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Voice【最果てから呼ぶ声】(Voice[that
is called farthest])
第4章
03
遅い昼食をとるために入った地下街のマックでも、やはりカホと知流は仲良さげに話を続ける。
正直、見てるのはもう不愉快だった。
「あれ、カホちゃん? もう出かけてもいいの? 」
女連れの巨大な男がカホと知流の間から顔を出す。この不愉快で不愉快で、胃液が逆流しそうな時に、よりにもよって、こいつか……。
ただ、横に連れてる女は小泉さんではなく、学校で一緒にいるのを何度か見かけたことのある女だった。
「ええっ? なにこれ。飯沼くんって彼女いたのぉ? 東堂くんにも。うっわー」
何人目だったか知らないけど、もう少しまともな女とつきあえよな、麻斗も。千紗は黙ってるけど、かなり不愉快な顔して必死で目を合わせないようにしてるし、知流もにこにこしてるけど相当疲れてるぞ。判ってるだろうに。大体、なんでこの女がオレ達のこと知ってるんだよ。
「……コタ、知り合い? 」
笑顔で俺にそう聞いてきたのは、知流の隣に座るカホだった。
「……いいや。怖いぞ、お前」
「いやあ、カホちゃん……俺を睨まないでよ。あのさ、きょーこちゃん、この人達、多分そう言うんじゃないんじゃないかなあ。こっちの子はコタちゃんの妹だし……カホちゃんは……そう、知流の親戚なんだよ。俺も何度か会ったことがあるし」
「へえー。じゃ、噂通りフリーなんだ、飯沼くんて」
俺かよ!
「ちょっと、きょーこちゃん。俺がいるでしょ? なに言ってんだよ」
「やだあ、麻斗くんとは別モンだって。目のホヨーってヤツ? 」
はいはい。俺はそう言う存在ですよ。別にこんな女になんと思われててもかまわないけどさ。
「……ちょっと、麻斗」
「カホちゃん、俺のこと睨まないでよ。判ったからさ。……知流もね」
黙ってにこにこしてるだけかと思ったら、彼の視線は麻斗を捕らえて離そうとしなかった。
「麻斗くん、紹介してよ」
「……ごめんね、きょーこちゃん。俺、用事あったの思い出しちゃった。ねえ、コタちゃん。一緒にバイトに行かないと」
「え? あ……? 」
なに? どういうこと? ぽんぽんと俺の頭を軽く叩く麻斗の顔を、ぽかんと見つめることしかできない。
「ちょっと! そんなこと言ってなかったじゃないのよぉ! 今日何日だと思ってるわけ? 12月24日よ!? 24日! 」
「うん。だから、ごめんって。でも、もう時間ないからさ」
彼は組んでいた腕をほどき、あくまで笑顔のまま、ひらひらと力無く手を振ってみせた。
「なに考えてんのよ! 」
「ごめんねえ。また連絡するからさ」
彼女がそこから立ち去るまで、辛抱強く手を振り続けた。これ、絶対別れるな……。なんか、麻斗がころころ女を変えてる理由が判ってきたぞ。
「カホちゃん、ケガ治ったんだねえ。デートしてんの? おまけ付きで」
「あんた、よく何もなかったような顔してられるわね」
さすがに睨み付けるのはやめたが、彼女の大きなため息は側で見ている俺の方が心臓に悪い。
「いやあ。カホちゃん、怖いなあ。可愛い顔してんだから、もっと可愛く怒りなよ」
「何よそれ。私はこういう風にしか怒れないの」
やっぱり、少し顔を赤くしながら、麻斗から目をそらし、顔を伏せる。
「いいけどね。まだ可愛いから」
ちらっと知流を見てから、苦笑いをしてみせる。側の机から勝手にイスを借用し、狭い通路に並べて、無理矢理同じテーブルに入る。
「デート? 」
「……だから、一緒に出てきただけだって。今日は澄未さんはどうしたの? さっきの女の子、怒らせちゃって良かったの? 」
やっと穏やかな顔で麻斗の方を見た知流に、彼は作り物の笑顔を少しだけ本物に近づけた。
「ああ、いいのいいの。何か急にさめちゃってさ……。それに夜、澄未と約束してるから、どっちにしろ怒らせてたんだよね。まっ昼間に会ってホテルに直行でハイサヨナラじゃ」
「夜から? 」
「うん。いま、バイト中だからさ。夜には帰ってくるって。おじさんもおばさんも出かけてるし……」
ああ、一緒に住んでるんだっけ。なに考えてるか手に取るように判るな。そのエロ顔は。知流とカホも一緒に住んでるわけだし、麻斗の家よりずっと二人きりになる時間は長いはずだし……カホは、多分抵抗しない。知流は彼女が好きで……、条件は揃ってる。
何とも思ってなけりゃ、邪魔する必要もない。
「麻斗も一緒に来る? 夜、イルミネーション見ようと思ってきたんだけど」
「もちろん、そのつもりだって。こっちの方が楽しそうだし? 大丈夫、ちゃんと二人きりにもしてあげるからねー」
知流の頭をつかんで、ぐしゃぐしゃになるまで撫で回していた。「違うってば」と叫ぶ知流の言葉など聞こえないフリだ。そして、カホもその言葉を聞かないフリ。
風船に針を突き立てられた。でも割れることなく穴が空いて、針はじわじわと奥に入ってくる。
「そんなことより、買い物行くって言ったじゃないですか。カホの服、買お? 」
「うん。ありがと」
千紗が知流の腕を引っ張り、引き寄せる。カホはその様子を見ながら、ゆっくり立ち上がる。
「……機嫌、悪い? まあ、あんなこと言われちゃ仕方ないか……」
「別に。いつものことだし」
彼女の気遣いに少しだけ心が揺れる。
「コタちゃん、モテるからねえ。顔だけは良いし。カホちゃんもそう思うでしょ? 」
いつまで経っても立ち上がろうとしない俺を、無理矢理立ち上がらせる。何というかこの体格差だと、女みたいで嫌だな……。こいつがでかすぎるだけなんだけど。
「顔、ねえ……。クロガネと変わんないもの。別に? 見慣れてたって言うか」
そう言えば、最初の時、俺とクロガネを間違えてたっけ……。見慣れてた、とか言われちゃったよ。一応、いらんけど自慢なんだが、この顔は。
「良いから、行こうよ」
彼女は両手でそっと俺の右手をとると、そのまま手を引いて、店の外で待つ知流達の元へ連れて行った。
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