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Voice【最果てから呼ぶ声】(Voice[that is called farthest])

第6章
04
 
 彼女を抱きしめ眠っていた内に、親父は大学に戻ったらしく、姿がなかった。そして、俺の腕の中にいたはずの彼女も。

 千紗にも確認したし、家中捜したけれど、彼女はいなかった。知流にも電話したけど来ていないってことだった。きっとまたどこかに出かけたのか、と思って考えるのをやめようとしたが、思い当たることがありすぎてどんどん深みにはまっていく。

 一縷の望みを持って夜中まで待ってみたけれど、帰ってこなかった。

「なんかあったわけ? 一緒に寝てたからてっきり落としたのかと思ってた。それとも、手え出した後で罵ったり、無視したり、吐いたりしたわけ? 」

 酷い言われようだが、今までが今までなので、千紗に言い返せない。

「てか、そもそもまだしてないし。しようと思ったら親父が帰ってきたんだよ。それに、知流のことも気にしてたみたいだし……」
「要するに、襲ったけど逃げられた……カッコワル」
「違うって。ちゃんと襲う前の段階も踏んだと言うに! ……逃げられたかな? 」
「そんなことで逃げるような人じゃないと思うけどね」

 彼女の意見に頷いたとき、突然携帯が鳴り響いた。カホからだと思って急いで取ったが、相手は澄未さんだった。

「子猫を拾ったんだが」

 カホのことを聞こうと思ったんだが、いきなり何を。しかも、その話っぷりは……。

「カホのこと? こっちにいないんだけど」

 ダイニングテーブルの向こう側で、千紗が興味ありげにこちらを見ているのを、軽く制する。

「当たり。大学の門の前にいたから。たまたま通りがかって良かったよ。すごい顔、してたからね。子犬を拾ったときのような」

 その例え、恥ずかしいからやめてくんないかな。もういい年なんだからさ。

「そっちにいるならさ、替わってくんないかな。話がしたいんだ」
「いや、今、車の中なんだ。カホは君たちにここにいることを内緒にしてくれと言うから、彼女のいないところで。彼女は家の中にいるよ。今、麻斗と一緒に調べものをしてる。……でも、きっと君が心配しているだろうと思ったから」

 澄未さんの声が妙に沈んでいるのが判る。

「ありがとう。知流は、知ってるのかな? 」

 判るけど、どうしていいか判らない。目をそらすしか。

「ああ。彼女が連絡を取っていたよ。彼の家に戻るつもりだったらしいが、今は家族が戻っているしな。先輩の家も、いきなり自分が行っても家族に驚かれるだろうからと思ってやめたようだ。それで私の家に来ようと思ったらしいが、連絡先が判らずにうろうろしていたようだ」
「なんで、大学に? 一人でクロガネを探しに行くつもりだったのか? こないだあんだけ次郎や知流に言われてたのに」
「目星がついたんだよ。だから、帰るつもりだとも言っていた」
「……そっか。でも、それならうちにいたっていいじゃねえか。なんで? あいつ、他に何か言ってなかった? 」
「……いや、何も。とりあえず、しばらく家に置いておくし、心配しなくていいから」

 それだけ言うと、強引に電話を切ってしまった。

「何か、カホのことばかり聞いてたわね。必死な感じが良く伝わってきておもしろかったけど、鈍いって言うか、周りが見えてないって言うか」
「うるさい。にやにやしながら聞いてんな。何が鈍いって言うんだよ」
「鈍いのが判らないのが、もう鈍いんじゃないの? コタちゃんらしくていいけどね。で、どうするの? 澄未さんちに行くんでしょ?」
「うん。でも、内緒にしてくれって言うから。やっぱ、逃げられたかな……? 」
「いいから、いってらっしゃい。連れ帰ってくるまで、帰ってこなくていいからね」

 笑顔で手を振る千紗を後目に、キッチンを出て行かざるをえなくなった。

「で、どうして私の家にくるんですか? 」

 忍田家の玄関(正確には忍田診療所の入口)に、取り急ぎ用件だけ説明しようと次郎を呼び出したのはいいが、しょっちゅうおじさんやらおばさんやらお兄さんやらが顔を出して賑わしい。相変わらず次男以外は、愛想のいい家だ。

 よく考えたら、澄未さんちの場所を知らないことに気付いて、知流の家に聞きに行こうとも思ったけれど、ちょっと気まずいのでここに来たのだ。
 愛想の悪い次男は、めんどくさそうにしながらも、何も聞かずに名簿を自分の部屋から持ってくると、俺をバンに乗せ、澄未さんちに向かってくれた。

 簡単に事情を説明すると、彼は少しだけスピードを上げた。

 澄未さんの家は隣接しているとはいえ、違う市にあるので、少し時間がかかる。その時間が、俺の中にある不安を増大させる。あんな態度で? 何も言わないで?

「何て顔、してるんですか。どうもあなたは考えすぎるフシがありますからね」
「お前に言われたかないよ。次郎だって相当だろ」
「お互い様です。知流みたいだと……携帯、鳴ってますよ」

 知流みたいだと、何だよ。途中でやめるなよ。しかも電話の相手はその知流だった。正直、いろいろあった後なので話しづらい。けど、次郎の手前、取らないわけには行かないし……。

 仕方なくとると、カホから連絡があったはずの知流は、何故かいつも通りの口調で、特に何も気にしてないように感じた。しかし、彼の質問があまりに突拍子もなかったので思わず大声で聞き返してしまった。

「うちの親父?! 何で? 」
「いいから。あの人、今どこにいるの? 」
「大学の研究室だよ。朝、一度帰ってきて、仕事だからって言って、戻ってった」
「そっか。ありがと」

 それだけ言って、切ってしまった。

「なんですか、相手は知流でしょう? 何で飯沼先輩の話を? 」
「わからん。あっという間だった。……あ、あれじゃねえの? たしか空手だったか合気道だったかの道場やってるって言ってたし」
「……でかい家ですねー……。滅茶苦茶儲かってませんか? 」

 塀、長っ! ま、親戚の子供とはいえ、引き取って大学まで普通に出してやれる家だしな……。
 とりあえず次郎を車に残し、玄関に向かい、澄未さんを携帯で呼び出す。

「来るような気はしてたんだけど……ホントに来るとは思わなかったよ。そんなに? 」
「何だよ、そんなにって」
「カホなら、ついさっき麻斗と一緒に出かけたよ。どこへかは知らないけど」
「澄未さん! ホントは場所、知ってるだろ。内緒にしろって言われたからかよ」
「……ごめん、でも」

 目を伏せたまま、逃げるように家の中へと戻ってしまった。
 どんなに千紗に鈍いだの何だの言われる俺だって、あの澄未さんの様子を見たらおかしいと思うぞ。

 おかしいだろ、カホも、澄未さんも。

 カホだって、突然いなくなったり、急に麻斗と一緒に出かけたりして。気まずかったから? 俺から逃げるため?

 いや、そうじゃないだろ。だってカホは答えてはくれなかったけど、嫌がってたわけじゃない。気まずいかもしれないけど、そんなことで逃げる女じゃない。

 澄未さんは? こないだから何かおかしかったけど、理由もなくあんな態度をとったりしないだろ。不器用で、何というか無骨なところもあるけど、かわいそうなくらい優しくて正直な人だ。

 なんだ? おかしなことと言えば……。

「次郎、車出せ! 大学に行くぞ!! 」
「はあ?! なに言ってるんですか」
「いいから、急げ! ……多分、カホも知流もそこにいる! 

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