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Voice【最果てから呼ぶ声】(Voice[that is called farthest])

第3章
03

「コタちゃん。私、もうそろそろ帰るよ。明日、友達と約束してるのよ。それとも……泊まってく? 」

 カホの部屋になってる客間のちょうど真下にある居間で、いつの間にかテレビを見ながら眠ってしまっていたらしい。携帯を見たら、もう十一時だった。

「これ、お前がかけた? 」

 俺の背中には無造作に掛布団がかけられていた。畳の上で俯せて寝ていたので、顔に妙な痕がついている。

「ううん。知流さんじゃないかしら。コタちゃんが気になるからって、三人で話してる時に降りてったの」
「あっそ。俺、ちょっと知流に話してから帰るから、先に帰ってろ」
「判った。カホが寝てるから静かにね。ちょっと疲れてたみたい」

 ほら見ろ。まだ身体が疲れてんだから。次郎だって、あまり大騒ぎするんじゃないですよって、ついこの間、注意してたばかりなのに。

 階段を昇り、先に奥にあるカホの眠る客間に向かう。古い日本家屋なのだが、今いる部分は増築された(とは言っても二十年くらい前らしいけど)部分なので、引き戸ではなく、扉だ。
  いま気付いたけど、ここの家の扉には鍵がないな……。女が一人で寝てるって言うのに客間の扉は簡単に開いてしまった。

 知流がまだいるかと思い、覗いたが、いなかったので、月明かりに照らされた部屋を後にする。
 そして、そのさらに奥にある知流の部屋に向かう。この部屋も鍵がないな。一人暮らしみたいなもんだし、気にならないのかな。

「なあ、寝込みを襲ったりしないのか? 」
「入ってきていきなり、なに言ってんだよ。そんなこと、出来るわけないだろ? 」

 何を想像してるんだか、やっぱり顔をまっ赤にして、ベッドから起きあがる。

「だって、鍵ついてないし。超無防備。襲えと言わんばかりだ。お前、あの女が良いんだろ? 」
「良いけどさ……。あの子が脅えてるの、知ってるくせに」

 隣に座る俺の目をまっすぐ見つめる。まるで彼女のように。いや、彼女が彼のようにとでも言うべきか。

「助けられたくせに、嫌な感じじゃねえか。それに俺は女は……」
「信用してないって言うんだろ? でも、コタが二人いるみたいだよ。だからかな? 話してて、気負わなくていいって言うか」

 その言い方だと、俺みたいだからカホのこと……って聞こえるんですけど。

 でも、気負わなくて良いって言った知流の気持ちは、何となく分かる。この物腰の柔らかさのせいであまり気付かれないけれど、意外と人見知りだし、テリトリーの中に入る人間を弾くハードルは、見た目よりも遙かに高い。実際、俺や麻斗くらいかもしれない、同年代できちんと話をする友人は。年齢関係なく友人がいるのはすごいけど。

「コタも、平気だろ? カホのことは。いつもならもっと酷い。カホも、コタがちょっと怖がってるのを最初から判ってたみたいだし」
「そう言う話、するんだ」
「たまにね」

 俺達が帰った後は、この広い家に二人きりなんだ。結構、重い話をしてるんでないの? 

「コタの話は……多いかな。それから、彼女の来た世界のこととか。少しずつだけど、信用してくれてるみたい」
「嫌な思いはさせないようにするって」

 そう口にしてから、余計なことを、と後悔した。

「うん。そうだろうね。今ちょっと精神的にぴりぴりしてるみたいだし。裏切られたから余計に辛いみたいだ」
「……裏切られた? 」

 知流はベッドの向かいにあるイスに座り直し真正面から俺を見据える。

「彼女の敵のクロガネってね、叔父に当たるんだって言ったよね。でも、血はつながってない、叔母の旦那だから。でも、嫌いじゃなかったって。宮殿にいるときも、決していい人ってわけじゃなかったけど、堅苦しい宮殿でプレッシャーかけてくる年寄りなんかより、ずっと話の分かる大人だったって。七年くらい一緒にいただけだったけど、いつしか……」
「クロガネが味方だって思ってたってこと? 」
「うん。彼女の口振りから察するに、彼女にとって宮殿が居心地のいい場所ではなかったみたいだし。その中で数少ない心を許せる人間が、彼女の家族、義兄、それから……」

 クロガネだった、というわけだ。

「でも、クロガネは裏切った。国で王室に入りながら、地下組織を作っていた」
「地下組織? なんのために。王室に入ったなら、王室を潰すためのモノじゃあるまい」
「彼女にとって結果は同じだったけど、ちょっと違う」

 無言で俺はクエスチョンをだす。

「彼女のいた世界はたくさんの国が集い、それを統一する唯一の存在『天』がいる。クロガネはその支配者を倒すための地下組織を作っていた」
「王の中の王ってことか。そんな存在を倒して、自分がそれに成り代わろうってか」
「……どうだろう。カホはそうかもしれないって言ってたけど、そうじゃないかもしれないとも言ってた。今の『天』は、本当の『天』ではなく、略奪帝なんだと。今、あの世界はその略奪帝によって恐怖政治が敷かれ、次々と滅ぼされている。だからかも、って」

 そう言った知流の顔に翳りが見えた。

「何でだよ。だったら、別にいいじゃねえか。そいつが悪い奴なんだろ? 一概にクロガネが悪いってわけじゃ……」
「でも、そんなことをしてたら、いつか彼女の国は滅ぼされる。それに彼女の国は絶対に天には逆らえない。だから、天に逆らわないで密かに生きるしかないんだ。それが国を守ると言うこと。だからクロガネの行為はどちらにしろ裏切り行為なんだ。彼女は王女としてそれをやらなきゃいけない。だから……」

 そんなこと、言われたって……。突拍子もないし、世界が違いすぎるし、重すぎてよくわかんねえよ。カホだって、そんなモノ背負ってる所なんか、全然……。
 みんなでいるときは、知流とカホの距離はそんなに近くないって感じてたけど、二人きりの時は違う顔を見せるってことか。

「口ではクロガネを敵だと、始末しようと言うけれど本当はそうじゃないんじゃないかな。すごく無理してるって言うか。裏切られたから、人を信用できないのも仕方がないし」
「……だから? 」
「さっきみたいな態度、良くないよ。わざと怒らせたりして」
「あれは、……いろいろあるんだよ。いろいろ」
「いろいろねぇ……」

 なんだその含んだ笑いは。

「別に良いけどね。コタ、カホには少し優しいからさ」
「そうか? いつも通りだよ」

 なぜだか判らないけれど、必死に否定する自分がいる。彼がいつもと少しだけ違うからだろうか。

「……それより、俺の鞄、どこだ? 」
「ああ、ティアの部屋だろ? ずっといたのに」

 話を変えようとして、かえってでかい穴、掘っちまったな……。

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