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Voice【最果てから呼ぶ声】(Voice[that is called farthest])

第3章
01

 どこでどう、何を間違ったのか知らないが、とにかく最初はやっぱり千紗だった気がする。

 まず、扉を開けた千紗がカホのフォローをしていた俺に感激(? )し、その後に入ってきた知流も何故か同じリアクションを見せ、次郎は保護者ぶって「成長しましたねえ」などとほざき、麻斗は「手が早いし、横取りだよ! 」などと的はずれなことを言っていた。

 確か全員、俺が病的に女を嫌悪してることを知ってるはずだが、どうにも誤解が生じているようだ。

 それはともかく、千紗が知流にカホの看護を手伝うと申し出、知流ももちろん(カホに気遣って)それを快く受けた。そこまでは良いのだが、その後何故か「コタも大丈夫そうだし」と言う話になり、一体何が大丈夫なのか判らないまま、目の前に今日会ったばかりの女を置いて、夕飯を食っている。

 何が、大丈夫なんだろうか……。

「なあ、変じゃないか? 」
「何がです? それより、箸をねぶるんじゃありませんよ、みっともない。最近の若い子はまともにご飯も食べられないんですか? 姫も、箸はこうです、こう! 」

 次郎にベッドの上で握り箸の矯正講座を受けさせられてる、カホも変だ。

「いや、箸がどうのこうのより……この状況がよぉ」
「語尾によぉよぉつけるのって、名古屋弁かなぁ? 」
「えー? 普通じゃないです? あ、でも知流さんて、そう言うの出ませんもんね」

 だから、名古屋弁がどうこうではなく! 客間に炊飯器とちゃぶ台(今どきあるのがすごいぞ、日本家屋)持ち込んで、ケガ人が寝てるベッドの前で広げて、家人以外のモノが飯食ってるこの状況が!

「……ねえ、コタ達は家に帰らなくて良いの? お父さんやお母さんは? 知流のことは聞いたけど」

 どうしても箸が持てないカホにフォークを手渡し、この非常に微妙な質問に答えてやることにした。
 彼女は、迎えが来て帰った麻斗を見ていたので、普通に疑問に思っただけなんだろうけど。

「母はずいぶん前に他界しました。父は仕事が忙しくて、滅多に家に帰ってきません。理解した? 」

 俺の嫌味な言い方に、聞いては行けないことを聞いてしまったことを理解したらしく、彼女は口ごもる。

「コタ達のお父さんも、大学に勤めてるんだよ。次郎と学部は違うけどね。……次郎は、勤めてるんだよね? 」
「ははは……。勤めてるように見えませんかねえ」
「うーん。いつ様子を見に行っても、白衣の下にパジャマ着てるからさ……」
「それだけ忙しいんですよ」
「そうかな? 」

 そんな知流と次郎のやりとりを見て、申し訳なさそうな顔をしていたカホも一緒に笑い出す。

「いつもこんな風に、みんなで一緒にご飯食べてるの? 」
「いや、たまたまだよ」

 さすがにお前がいるから……とは言えなかった。てか、なんでそういう微妙な質問とか、他にも色々俺に振ってくるかな。知流に振れよ、そう言うことは。俺より良い答えを出すからさ。
 席が悪いのか? カホに近いから。

「でも、千紗達に来てもらえると、助かるかも。俺、一人だとコンビニ弁当ばっかだし。簡単なモノしかできないから、次郎んちに行くときくらいしか、まともなモノ食べてないんだよね。さすがにケガ人にもそれじゃ、まずいからさ」
「じゃあ、私、朝も来ますよ。お弁当も作ります! 得意なんです! 」

 確かにそれは立派なアピールポイントだが……。前に出過ぎて、知流が少し引いてる。その様子を見ていた次郎も、何か言いたいのかなんだか目と箸先が泳いでいた。

「うん、知ってる。コタがいつもお弁当持ってきてるし。おいしそうだよね」
「知流さんのためなら、毎朝通いますよ。もっと早く言ってくださいよ」

 千紗としては、好きな男と別の女が二人きりになるのを阻止したいんだろう。ついでに家庭的なところもアピールできるし、まさに一石二鳥。
  ……そんなところに割って入るの、嫌だけど。

「アピール中、すまんが」
「誰がアピール中よ」

 千紗が怖くて思わず後ずさりしてしまったが、すぐ後ろはベッドだったのでこれ以上は逃げられない。カホは何も気づいていないのか(この千紗のアピールっぷりでそれはどうかと思うが)脅える俺を気遣う言葉をかけてくれた。

 多分、気遣いだと。そう今の俺は感じている。

「俺のこれからの朝食と弁当は? 」
「ここで一緒に食べればいいでしょ? ね、知流さん。どうせ毎朝一緒に学校に行ってるんだし、早く来るか遅く来るかだけの違いじゃない」
「それは、迎えにいかないと知流が遅刻するからだろうが。俺には俺の生活リズムってもんがあるんだぞ?! 」
「嫌なら別に良いのよ。自分の生活リズムとやらを守ってちょうだい。それに……大丈夫そうじゃない」

 ちらっ、とカホに視線を移す。しかし、それにカホが気付く前に、俺に戻した。

「決まりね☆」

 やっぱり決めたのは千紗だった。まるで独裁者だ。恐怖政治だ、こんなのは。
 それでも、カホが「賑やかで嬉しい」と言っていたのだけが、なんだか妙に心地よかった。

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