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Voice【最果てから呼ぶ声】(Voice[that
is called farthest])
第7章
02
あの後、親父とカホは、一晩中何かを話し合っていたようだった。
ただ、何を話し合っていたかは判らない。その話し合いに俺達は誰一人関わらせてもらえず、研究室の外で待っていたから。
俺は正直、そんな話をまともに聞く事の出来る精神状態じゃなかったので、その長い長い時間はとてもありがたかったのだが。
明け方頃、親父はカホを部屋から追い出すと、どこかへ消えてしまった。彼女曰く、やはりこの部屋から「彼女の世界」へ移動が出来るらしく、そちらに行ってしまったのだと。「取引」をしたからもういいのだ、とも言った。
彼女は俺の家に戻ると言ってくれた。クロガネである親父と連絡を取るためにも都合がいいからだろう。知流の家に行ける状態だったとしても、そうしてくれたかは判らないけれど。
「身体、大丈夫か? 」
「平気よ。大した事されてないし」
薄暗い道を、知流の家からの短い間だったけど、手をつないで歩いた。少しでも長くこうしていられるように、ゆっくりと。
「そっか。なら、いいけど…」
「心配、した? 」
繋いでいない左手で、服の袖を掴んで俺を見つめる。
「当たり前だ」
ものすごく素直に、俺はそう口にしていた。
「そういやさ、親父となに話したんだ? 取引ってことは……帰れるってこと? 」
「うん。交換条件だけど。私を国に戻す事と、レジスタンスからクロガネが手を引くって事の代わりに、クロガネがレジスタンスのボスだった事を誰にも言わないって事で。要するに、向こうで何にもなかったフリしてろってこと」
「なんか随分都合の良い話だな。企んでないか、親父? 」
そう言うと、カホは笑って、
「かもしれないわね、あの人の事だから。でも、とりあえず信用してみる以外、動けないからさ……でもね、あの人、あんな子供っぽいことしてても、身勝手なことしてても、あなたの父親だわ。父親として、そんなに無責任な人ではないと思うし」
「……そうかな? 俺にはよくわからねえよ」
「あなたが判らなかったように、あの人にも判らなかっただけ」
彼女の首に、親父の手の痕が微かに残っていた。
「俺より、お前の方が、親父の……クロガネの事を怒っててもいいと思うけど」
「怒ってるよ、もちろん」
笑顔でそう言うカホ。俺の前では見せないだけか。
結局、親父は俺の言葉をどう受け止めてくれたんだろう。
あの時、カホから手を離して、彼女と話し合ってくれる気になった。それは、俺の言葉のためだと思いたい……。でも、ホントの所はどうなんだろう。
「……いつ、戻るんだ? 」
カホは、その俺の質問にただ微笑むだけだった。
彼女の手を握ったまま、玄関の前で立ち止まる。こんなのは俺じゃないみたいだ。必死にしがみついてる。
こう言うの、変われたって言うのかな。彼女のおかげで、俺は強くなったのかな? それとも……
「国が落ち着くのって……どれくらいかかるんだ? 」
「わからないわ。クロガネも言ってたけど、レジスタンスの頭がとれたからって、宮殿内での動きを操るものがいなくなったからって、民衆の不満がなくなるわけじゃないし、『天』と言う支配者がいなくなるわけじゃない。むしろ、何も変わらない。『天』に滅ぼされる危険がなくなるわけでもない。ただ、今よりは多少落ち着くはずだから、その危険も少なくなればいいんだけど……。とても、時間がかかると思う」
急に何も変わる訳じゃないってことか。仕方がないのかな。
俺が変わるみたいに、彼女の国も変わればいいのに。そうしたら、彼女はここに残るのかな。
「俺のこと、好きだって? 」
「……うん」
目を伏せ、頬を染める彼女の唇に食らいつく。
帰るな。ここにいろ。
その言葉を飲み込むのが精一杯。
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