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Voice【最果てから呼ぶ声】(Voice[that
is called farthest])
第3章
04
仕方なくカホの部屋に入り、電気を消したまま鞄と雑誌を探す。だが、結局見つからなかったので、彼女がよく寝ているのを確認して電気をつける。
ピリピリしてるわりには、無防備っつーか……なんというか。男が簡単に部屋を出入りできる状況って言うのはどうよ。
俺は、正直怖いんだけどな。自分の部屋に一人で、鍵をかけずに寝ることは。
朝はやっぱり起きられなくて、最初は誰かに起こしてもらっていたのが、あの日以来、誰よりも早く目覚めるようになっていた。
鍵のかからない部屋で寝ることが怖くて、眠れない日々が続いたこともあった。扉の前にバリケードを作ったり、ノブにヒモを括って開けられないようにして、自分を何とか安心させて眠るようにしている内に、父が部屋に鍵を付けてくれた。それから他の場所でも、俺は誰か信用できる人間が側にいないと眠れなくなっていた。
いくら知流の家とは言え、知らない女が同居するこの場所でうたた寝するだなんて、確かに今までの俺にはあり得なかった。
彼女がケガをしていることと、彼女が脅えていることが俺を安心させる。
でも、本当に脅えてるのか? 俺がそう感じているだけじゃないのか?
少なくとも、この無防備な状況を見るとそう感じる。
気持ちよさそうに寝ている……様に見えた。彼女の枕元に転がる雑誌と、その影に隠れて見辛くなっていた枕の下に、使い込まれた小さなナイフを見つけるまでは。
ナイフに残る無数の傷跡や汚れが、歴史を物語っていた。背筋がぞっとするような。さすがに、俺でもここまではしない。これがピリピリしてるってことかな。
……そうだよな、こんなケガ、してるんだもんな。
彼女が俺に殴りかかってきたとき、包帯がほどけかけていたのを思い出し、布団から出ていた左腕に目を向けた。ほどけていたはずの包帯は、不規則に巻き付けられ、立て結びで縛ってあった。
多分、知流が縛りなおしたんだろう。あいつ、不器用だからな。
彼女を起こさないように、そっと腕を持ち上げ、包帯を巻き直してやる。
「ん……」
微かに唇が動き、寝ているくせにケガした部分をかばうような、妙な寝返りを打つ。
眠る女は、俺になにもしやしない。なにも怖くない。
彼女の身体に触れないように、起こさないように、音を立てずに顔だけをそっと近づける。
乾いているけど、柔らかい唇だった。
ほんの少しだけ彼女の唇を湿らせ、部屋を後にした。あの時、オレに跨ってきた女に対して向けた自らの眼差しを思い出し、酷く後悔しながら。
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