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Voice【最果てから呼ぶ声】(Voice[that is called farthest])

第5章
04
 
 ……まだ、首と肩と手が痛い……。
 しかもその後、目も合わせてくれないし。何だったんだよ、あのはにかんだ笑みは!期待させんなよ!

 彼女はまだむっとした表情のまま、何とかと言った感じでイスに座り、知流は電話をかけてきた麻斗が離してくれないらしく、結局台所から出てリビングへ行ってしまった。あいつ、話長いからな……。しかも、あのメールから察するに、相当怒ってるだろうし、愚痴を聞かされてるんだろう。

 キスしたのはまずかったかも……。

「怒られて当然でしょ。誰のどこが女嫌いなのよ。このにやけた顔はなに? 」
「にやけたって言うな」
「ああ、もう、こんな間抜け面が兄かと思うと……」

 わざとらしくしななど作ってみせる。しかも、そうやって人をさんざんからかったあげく、「携帯が……」なんて言いながら台所を出ていった。絶対男だ。女だったらここで話すはず。

「……この人、麻斗の彼女じゃないの? 」

 携帯はまだカホの手の中だった。彼女に責められるのは……。

「違う。姉弟みたいなもんだって言ってた。遠い親戚らしいけど」
「……コタの彼女なの? 」
「違うって」
「用事って、この人と……」
「だから、違うって。澄未さんとはたまたまゲーセンで会って……」
「澄未さん! 名前で呼んじゃうんだ。普段のコタからは信じられない。私と千紗くらいだと思ってた」

 ああ、もう……。ああ言えば、こう言いおってからに……。

「何でお前にそんな風に怒られなきゃいけないんだよ。勝手だろ、俺の? 」

 あ、ずるいな。黙って非難がましい目で見つめるのは。

「関係ないだろうが」
「コタに関係なくっても、私には関係あるの」

 超こええ。何で怒鳴られなきゃいけないんだ。……頼むよ、俺は……、

「ほっとけよ。頼むから、ほっといてくれ! 」

 お前のこと、気にしたくないのに。

「……お前は、知流のことだけ言ってりゃ良いんだよ! 」
「何で、知流? 」
「何でって……」

 告られてたじゃん。お前だって、好きかもって言ってたじゃん。なに言ってんだ?! こいつ。確かに、覗き見して勝手に知ってるのは俺だけど、そんな言い方、ないだろうが。知流のこと、なんだと思ってんだ。
 それに、俺は……?

「お前、知流のことを好きだって……」

 言葉を吐き出すことが出来ないように、彼女は自らの唇で俺の口を塞ぐ。机の上で、俺の手を取りながら。

 彼女の手は乾いていて、触れているとうっすらしみこむ微かな汗が、お互いの手をより深く密着させ、その感覚が何とも心地いい。いつもならその感覚をゆっくりと堪能するところだが、彼女はそうさせてはくれなかった。
 乾いたままの手を、すぐに胸元で組んだ。

 彼女からさっきまでの威圧感は消え去っていた。

「……そうやっていつも通りにしてりゃ良いのに。ほら、これやるから」
「何、これ? 」
「……土産。海がないって言ってたから。知らないだろ。イルカだよ」

 小さなイルカの形をしたぬいぐるみを手渡す。どうして良いか判らなくて、何かしたいけど、何をして良いか判らなくて、とりあえず隣にいた澄未さんが可愛いって言ってたから買ってみただけ。
 彼女の国には海がなくて、テレビで見た沖縄の海にいたく感動していた。だから本当は見せてあげられると一番良いのだけど。

「ありがと……どうしよ、嬉しいよぉ」

 多分、彼女はそれが何かもよく判っていないのだろうけど、それでもイルカを抱きしめ、零れそうな笑顔を見せる。
  多分、俺は一度も笑ってない。それでも彼女は微笑んでくれる。

「ごめんごめん。麻斗ってば、話長くてさー。よく聞いたら、澄未さんはデートじゃないとか言って……コタ? 」

 俺は何かおかしいところでもあったのだろうか。幸いにも、彼は今ここで何があったのか気付いていないらしく、ただ不安げな顔で俺を見ていた。

「なんだよ。……俺、何か変か? 」
「うーん。変かな。どこがって言われると困るけど」

 変だろう。確実に、変だ。

 ホントは、すげえ動揺してる。こんなことされて、こんなことして、しかも知流がいるのに……、なおかつ俺ははっきりと、彼女を好きだと自覚してる。友達を目の前にして、必死で女の気を引こうとする自分がいる。友達の目を盗んで、女に手を伸ばす自分がいる。

 最悪だ。こんな関係。俺一人が惨めで痛い。昔からそうなんだ。

「カホ。コタが来たばっかで悪いけど、そろそろ戻ろうか。あまり無理はさせないようにって次郎にも言われてるし」

 彼が腕時計を見たので、つられるように壁に掛けてあった、少し早い時計を見上げる。すでに二時を回っていた。三週間ぶりくらいに歩いたんだもんな。疲れてるよな……。
「うん。明日も知流の家に来るんでしょ? 」
「歩けるんだから、次はコタの家に行けばいいんだよ」
「そうだね」

 何言ってんだか、この二人は。あまりに似合いすぎてて、そして、あまりにこの世界に似合わなすぎてて……とコタもなく遠く感じる。一対の人形のような整った美しさ。外も中も。

「知流さん! もう帰っちゃうの? 泊まってけばいいのに」
「また今度ね。行こうか」

 電話を終えて、台所に顔を出した千紗の言葉を振り切り、彼らは家を出る。
 家から離れていく彼らから、微かに俺の渡したぬいぐるみの話が聞こえると、無性に後ろめたい気持ちになった。

 好きとか嫌いとか、奪るとか奪らないとか……めんどくせえよ……。

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