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Voice【最果てから呼ぶ声】(Voice[that is called farthest])

第1章
02

 いつもと少しだけ違う知流の様子に、走り慣れた道を急ぐ。普段より負荷がかかっているせいか、体が少しだけ叫んでいる気がした。明日からペースをあげなくちゃな。

 特に何をしてるわけでもないけど、毎朝学校に行く前にランニング。家から三キロほど離れた公園まで走って、公園内のコースを一周して帰ってくる。それだけの簡単なコース。小さい頃からの日課なので、今さら変える気もない。道行く人も、朝が早いサラリーマンくらいで、大学や高校がそばにある割に、ほとんど人に会わないコースを選んでる。知らない人と挨拶するのはどうも苦手なので、これくらいがちょうどいい。

 さっきの女は、その俺の行動を毎日見ていたらしい。公園に入ったところで、誰もいないのを見計らって俺に接近。そのまま茂みで押し倒したのか押し倒されたのかわからないまま、やることだけやっていたら知流から電話があった。

 何というか、恋愛とは無縁なのかもしれない。告ったとか告らないとか、あの女がいいとか悪いとか、やったとかやらないとか。その過程がない。

 ……原因は、わかってる。

 俺の病的な女嫌い。いや、性的には女じゃないとだめなわけだから、嫌いと言うより憎んでいると言った方がいいのかもしれない。

 信用できない。だから、今朝もあんな事になってしまうのか。

 でも本当に、自分が何をしたのか、はっきり覚えてない。ただ、沸き上がる復讐心のようなものが押さえられない。
 考え出すと、胸をかきむしる手が止まらない。玄関の前で、必死に衝動を抑える。
 乱れていた息が落ち着き、まだ少しだけ薄暗かった冬の空が明るくなった頃、何食わぬ顔で玄関を開ける。

「ただいま」

 上着を脱ぎながら、奥にある台所にいる千紗に声をかける。父は今日も帰ってきていないらしく、二人分の朝食と弁当が並んでいた。

「お帰り、今日は早かったね。もうごはんできたからいいけど。シャワー、浴びてきたら? 私、でてきたばかりだし」

 妹が着る、やたらスカートの短い制服を、少しだけイヤな顔で見つめてしまった。

「何よ、不機嫌? 今日もかわいい妹がいて幸せ、くらい言ってみなさいよ」
「バカか。ふざけんな。別に悪くねえって。生まれつきこの顔だっつーの」

 酷い言い方をしてるけれど、千紗は怒るわけでもなく、軽く笑い飛ばす。それに少しだけ甘えている。
 いいかげん、口が悪いな、とは思ってるけど。治らない。

「この不機嫌顔でモテるのが不思議。知流さんくらい、にこやかなら、別だけど」

 お前、エロ親父顔だぞ、知流のことになると。とりあえずかわいいんだから、やめとけよ(とはさすがに言えないが)

「あ、そうだ。知流が、一緒にうちに来てくれって」
「な、何よ、それ! なんで? 朝食とか持ってってアピールするべき!? 」
「いや、いらないかも…… 」 

 知流の前の千紗は、いつもより少しだけかわいい。
 台所で騒ぐ彼女を後目に、奥の風呂場に向かおうとしたら、後ろからついてきた。

「なんだよ。風呂入るんだよ。汗くさいんだから。十五分……いや、十分だけ待て。とりあえずそのつもりで用意してろって」
「こんな時間に知流さんがどうして? まだ学校に行くには時間があるでしょ? 」

 携帯の時計を見たら、まだ七時になったばかりだった。

「いや、なんかさ、女を拾ったって……」

 千紗の顔色が変わる。

「なによ、それ」
「……さあ? そう言えば、『ケガをしてる』とか『部屋に連れてきた』とか言ってたような」
「それって、どういうこと? そんな大変な状況なのに、のわぁに悠長なこと言ってんのよ! すぐ近くなんだから着替えと荷物とお弁当持って、知流さんちに行くのよ! 今すぐ! 」

 強い口調で言い放ち、勢いよく俺を指さす。

「……でも、くさいし」
「いいから! 」

 嫉妬なのか心配なのか、微妙なところだけれど。
 とにかく彼女が怖いので俺は汗くさいまま、とるものもとりあえず、二階にあがった。

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