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Voice【最果てから呼ぶ声】(Voice[that is called farthest])

第7章
03
 
  昼過ぎに、カホの話を聞きたいと言って、次郎が知流を連れて押し掛けてきた。

「そう言えば、次郎は拓海さんに何も言わなかったね。一番何か言いそうだったのに」

 知流の意見には大いに賛成だ。ここぞとばかりに、ぜってえ何か言うと思ってたのに、おとなしいもんだった。

「言おうとしたら止められたんじゃないですか。あんた達に。ガキが生意気なこと言ってるんじゃありませんよ。大人には大人の事情ってモンがあるんです」
「拓海さんのやってることも、大人の事情なの? 」
「父親って言う記号だけで見られたら、あの人だってかわいそうですよ。行き過ぎてるとは思いましたけど。何か、ああいう人を見ると、当分奥さんも子供もいらないって気になりますねえ」
「相手を見つけてから言え」
「……余裕ですね、コタ」

 あ、かなり余計なこと言ったかも。知流もいるのに。

「……いーいですよねええ? 」
「いいよね」

 穏やかな笑顔でそう言う知流に、思わず

「……すみません……」

 何で謝ってんだ俺は。別に何も……

「何も悪いことしてないのに、コタ。何謝ってんのさ」

 なんだよその吹っ切れた顔は。俺一人でバカみたいだろ!

「……俺は何も悪いこたしてねえ。どっちかっつーと、おまえと麻斗だな。影でこそこそ俺にもカホにも何も言わずに、クロガネのことを調べてたんだ」
「結果的にこそこそする羽目になっただけで……調べるって言ってただろ? 」
「ああ、言ってたな。結果を報告してくれなかっただけで」
「それは、悪かったって……ちゃんと話すから。昨日のことも」

 少しだけ口調が重くなる。それと同時に彼の纏っていた空気も。
 知流は、「クロガネ」のことを話しに来たのだ。おそらく、俺に。

「『何もかもに退屈していた。そんなときに偶然、あの世界へ続く扉……正確には歪みを見つけた』のだと。それがあの人の始まりだったのだと。『その時まだ十三歳だった。けれども、その世界では自分は一傭兵だった。そこで彼に出会った。現在の『天』だ。彼の望みを叶えることが、この戦争の本当の意味だ。きっと彼女には判るまい』」

 知流があの人になんと言って話をしたのかは判らないけれど、あの人は自らの目的を、彼女には一言も言わなかったその事柄を、彼には話したのだ。
 いつも、俺は彼から話を聞くことになる。彼女のことも、あの人のことも。

「この世界と、向こうの世界。その二重生活を続ける意味は……ただ、退屈を紛らわすだけだと」
「退屈?」

 次郎はその言葉を繰り返した後、黙ってしまった。

「ずっと、彼は退屈していたのだと」
「……それで?お前に……どうしろって?」
「『君は、退屈をしてはいないけれど、オレと同種の人間だ』って。『そうやって生きてるのは苦痛でしかないだろう。この目に見えない、牢獄に閉ざされた世界で』」

 牢獄…?

「なんで、そんなこと…?」
「何も執着することがないのに、ただそこに存在し、燻ってるのは、そこに拘束されているのと何ら代わりがないってことみたい。だから」
「…ああ、クロガネにつけってこと?オレと同種の人間だからって」
「どうかな、あの人はそんなもの、求めていたようには見えなかった」

 知流はそう言うと黙ってしまった。

「……ここからは、俺の憶測なんだけど」

 しばしの沈黙の後、彼はそう前置きをして話をはじめた。

「拓海さんは、怖かったんじゃないのかな?コタ達との距離の取り方が」
「怖かった?なんで?」
「さっき、拓海さんがコタの言葉で気持ちを変えた。俺にはそう見えた。でも、それまでの拓海さんは、子供に対してそんな風には見えなかった。それって、たんにどういう距離をとって良いか判らなかっただけじゃないかな?」

 知流の言ってることがよく判らなかった。

「……俺が、何を言っても仕方ないと思うんだ、本当は」
「なんで?」
「だって、コタ達親子の問題だから」

 その通りだけど、その通りなんだけど。
 次郎の言葉と一緒に、俺の頭に響いている。

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