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1日5分!空き時間に読む連載小説 wing of fragment -FT恋愛,FT学園,BL,学園恋愛,携帯向-
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Voice【最果てから呼ぶ声】(Voice[that is called farthest])

第1章
03

 幼稚園から高校まで(そしておそらくこのままなら大学も)ずっと一緒の所に通う、いわゆる幼なじみの知流。家だって歩いて1分。スープの冷めない距離というやつだ。

 だから、こんな格好でも恥ずかしくはないけど……。制服に荷物に弁当に朝食まで持ってるのは、なんだか荷物が多くて夜逃げみたいでかっこわるい。しかもなぜか千紗の分まで俺が持ってるし。

「いらっしゃい。千紗も来てくれたんですね」

 力無い声で知流の家で俺達を迎えてくれたのは、知流ではなく、隣の家に住んでいるはずの次郎だった。知流に輪をかけて朝に弱い次郎は、まだ半分寝ぼけているらしく、パジャマがわりのよれよれのスウェットに、大学から支給されたぼろぼろの白衣を上着代わりに着ていた。普段着と変わらないので、さして気にもならないが。

「なんですか、ジャージのままで。頭もぼさぼさだし」
「お前が言うか!? それを。千紗に知流の電話のことを話したら、風呂にも入れなかったんだよ」
「なら、ここで入っていきなさい。あと二十分位したら出かけますから」

 つぶれかけのマイセンの箱を白衣から取り出し、かろうじて残っていた一本に火をつけた。次郎は今年で三十のはずなのだが、言っちゃ悪いが親父臭い。今年で三十五になるはずの、うちの父親の方が若々しいのはどうなんだ。

「話が見えないんだけど。知流は? 」
「二階にいますよ。『彼女』と一緒に。千紗、行ってあげてくれませんか?彼女が目を覚ましたときに、女の子がいた方がいいだろうって知流が言うので」

 その次郎の台詞に、千紗は一瞬だけど、安堵の表情を見せる。ただ、すぐに心配そうな顔になって

「女の子、ケガしてるって聞きましたけど。倒れてるんですか?」
「ええ。目を覚ましませんね。ケガが思ったより酷いんですよ。命に別状は無いと思うんですが。あの状態の彼女のそばに、知流を一人にしておくのもかわいそうですし。かなりまいってるみたいですから、お願いしますよ」

 ハイ、と元気よく返事をして、玄関からすぐの階段を昇っていった。

「だから、話が見えねえって」

 文句を言いながらも、俺は勝手知ったるなんとやらで、知流の家の風呂場へ向かう。たばこを吹かしながら、次郎がついてくる。

「私も先ほど知流から連絡をもらって、起きたばかりですからねえ。よく判らないんですよ。……タバコ、持ってません? 」
「あのなあ。俺、まだ高校生だぞ、一応」

 銘柄にはこだわらないのか、渡した箱から一本取り出すと、大急ぎでふかす。一日六箱は軽い、重度のヘビースモーカーだ。一応医者なんだから、もう少し自分の体を気遣ってもいいと思うけど。

「おじさんはまだ病院? 」
「そうですね。三ヶ月に一度くらい戻れたらいい方でしょう。病状は悪くないですよ。おとついには太一さんが帰ってきてましたよ。忙しいみたいですぐ戻りましたけど」
「知ってる。一緒に会ったよ」

 シャワーの音にかき消されないように、扉の向こう側とこちら側から大声で話し合う。少し慌てて頭を洗いながら、太一さんの顔を思い浮かべる。知流の年の離れた兄で(俺の父より年上だ)仕事の都合で東京にいる。高齢で入退院を繰り返す父と、まだ高校生の弟の様子を見に、時々こっちに戻ってくる。複雑な関係だが、うまいことやっているらしい。隣に叔父夫婦と従兄弟(次郎)が住んでいることも、太一さんを安心させているだろうし。

 そんな複雑な家庭環境のために、この一戸建てに知流はほぼ毎日、一人で暮らしている。だからこそ、彼は女を簡単にこの家に連れ込むことができた。それは分かる。

「いつかやるとは思ってたけどな、知流のことだから。ケガしてるのがほっとけなくて拾ったって話だろ? 犬猫ならともかく、人間てのがな。わざわざ家に連れ込まなくても、救急車でも、次郎でも呼べばいいのに」
「だから、呼ばれたじゃないですか、私が」
「それがわからん。救急車が先だろう。目と鼻の先に大学病院だってあるし、いくら早朝だからって、何も連れ込まなくても。だってその女、いま気絶してんだろ? 」
「知流が拾ってきたときは、意識があったそうですよ。見ればわかりますけど、もんのすっごぉーく、かわいいですよ。日本人離れした顔ですけど、アイドルみたいです」

 顔は見えないけど、声がにやけてた。

「そんな理由で拾ってくるか? 知流だぞ。お前や麻斗じゃあるまいし」
「失礼な。私は拾いませんよ。ちゃんと警察に届けます」

 間違っちゃいないが……扱いは財布並だな。

「……で、何で拾ったんだよ。可愛いからってわけじゃないだろ? 」

 洗顔料がきれてる。こういうとこ、無精だよな。後で言っとかないと。

「彼女の傷を見たんですよ。かなり酷いので、大学の信用できる人間に治療の準備をしてもらってます。その用意が出来たらこっそり運ぼうと思ってます」

 それで、二十分後ね。しかし、意識がないだの、準備だの……。

「もしかして、そのケガって、冗談抜きで相当酷い? 」
「今頃なに悠長なことを言ってるんですか。手術が必要なほどではないですが、かなりまずいですね。しかも、鋭利な刃物で切られた痕がありました」
「……おい! 」

 扉を開けた勢いで、次郎がよろめく。

「何するんですか。ひ弱なんですから、そうっと! 」
「それって、やばくねえ? 」
「だから拾ってきたんですよ、知流は。彼女は意識をなくす前に、自分と敵の名前を告げ、『追われてる、態勢を立て直さないと』って言ってたそうです」

 へえ……。なんか、やる気っつーか……危険なにおいがぷんぷんしますが。
 扉を閉めて再びシャワーを浴びる。その内なんかやるだろうとは思ってたけど……お人好しにもほどがあるぞ、知流。危ないものは警察へ!

「女の名は? あと、あんまり聞きたくないけど、その敵の名は? 」
「カホ。それから、敵はクロガネという男だそうです」

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