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Voice【最果てから呼ぶ声】(Voice[that
is called farthest])
第4章
02
たった三日間、知流の家に行かなかっただけ。それなのに随分長い期間だった気がする。
あの日、家に戻ってくるまで、俺も彼女もいつも通りだったけど、どうしても知流に対して後ろめたいような、何か引っかかるものがあって近寄りたくなかった。だからイブの日に千紗に連れられて知流の家に行くのにも、理由があったからなんとか行けたのだ。
彼女のケガが治ったと、次郎がそう言ったらしい。
知流の家に行くと、知流と一緒にリビングでしばらく待たされた。普通に話をしていたのだが、どうしても何だか申し訳ないような気持ちでいっぱいになり、何を話していたのか全く覚えていない。カホと話をするのは嫌だったが、今だけは早く降りてきて欲しいと願ってしまった。
何をしていたのかと思えば、千紗はカホに自分の服を着せていたらしく、いつものパジャマがわりに着ていた知流の部屋着ではなく、ミニスカートを履いてリビングに入ってきた。ちょっと新鮮。
「良いね、そう言うの。初めて見たけど」
極自然にカホを誉める知流の言葉に、千紗は少しだけ表情を引きつらせ、カホはいつものように白い顔を赤く染める。ここで簡単に女を誉められるのが知流だよな……。本人にあんまり興味がないだけで、このタイプは(がっついてない分、余計)相当モテると思うけど。
好きかもしれない。それが彼女の答えだ。あの態度がそれをはっきりさせる。
なにもおかしくない。自然な流れだろう。
「クリスマスだし、カホも家の中ばっかりで退屈だったみたいだし、みんなで出かけようかと思って」
……悪巧みの予感。きっちり外堀から固めていくな、我が妹ながらちゃっかりしている。
「出かけて来いよ。知流もそのつもりだろ? 」
珍しくまともな格好をしているんだ。もとよりその予定だったはずだ。話を持ちかけたのは千紗かもしれないが。
「え? ……うん。コタは来ないつもり? 」
「良いよ、めんどくせえ」
邪魔になるだけだし。ホントは、千紗も一緒じゃなく、カホと二人だけになりたいだろうけどな。
「どうして? 一緒に出かけようよ」
隣に座る知流と、リビングの扉から一歩も動かなかったカホが同時に訴える。……なんでお前らが。
「その格好、みっともないから着替えてきてね」
千紗の言葉に、どんな顔して良いか判らないまま部屋を出る羽目になった。なんか、掌の上で踊らされてるな……。
部屋にこもったまま顔を出さないことも考えたが、三人して家の前で待っていたのでそう言うわけにもいかないようだった。仕方なく、文句を付ける千紗好みの格好をして(とりあえずジャージでなければ良いみたいだが)出ていく。
滅多に雪の降らない地域だけど、今日は朝から小雪がちらついていた。一年に一、二度しか降らないので、寒さを感じるだけでもテンションが上がる。上がるけど……気は重い。
「カホ、これ着てろ」
狭い玄関に無理矢理三人で腰掛け、話している中に割って入る。俺の持ってるものでなるべく小さめの紺のロングコートをカホに手渡す。彼女はこの寒いのに、コートも着ずにミニスカート。それから肩の出てるニットを着てた。ありえねえな。
「ありがと」
俺の顔を見て、笑顔でそう言ってくれた。ちょっと、自分の中で気まずかったので、余計に沁みる。
「行こうか」
知流はいつも通りだった。彼の先導で歩いて地下鉄の駅まで向かう。ブーツで歩く千紗と、スニーカーだけどケガが治ったばかりのカホに気を遣ってゆっくり、四人でたわいもない話をしながら。
しかし、名駅に着いた頃からカホと知流の二人で話をすることが多くなってきた。彼女は俺と二人でいるときにする話と全く違うことを、彼と話す。その様子が妙に不愉快だった。
駅前通の人混みを歩いている内に、少しずつ、彼らとの距離が開いていく。
「コタちゃんてさ、何て言うか古いよね。パパの子なのに。コートを貸してあげる、なんて」
カホ達には聞こえていないだろうと思っての、千紗の言葉だった。
「なんだよそれ、その『パパの子』っつーのはどういう意味だ」
あの親父とイチイチ比較してんじゃねえ。
「パパは年をとってからもモテるけど、コタちゃんは若くて綺麗な内だけよね。今なら黙っててもモテるから。だからどうしようもない女にしか引っかからないのよ」
「うるせえよ。別にどっちでもいいっつーの。特に困ってないんで」
「困るでしょ? カホにも嫌われちゃったら」
「別に? お前こそ良いのかよ。あいつらを二人きりにしといて。知流がカホのことを好きなのなんか……」
「知ってるわよ。見てれば判ることじゃない。いくらなんでも拾わないでしょ。初めてじゃない? 知流さんがあんなに一人の女を追っかけてんの。それに、似合ってるしね、あの二人。古風なとことか、重いとことか」
「……カホも知流も、エライ言われようだな……誉めてねえよ、それ」
「そう? 知流さんのことは誉めてるんだけどな。何て言うか……安心してたのよね、誰があの人に言い寄ってきても、あの人とは世界が違う気がしてたから」
「カホと知流は似合ってる気がするけどな、俺は」
「コタちゃんにもそう見えるんだ、やっぱ」
「真面目っつーか、堅いっつーか……。でも、カホは」
「違うって言うの? 」
いつの間にか、随分遠くに離れてしまっていた彼らを追いかけるように、少しだけ早足で人混みの中に入りながら、それでも話を続ける。
「他の女と、なにも変わらねえ」
「うそよ! そんな風に思ってないくせに」
「だってあいつ、俺が触っても、抱きしめても、それにキスしたって受け入れたんだぞ」
「なにそれ、いつの間に? 手が早いっつーか……コタちゃんから? 何かあったの? ああ、もう……あの二人、どこ行ったのよ! 」
あ、余計なこと言ったかも。まずいなー。
「コタちゃんてさ、カホのこと好きなんでしょ? だから、今日だって無理矢理連れてきたのに」
「んなわけあるか。女なんか好きになるわけないだろ。……お前、ホントは知ってるんだろ。昔、何があったか」
千紗の部屋の隣で、毎日のように声がしていたのだから。俺も彼女もなにも言わなかったけれど。彼女だって、なにも知らない年齢じゃなかった。
彼女の次の言葉を遮るように、俺の携帯が鳴り響いた。
『コタ。いま、どこにいるんだよ。気付いたらいなくなっちゃってたからさ。はぐれたのかと思って』
「……良いからお前ら、そのまま二人で……」
「知流さん? 今そっちに行きますから、動かないでくださいね」
俺から携帯を奪い、鬼の形相で睨み付けると
「ばっかじゃないの? 好きなくせに。気ぃ使ってどうすんのよ」
「だから……んなわけないって……」
俺が、カホを? 女を好きになるって? ありえないっつーの……。
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