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Voice【最果てから呼ぶ声】(Voice[that is called farthest])

第6章
02
 
 結局、マジメな話をしていたのは最初だけで、残りの何時間かは、ただただバカ騒ぎをしていただけだった。昼過ぎには集まっていたはずなのに、気付いたらもう夜が明けようとしていた。
 みんなでいるときには脳味噌空っぽになるくらい笑っていられたのに、いや、だからこそ今、再び俺はどうしようもないことばかり、何度も何度もぐだぐだ頭の中を巡らせる。

「……っと、聞いてる!? 」

 東堂家の玄関前で、ぼんやりと澄未さんのミニが残していった煙を眺めていた俺を、場所も考えずに千紗が怒鳴りつけた。
 仕方なく申し訳なさそうな顔をしてみせると、彼女は何事もなかったかのように話をし始めた。

「だからね、今日から三が日が明けるまで、カホを家で預かるからね、って話」
「……は?! 何言ってんのお前? 知流の家に……」

 そこまで言って、おじさんが一時退院してくることを思い出した。たまに遊びに来るだけなら別に驚かないだろうが、さすがに一緒に住んでるのはまずいよな。

「でも、家だって親父が……」
「あの人が帰ってくるわけないじゃない。たとえ帰ってきたとしても、そんなに長い間いないわよ。ちょっと遊びに来てるだけ、とでも言っとけばいいの。私の友達でも、コタちゃんの彼女でもね。知流さんちは難しいでしょ? お兄さんも帰ってくるし」
「……そうだけど」
「何よ、もっと喜びなさいよ。カホのこと口説くチャンスじゃない」
「口説くって、お前なあ。あの二人の様子を見て、そう言うこと言うか? 知流だってカホに告ってたし、あいつから女を奪えってか? 」
「そうよ、あったりまえじゃない」

 自分はリスクがないからって、簡単に言うなこの女は。
 嬉しいんだか、気が重いんだか。とにかく手の届かない奥の方で汚いものが引っかかってる。

「ま、いいけど。別に何もねえって。あの女にその気がないんだから。どうしようもねえだろ。俺、先に戻るぞ」
「なに言ってんのよ。カホが来るまで待っててって言ったでしょ? 」
「はぁ?! 今から来るのかよ。聞いてねえぞ! 」
「聞いてなくても言いました! 何ぼーっとしてんのよ」

 否定のために吐き出そうとした言葉を、ぐっと飲み込んだ。揃って玄関から出てきたあの二人には、聞かれたくなかった。

「昼過ぎには兄さんも父さんも帰ってくるからさ。その後、様子見に行っていい? 」

 始終にこにこしてる二人と、彼の言葉。それが俺の言葉を詰まらせる。俺って根が暗いっつーか、性格が悪いっつーか……臆病者、卑怯者、そんな言葉が似合いすぎて嫌になる。

「家ならいつでもどーぞ、知流さん」

 妹の明るい返事に頼り切ってしまった。

 徹夜明けだったので、どうせそんなこったろうと思っていたのだが、結局知流が家にやってきたのは夜になってからだった。

 一緒にやってきた澄未さんと麻斗を見て、初詣に行く約束をしていたのを思いだした。仕方なくピアノを引く手を止め、隣に座るカホを残して、彼らの元へ向かう。

「コタちゃん、ピアノなんか弾くの? 似合わんねえ。カホちゃんは……」

 一瞬、言葉を失ってしまうのも判らないでもなかった。彼女がピアノを弾く姿は、確実に人の目を惹く何かがあった。

「グランドピアノかよー。コタちゃんちって、もしかして金持ち?! 」
「……お前んち、でかい道場なんだろうが? 」
「澄未んちだし。カホちゃんには似合うけどね、ピアノ。どしたの、これ? 」
「親父がこの家に入ったときに持ってきたんだと。俺と千紗に教えたのも親父。別に俺は……」

 なんか、満足に弾けるわけじゃないのに、いろいろ言われるのは嫌だな。

「毎日ちゃんと練習してるのよね。そう言うの好きなんだから」
「千紗! 余計なこと……」
「怒ること無いじゃない。コタ、上手よ? 私が知ってる曲をちゃんと選んで、一緒に弾いてくれたし」

 カホまで……。
  ああ……ますます余計! そう言うことは言わんでよし!!

「君の知ってる曲? 君の世界とこちらは同じ曲があると言うことか? 」

 澄未さんの言葉に、彼女は一瞬言葉を詰まらせる。

「……クロガネが、教えてくれたの。こちらの曲だって知ったのは最近だけど」
「カホ、ピアノは好き? 」

 突然の知流の問いに、彼女は微かに顔を綻ばせて頷いた。

「コタもピアノが好きだし。何か、プロレスとかよりこっちの方がいいかな。技とかかけられないで済むし」

 彼女の屈託のない笑顔で気付いた。彼は話を変えたんだ。どうしてかは判らないけど。彼女にとってクロガネが敵なら、彼の話で顔を曇らせても何らおかしくはない。それだけ?
 騒ぐ彼らの中に入っていけない。

「何か、悪いことを言ってしまったようだな……」

 輪をはずれた俺に伏し目がちな澄未さんが近付いてきた。

「や、澄未さんは別に何も悪くないだろ。それに、知流がフォローしてるし。……澄未さんのこともさ」
「そうかな。何というか、いい子だな。それだけじゃ、無いけど」
「あんまりいい子って感じじゃないけどね」
「言葉に困るな。……うまく、言えない。あの子にも、……彼女にも、君にも」
「カホと……、俺? 」
「だって、彼女だろう? ……君が言ってたのは。一緒にピアノ弾いてるのには、驚いた。仲良さそうで、良かった……。私とは世界が違うな。とてつもなく、遠い。……似合ってるよ」
「何が? 」
「君が。ピアノに、彼女に」

 澄未さんの言葉の意味をどうしても理解できず、ただただ彼女を少しでも笑わせようと、笑顔でそれを否定し続けた。

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