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Voice【最果てから呼ぶ声】(Voice[that
is called farthest])
第5章
03
港から帰る人並みを避けて、郊外にある鉄板焼の店に入って酒を呑んだ。
普段はぎこちない小泉さんが、酒が入ると弾けてしまうのにはさすがに驚いた。遊園地でのはしゃぎ方なんか、可愛いもんだった。その恥決ぷりのおかげで随分楽になったけど。
適度に気持ち良くなったところで、小泉さんが家まで送ってくれた。酔っ払い運転なのがかなり不安だったが……。ちょっと目が座ってたし。
もう少し一緒にいたかったけれど、「麻斗がうるさいから」と言って、彼女は苦笑いした。
家の前についた時には、もう十二時をまわっていた。
「小泉さん」
酒のせいなのか、気分が良くなったからなのか、俺の顔は緩みっぱなしだった。
「澄未でいいよ。出来の悪い弟にそんな他人行儀で呼ばれるのは、何だか気持ちが悪い」
「なら、俺のこともコタって呼んで。名字で呼ばれるの、好きじゃない」
その理由を悟ったのか、彼女は黙って頷いた
「弟って言うけど、今日のはデート。誰が何と言おうと。麻斗にもちゃんとそう言えよ」
「わかったよ、酔っぱらい。…その手は? 」
差し出した手を見つめ、訝しがる澄未さん。
「握手。感謝してるし、ね。澄未さんのおかげ。デートしてくれて、ありがとうって」
多分、彼女も酔っていたのだろう。俺の手を握ると、そのまま俯いて
「デートってのは、握手で終わるものなのか? 」
「うーん……違うかな?」
酔った勢いもあったし、麻斗への嫌がらせもあった。もちろん、多少遠慮もしたけれど。
手を握ったまま、左手で彼女の顔を引き寄せ、頬を掠めただけの軽いキス。
「そんなこと、簡単に言ったらダメだよ? 普通はこっちだけど」
わざとギリギリまで顔を近付けて、親指で唇に触れる。
「いいんじゃないか? デートだし」
その言葉を受け、押し付けるように彼女の唇に触れる。
「麻斗じゃなくても心配になる、それ」
澄未さんは苦笑いをして俯いた。
「もっと嫌な顔でキスするかと思った。女が嫌いだって言うから」
「そう? 澄未さんのこと好きだよ。女嫌いはまだしばらく治んないかもしれないけど、澄未さんは別」
「好きな女も出来たことだし、ね」
そう言われると、さすがに照れる…。
彼女は俺の顔を見ることなく、俺の足下にあった土産に視線をうつした。こんな近場で土産って言うのも変だけど。
澄未さんは、キスしてから俺の顔を一度も見ずに帰っていった。
あんなこと言ってたけど、麻斗に対して後ろめたかったのかもしれない。まだ答えられないと言ってたけど、遊園地で一緒に麻斗への土産を買う澄未さんは、ホントに楽しそうだった。
澄未さんのこと好きだって言うの、ホントだけどな。カホのことを好きって言うのとは、違うけど。
知流とカホを置いて、あの場から逃げたのは良かったのかもしれない。彼女も知流のことが好きなんだ。それを現実として突きつけられたら、多分俺は元通りだ。
知流に対する後ろめたさ、彼女に対する思い、全部黙ってれば、きっとうまくいく。俺はきちんと女を好きになれる。そのうち、俺を気にとめてくれてる彼も彼女も、祝福してくれる相手が見つかる。憎むことしかできないわけじゃない。
……明日には、いつも通り彼らの前に立てる。あいつらが一緒になることになっても……何とか覚悟を決めないと。
今日はもう、あの二人の顔は見ずに寝てしまおう。
「ただいま」
奥の台所の明かりがついていたので、千紗が帰ってきてるかと思って声をかけたのだが、何故か話し声が聞こえる。
「何やってんだよ……、お前ら三人して、何でここ? 知流んちじゃねえの? 」
知流と千紗と……カホ。三人でケーキとクリスマスっぽい料理(と言ってもさすがに鳥は鶏だが)を囲みながら、口々に俺に「お帰り」という。誰も質問に答えねえのかよ、と思ったが
「カホがね、コタちゃんがきっと帰ってくるから、ここで待ってて良い? って言うから、待ってたのよ。……何よ、酔ってんの? 」
俺の様子を見て、一旦手渡してくれたシャンパングラスを取り上げ、コップに替えてコーラをついでくれた。
それにしても……勘弁してくれよ。俺の決意(? )は?
「やってられるか」
「おっさんだわ、コタちゃん」
台所に残る最後のイスに座り、正面に座るカホと目を合わせて思わず微笑んだ。彼女もまた、少しだけはにかんだ笑顔を見せてくれた。
と同時に知流の携帯が鳴る。
「あ、ごめん。麻斗からだ、ちょっと出るよ。……もしもーし」
「そう言えば、コタの携帯、電源きれてない? みんなに何度かけてもらっても繋がらなかったから」
カホにそう言われて、あの時電源を切ったままだったのを思い出す。
「電源切れてたみたいだ。気付かなかったんだよ、悪い。用があるって、麻斗から聞かなかった? 」
彼女の目の前で電源をいれたとたん、メールが入る。写真がついてるせいか、開くのに時間がかかる。
「聞いたけど……。遅かったから。あの、何て言うか……」
「カホ、麻斗が替わってくれって。何かコタがいるなら、とか言うんだけど? 」
「麻斗が? ……もしもし? うん。コタと? ……へえー……」
「コレハナンデスカ? 」と写真付きのメールと、目の前で電話をする彼女の目が語っていた。
「コタ、小泉さんとデートしてたんだって? 楽しかった? あと、そっちの携帯、見せて」
何とか開いた写真を消そうと思ったのだが、そんな隙を彼女がくれるわけがない。豹変していくのが手に取るように判る。
「……はは、顔が笑ってるけど、今から何をなさるおつもりですか? 」
「ラーメンマン☆」
く……屈辱的! あえてその技を選ぶか、お前は。しかも漫画だ、あれは。(いや、俺が読ませたんだが)
「カホって、強かったのね。ケガしてたからおとなしかっただけで」
千紗は俺の携帯を拾い、小泉さんと二人で写ってる写真を何故か感心したような顔で見つめたあと、興味深そうに様子をうかがっていた知流に手渡した。
「コタってさ……」
「何だよ……ぁう゛ぅ……」
「そんな脂汗かくほど痛いなら、声出せばいいのに」
汗で返事。
「コタって、女の人が苦手なわけじゃないんだよ。確かに、そんなに好きではないだろうけど……、自分が思ってるほど酷くない。君が怖いのは……他にいるよ」
彼の言葉に、誰も応えようとはしなかった。
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