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Voice【最果てから呼ぶ声】(Voice[that is called farthest])

第1章
01

「女の子、拾っちゃった……。どうしよう、コタ……」

 携帯の向こうから、知流の声が響く。彼の声は、その内容とは裏腹に非常に落ち着いていた。いつものようにゆっくり、柔らかな話し方だった。
 その声がテンパってた俺に余裕をくれる。優しい現実に引き戻してくれる。
 きれぎれだった息をゆっくりと吐き出すと、大きなため息になって白い線を描き、冬の早朝の薄暗い空に消えていく。

「小太郎くん……」

 俺の下で伏せっていた、名前も知らない女が甘ったるい声で目の前の悪夢に引き戻す。
 携帯を力一杯握りしめ、女を一瞥。たったそれだけの動作に、めまいすら覚えた。

「コタ? 」

 いつまでも返事をしない俺を不審に思ったのか、少しだけ急かすように知流が俺の名を呼ぶ。珍しい……実はかなりテンパってるのか? それに、あの遅刻魔がこんな早朝に連絡をくれるなんて。

「ねえ、早く…… 」

 白い肌を露わにしたまま、視線だけをこっちへ向ける。甘ったるい響きが、白い空気を揺らす。棘と言うにはあまりに柔らかい。けれど、悪夢に引き戻すには十分すぎる痛さだった。

「その子、ケガをしてるんだ。酷いし。俺、部屋につれてきたんだけど…… 」

 今、こちら側で何が起きてるか、彼には十分伝わってしまったのだろう。聞かないフリをしてくれた。
 俺が好んでこの行為に及んでいないことを、彼は誰よりよく理解してくれている。

「ごめん。俺、今、状況判断できない……かも」

 彼の言葉が理解できても、何を言っているのか理解できない。
 俺自身が、今どうしてこんなところでこんな事をしているのかよくわからないのだから。

「千紗も、もう起きてる時間だろ? すぐに一緒に家に来て欲しいんだ」
「わかった」

 俺の返事を聞くと、彼は簡単な挨拶をしてあっさりと携帯を切った。

「ねえ、早く……。人が来たらどうするのよ! 」

 下にいる女が、うつぶせの状態から、無理矢理体をよじって俺に手を伸ばす。それを反射的に払いのけた。

「いったーい。何すんのよ! ひっどーい」

 めんどくさい。
 知流が呼んでるから、早く行かなくちゃ。

「ちょっとぉ! 小太郎くん! 」

 立ち上がり、下がっていたジャージを腰まで戻し、ついていた草を払う。

 目の前に女の顔があるのに気づく。薄暗くてよく判らないのが救いだった。それでも、よく見てみると同じくらいの年だと言うことがわかった。

 めんどくさい。

「わりいけど、友達が呼んでるから。同じ学校だっけ、あんた? 」
「あんたって…… 違うって最初に言ったでしょ! いつも小太郎くんのこと見てるって、だからそれで、私……」
「ああ、そうだっけ。あんた、うちの妹と同じなんだっけ? 学校」

 見覚えのある制服を着ている事にも気づく。人気があるらしいけど、短すぎるスカートは、人によってはただの嫌がらせだ。

「そうそう。もう、何よ。わかってるのに冗談ばっかり…… 」

 逃げ出すように走り出してしまったので、あとは、何を言ってるか聞こえなかった。

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