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Voice【最果てから呼ぶ声】(Voice[that is called farthest])

第2章
04

 奇妙なことに、俺に襲いかかってきた女は、知流以外の男に脅えているようだった。いま出会ったばかりの麻斗はともかく、治してくれた次郎にまで。俺を見つめた目が脅えてたのは、気のせいじゃなかったようだ。

 短い移動の車中で、お互いにあの研究室にいた状況を話し合っていたときも、女は知流の横でじっと黙ったままだった。女の話が本当なら、仕方のない行動かもしれない。どんなにこちらの世界の存在を知っていたとはいえ、今後どうしていいかわからないのだから。不安にもなるはずだ。

 話が本当なら。

 知流は(惚れた弱みというやつもあるけど)女の話が本当だから、というけれど。どうしても、女は信用できない。小泉さん……、彼女は少し平気だったけど。あまり女っぽくなかったからかな。あんな綺麗な人なのに。

 麻斗の話によると、小泉さんとは遠縁に当たり、いま現在、麻斗は彼女の家に世話になっているそうだ。そのため、よく行動を共にしている。今日は彼女が研究室に用事があるというので着いてきただけだという。高校はまだ三年生である麻斗も行かなければいけないはずだが、とっくに推薦で(しかも同じT大)決まっているので、今日は免許を取るために休みにしていたのだとも言っていた。
 しかし、一緒に住んでるからって、そんなに後をついて歩かなくてもな。それに次郎が言っていた、『麻斗が大学にきて、尻に敷かれている』というのは、おそらく彼女とのことを言っていたのだろう。あの様子だとしょっちゅう出入りしているみたいだし。

 着いてきたのは、単におもしろそうだったから……なんだろうな。ちゃっかり小泉さんに迎えに来てくれるように約束してたし。

「もしかして、お前、彼女が本命? 」
「当たり前だろ? 」

 即答だった。もっと隠そうとするかと思ったけど。

「コタちゃん、澄未に手え出したら……」
「出すか、バカ。女だろうが」
「だって、早いだろ? 本人の意思はともかくとして」
「早くねえっつの」
「澄未さんの前だと、麻斗は態度が変わるからねー」

 笑い事じゃないことを知流が笑い飛ばしたとき、バンがちょうど知流の家の前で止まった。次郎は足の怪我のひどい女を運ぶよう、朝よりはずいぶん落ち着いていた知流に指示をする。

「朝もああやって車に運んだわけ? 」
「ああ、知流じゃなくて、俺が、だけど……」

 めずらし、と呟く麻斗と二人で知流達の様子を眺める。

「大丈夫よ、知流。歩けないわけじゃ無いから、ね? 」
「でも、まだ危ないって、次郎が」

 知流の説得にやっと女は身を預ける。彼を頼りにしているかと思っていたが、そう言うわけでもないらしい。他の男よりは多少、という程度だ。彼とのやりとりの中で、照れも感じられたけど、脅えも十分すぎるほど伝わってきた。

「カホちゃんて、かわいいよねえ。あんなアイドル顔で、めっちゃモテそうなのに、男慣れしてなさそうなとことかさ」

 ……そ、それだけか? あの態度が。感じ悪くないか、あれ……。知流はあんなに優しくしてるのに、信用してるようには見えないぞ。男慣れとか言う問題じゃねえだろ。なに見てんだお前。
 
ていうか、カホちゃんてなんだ。あの女のことか? 会ったばっかなのに、麻斗ってすごいんだか何だか。

「男に慣れてないってこた無いだろ。朝、俺が運んだときは、あっちから抱きついてきたんだから」
「え! そうなの?! 意外だねえー」

 あ、やべ……。知流がすっげえ顔してる。

「ちょっと! あんた、何言ってんのよ! 誤解を招くような言い方を……」

 続きを言いたそうにしていたが、腹の傷を押さえてうずくまる。冷や汗をかきながらも、すぐに俺を睨み付けた。

「そうか? 」
「だって、違うでしょうが!? 知流も、そんな目で見ないでよ。そんな恥ずかしいマネするわけないじゃない。あれは……その、確かにちょっと動転してて」

 目が合っちゃった。なんか、すぐ赤くなるな、この女は。ちょっとおもしろい、知流みたいで。

「無我夢中で……」
「冗談だよ。殺されかけたけど」
「なによ! 謝ったじゃない。根に持ってるの?! 鼻で笑われたー! ムカツク!! 」

 バカだな、この女。叫んだら傷が痛むに決まってるっつーの。さっきやっただろうが。
 女を支える知流が、困ったような顔で俺を見つめた。

「……カホ。ええと、大目に見てあげてくれる? 」
「信じらんない、あの男。あんな……」
「なんか言われた? 」
「……何でもない。やっぱりいいわ。大丈夫だから……」

 足を引きずりながら離れていく女を、知流は止められなかった。

「……なんかあった? 」

 らしくない。知流は女が離れていった門から一歩も動かなかった。俺の顔を見ることもない。ただ言葉だけで俺を引き留める。

「あるわけもない。判ってるくせに。言ったろ、殺されかけただけ。敵とそっくりなんだと」
「だからって、あの子にはあまり良くないかもよ? 男の人、苦手みたいだし。コタちゃんと一緒ね」

 黙って知流達の様子を後ろから見ていた千紗が、「彼の前」のかわいらしさのまま、俺に忠告する。

「知流さん、彼女はリビングに案内しとけばいい? 」
「うん。ありがと、千紗」

 彼女は、彼がこの短い間にあの女に惹かれてしまったことに気づいているだろう。それでもきっと、この行為をアピールだと言って笑い飛ばせる。黙って側に居続ける。彼の邪魔にならないように。
 あんなムカツク女の何がいいんだ? 千紗の方が似合ってる。俺には、……判らない。
 でも、あの知流が興味を持つ女だから、きっと何かあるんだろう。だから俺もまた、彼と同じように女を見る。それだけ。

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