(あの時はむかついたけど)はっきり目の前で言ってくれて、いっそ清々しいくらいだ。
  あの大学で練習してたら、いろんな陰口が聞こえてくる。
  愛里がティアスの待遇に対して怒ることをフツーに感じる程度には。それくらい、みんな苦労して入ってる。それでもさらに上を目指すヤツもいる。そんな場所。
  だから理解できる。

 ……あー。オレ、やっぱ楽しくないのかな?わかんねーよ。
  動機が不純だからな。

 愛里に教わってるのが楽しかった。
  愛里が誉めてくれるのが嬉しかった。だから、毎朝5時に起きて練習して、夜も10時までずっと練習。
  部活も何もしないで、ひたすら練習してた。

 それでも普通科高校を選んだのは(確かに県内にあまり選択肢がなかったのもあるけど)迷っていたから。

「弾かなきゃ……」

 迷ってる場合じゃない。愛里はオレの受験のこと、真剣に考えてくれてた。
  オレは期待に応えないと。
  でも、愛里以外の先生なんていらない。
  だから、オレにはこれしかないのに。

 焦れば焦るほど、オレの頭の中でティアスの歌がぐるぐると回る。

 忘れようと思っても、忘れられない。
  彼女が歌った後の周りの歓声、拍手。そして、彼女を見いだした賢木先生の満足そうな顔。
  あの御浜ですら魅了された、彼女の笑顔。

 なんか、「負けた」って感じだよな……。

「テツ、今日、ティアスに貰った楽譜あるだろ?弾いてみてよ。今日歌ってた曲だろ?」

「……御浜。何でここに?」

 立ち上がった勢いで椅子が転がる。その失敗を取り繕うように、ゆっくりと椅子を拾い上げた。
  御浜に対して、そのフェイクは意味がないと知りながら。

「良いから。初見だろ?ゆっくりで良いから、練習しながらで良いから弾いてよ。オレ、あの曲好きなんだ」

 オレが最初していたように、彼は扉の前に座り込む。
  しかし、彼の目はまっすぐオレを射抜いていた。

 あの時、歓声がやみ、学生達の波が退いた後、知り合いの強みで彼女たちに近付いた。
  新島とティアスに、真が御浜を紹介した。
  何かトラブることを期待していた。でも真の気持ち悪いくらいの猫かぶりっぷりと、元から異常なくらい愛想のいい御浜でそんなことが起こるわけもなく、滞り無く話は終わった。

 オレはもう、何も話もしたくなかった。
  それなのに、あの女がこの楽譜を押しつけてきた。
  今、賢木先生が使ったのと同じ楽譜だよ。と言って。

「何様だよ、あの女。いきなり押しつけてきて、弾けとも何も言わないで」
「弾けって言って欲しかった?」
「……なんで?!」
「弾いてよ」

 御浜の言葉に押され、オレはピアノに向かう。
  今度は、カンタンに指が動いた。

 そんなに難しい曲じゃない。
  初見でいきなり弾けるほど、オレにはテクニックがないけれど。

「50年代ロックンロールだな。賢木先生、年ごまかしてんじゃねえの?」

 たどたどしく弾きながら、ピアノに集中しすぎないよう会話をはじめる。

「鉄城さんよりは少し上なんだっけ?賢木先生、今年40だっけ?」
「…にしても、計算があわねえか。クラシックの先生が50年代ロックンロールを、ピアノとボーカルだけで、しかも芸大内で披露しちゃうのか。だから敵が多いんだな、あの人」
「多いんだ、あの人」
「多いね。良い話も悪い話も、あそこにいるとたくさん聞くよ。在籍してるわけでもない、顔出してるだけのオレがこれだけ色々聞いてんだ。中ではもっといろいろ言われてるだろうな」
「敵も味方も多いってことか……」

 賢木先生は、こんな風に弾いてなかったな。もっと……なんて言うんだろう?

「敵も味方も多いってことは、幸せなことだね。ねえ、テツ」

 ティアスの目が、オレを射抜いた、あんなまっすぐな目ではなくて……
  もっと……

「テツ?」
「え?!……いつの間に、横に?」
「てか、話聞いてた?手が止まってたし」
「聞いてた聞いてた。幸せなことだねってことだろ?敵が多いのは不幸じゃね?」

 御浜は取り繕うようにそう言ったオレの台詞を受けて、静かに微笑むと

「両方あるから、ちょうど良いこともあるんだよ」

 時々、言ってることが判らん。御浜の言うことはオレには難しすぎて。
  ただ、心地よい重さでオレにのしかかる。その強引さも癖になる。
  だけど今日は何だか心臓に悪い。まだ、鼓動が早い。

「顔が赤い。ホントに調子悪かったりして。柚乃にいっとこうか?」
「いや、いい!何でもないから。それより、真はどうした。待たしてるんじゃないのか?」
「うん、そうだね。練習、してて」

 あと10分。そう言って御浜はリビングを出ていった。

 練習曲、やらなくちゃな。
  そう思っても、先生のピアノ、彼女の歌声。絡み合って、オレの脳裏をぐるぐる回る。
  つまんないって言ったティアスと、歌うティアス。

 やっぱり、指は動かなかった。

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