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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第7話 続・選ぶと言うこと 04/10
窓の外につけているからどんな小型ヘリかと思ったら、違ったらしい。観覧車の箱のような金属のケージをヘリから吊り下げて、窓の横につけていたらしい。どう吊り下げられてるかはオレには良くわからないけれど、ヘリにそのポッドのようなものが収容される間、風に揺られてるのか、へリの動きに揺られてるのか、ひどく横揺れして、戻しそうになった。
ポッドごと収容されたヘリは軍事用なのか、ずいぶんしっかりした大きなものだった。遊覧用のヘリを想像していたけれど、小型移動秘密基地、といった感じだ。
武器に制限があったり、技術の開発を監視したりするくせに、中央はこんな近代兵器(多分)まで持ってるってのは、なあ……。オワリなんか、王子様がバンみたいな車で移動してたのに。
オレも彼女も拘束されるわけでもなく、ちょうどヘリの中心部付近に設置された椅子に座らされた。といっても、ティアスは勝手に席を立って、運転席と反対側の端にいた黒ずくめ二人と話をしていたけど。……知り合いかな?つーか、中央軍関係者で、中王とサワダ父に近い人って感じだから、もしかしたら創世記メンバーか?だとしたら、大物来ちゃったな。
妙なつくりだと思ったのが、オレが座っているベンチのような椅子は、多分3人がけ。それが2列(オレは前列の椅子に座らされた)、妙に広いこのヘリ内部の空間の中心にすえられていて、その周りは何も置かず、この空間の広さに対して無駄とも思えるような広い通路。床面は1m四方の金属板がビス止めされていた。ヘリの入り口とポッドの収容場所以外の壁際には、腰掛けられるようなでっぱりがある。黒ずくめ二人と、話に行ったティアスはそこに座っていた。
よく見たら、窓もほとんどない。30cmくらいの円形の窓が、1mおきくらいにあるだけだ。
「そんな不安そうな顔しなくても」
後列の椅子に座って、サワダ父が話しかけてきた。後ろから話しかけられるって言うのは、いやな気分だ。つーか、いつの間に後ろに座ったんだよ。この人、神出鬼没すぎるよ。なんなんだよ。
「不安にもなりますよ。このまま中央に行くつもりですか?」
「まさか。こんな目立つ物では行かないよ。これは君を迎えに来ただけ、巡回のついでに」
「どうやっていくんですか?」
「内緒。まあ、悪いようにはしないから、おとなしくしてなよ」
「判ってるね?」とでも言わんばかりの目つきだった。笑顔のくせに。オレを(そしてティアスも)拘束しないのは、逃げられるわけがないという自信の表れなのか、緩やかな脅迫なのか。
しかし調子狂うな。この人、オレと同じ年の息子いるとは思えないんですけど……。いや、ここはペースを乱されちゃだめだ。ティアスもいるし。オレだってもう、ちょっとやそっとじゃ驚かないっつーの。それに、オレを中王のところに連れてくまでは、とりあえず何かされることもなさそうだし。
「サワダのお父さんて、オワリの偉い人じゃないんですか?こんな騒ぎ起こして、大丈夫なんですかね?」
そう聞いたオレの真意をどう受け取ったかは判らないけれど、サワダ父は笑顔で説明をしてくれた。淡々と事実だけを簡潔に。
彼の話によると、このヘリ着陸事件は元老院と軍の上層部によって、「中央軍の定期監査の一環」として片付けられる予定なのだそうだ。守護のためにつめていた下級兵士達に見られることは承知のうえで、程なくして連絡遅延について謝罪の通達をする予定だったようだ。
その通達の真意を、どこまでの人間が知ってるかなんて、オレにはわからないけれど。
それにしても、軍の上層部は全部中央とグルなのか、それとも圧力に屈しただけなのか。元老院はよくわかんないけど、ミハマや、その護衛部隊、親衛隊、それにオレが見てきた軍の人たちは、決してそんな風には感じなかったけど。だからこそ、なんか腹立たしいぞ。
「王子の護衛部隊が出てくることは計算済みだって言ってたけど、あの鉈持ったやつは何者だ?聞いてないぞ?」
黒ずくめ男の正体はサカキ元帥だった。サワダ父の横に座り、覆面を取って顔を拭いていた。つーか、事実上よっぱらい親父とはいえ、大物過ぎるだろ!!!いつの間に移動してきたんだ。簡単に顔をさらすな!!どんだけ突っ込みどころが満載なんだ!!
「護衛部隊だよ。表立って連れ歩いてないだけで。あんな子供、気にする必要あるまい。気にしないといけないのは、王子とスズオカ君だけだ」
「そうか?おっかない目をしてたけどな。チラッと覗いただけだが。まあ、王子ほどではないか」
楽しそうに笑うなあ。それにしても、顔は見えなかったけど、あのプライドの高いイズミが、あんなことされて黙ってるとは思えないけど。おっかない目、で済めばいいけどね。
でも、負けてた……んだよな?さすがに元帥、ってことなんだろうか、あの怪獣を簡単に足蹴にするとは。
そんな恐ろしいおっさんなのに、不思議なことを言っていたな。
「王子が、怖いんですか?」
サワダ父よりは酔っ払い親父もとい、サカキ元帥のほうが雰囲気的には話しやすかったので、思わず普通に質問してしまった。
「まあ、きれいな子だからな」
彼は笑っていたけれど。
「おっかないね。あの、鉈を持ったガキも厄介そうな目をしてたけど、王子に比べたら」
ミハマのいったい何が?確かに時々、ものすごい怖い時があるけど。
「いいから、あんたもそこに座って」
もう一人の黒ずくめ女も覆面を取っていた。ティアスをオレの隣に座るよう促すと、自分はその横に立った。気の強そうな女性だった。40近い女性に見えるけれど、スレンダーで姿勢がいいせいか、後姿だとそんな感じがまったくしない。この人も「創世記メンバー」なんだろうか。
「なんだよ。この子は逃げやしないだろう。意味ないってわかってんだから、なあ?」
サカキ元帥ががははと笑いながらティアスの頭をなでる。彼女は黙って、彼をにらみつけた、表情一つ変えず。
「テッキもトラも、自信過剰なのよ。この子、さっき逃げようとしたよ?」
「逃げようとしたわけじゃない。意味ないし」
「なら、どうして」
「いいから、ミズキ。意味ないのはよくわかってるだろう。こっちのガキを連れずに逃げても、仕方がない。だから、この子はそのままでいい」
サカキ元帥が、ひどくまじめな顔で「ミズキ」さんをみつめる。てか、ミズキさんのサカキ元帥を呼ぶ発音が、猫を呼ぶみたいでちょっと笑ってしまうとこだった。
「彼がいなかったら、この子がここにいる意味もまったくないし。ここで逆らおうが、逆らうまいが、中央に戻れば元通りの生活が待ってるだけだし」
「そこがわかんないの。この子を好きにさせといたって、何もいいことはないのに。妙に力つけてきちゃって。何の処分もなし?」
「今回のことで処分はできないだろうが。オレとテッキがこの子を連れて行きたいって言っただけで。嬢ちゃんはそれに意見しに来ただけだし」
「何でそんなにこのお姫様に甘いの。命令違反でしょうが、たてついてんのよ」
「正規の命令じゃないし」
ずっと笑顔だったサワダ父が、元帥とミズキさんのやり取りを、興味深げにじっと見つめていることが気になった。
「話には聞いてたが、ちょっと極端な気もするな。オレも、どっちかって言うとミズキさんの意見に賛成だし」
「でしょ?テッキもそう言ってるじゃない。いくらハルカが『好きにさせろ』って言ったからって」
なんだなんだ、内輪もめか?また知らない名前が出てきたぞ。ハルカって誰だ?
「気に入らないなら、秘密裏に処分するなり、牙を抜くなりすればいいじゃない。別に、言われるほど私は何もしてないし。逃げても動いても無駄なこと、判ってるし。オトナシは『好きにさせろ』って言ってるんじゃなくて、私のことなんかもうどうでもいいってことなんじゃないの?あの人、何の興味もなさそうだし」
「ティアス、どうでもいいってことはないよ。オレが知ってるオトナシが『好きにさせろ』って、ミズキさんに言ったならね」
サワダ父の言葉に、ティアスも、そしてミズキさんも黙ってしまった。話から察するに、ハルカって言うのは、中王のことか……。ミズキさんも創世記メンバーで確定ってことか、こんだけ中王に近いってことは。
それにしてもこういうときのティアスは、ちょっとだけ怖い。すねたような台詞にも聞こえるのに、彼女が余りに落ち着いているというか、どっしり構えているから、むしろ、圧力のようなものすら感じる。
こういうときのティアスって、なんだかミハマみたいだな。
もしかして、彼の『怖さ』って、こういうことなんだろうか。
「で、逃げようとしたの?君は」
「え?」
彼女は思わず、といった顔で、サワダ父のほうに振り向いた。
「それとも、外に何かいた?」
「……トラ、外見てきて」
ため息をつきながら、ミズキさんはティアスの横に座った。それと入れ替わりに、サカキ元帥は席を立ち、窓に向かう。
「テッキ、そういうことはもっと早く言って」
「ミズキさんもサカキもせっかちすぎるんだ。もう少し落ち着きなって、もういい年なんだから」
さすがサワダの父親、一言多い。なんか、こうやって悪態ついてるところは、オレの知ってる沢田そっくりで、変なデジャブを感じてしまう。
「あんなでかい息子がいる男に、何も言われたくないよ。子供がいるから、落ち着かざるを得なかっただけでしょ?」
「オレは昔から落ち着いてたし」
「息子の方がよっぽど落ち着いてるし。似てるのは顔だけ。よかった」
「別に似てないよ。あいつは、ヨシノに似てるんだ」
オレもティアスも黙って聞いていたが、その台詞に思わず顔を見合わせてしまった。完全に同じDNA受け継いでるぞ。
「そうかもね。テッキには、ああいう必死な感じはないから。幼さのせいかもしれないけど、見ていて痛々しいね、あの子」
彼は何も答えなかった。痛々しいって言葉は、なんだかサワダにしっくり来る。哀れとか、辛そうとか、そういう言葉よりもずっと。そして、オレやイズミが感じていたことを、この人も感じていたことに、驚きと確信を得た。
「もう、到着だろう。準備しないと」
彼は彼女の声にはこたえず、話を変えた。その代わり、彼女は彼の言葉を受けてオレの前に立ち、オレを立ち上がらせた。
「逃げれないとは思うけど、一応ね。列車に乗ったら、またはずしてあげるから」
後ろ手に、手錠のようなものをかけられた。「痛くない?」って聞かれたけど、そんな状況でもない気がする。
この人、気が強い人かと思ったら、オレにはなぜかちょっとだけ優しい。黙ってうなずいたら、笑顔を返してくれた。まあ、拘束されてるんですけど。
「何だ、横断線に向かってるのか?空港に向かってるかと思った」
「お荷物つれて、夜空の旅は勘弁ね。時間はほとんど変わらないよ?」
そういえば、以前シュウジさんが見せてくれた地図の中で、横断線てのがあったな。新幹線とほぼ同じ路線で。あれのことかな、列車って。そういえば、ティアスがくれたパスは使うことなく、こうやって中央に連れて行かれることになっちゃったか。あと、この様子だと、飛行機っぽいものもあるみたいだな。同じくらいの速さでトウキョウにいけるやつが。
「いたぞ」
そういってサカキ元帥が連れてきたのはサワダだった。さすがに、彼はオレと同じく後ろ手に拘束されていた。彼は逆らう気がないのか、妙に落ち着いていた。
「お嬢ちゃん、いつの間に王子たちを味方にしてたんだ?連絡とるために外を……」
「まさか。たまたま外に潜んでいたのに気づいただけよ」
「そう?そんな風には見えないけど」
オレを捕まえたまま、ミズキさんはティアスとサワダを交互に見た。サワダ父はバツが悪そうに、大きくため息をついていた。
「ちょっと会わせるだけだって言ってる。返さないとは言ってないし。わざわざついてくることはないだろう、テツ。ティアス、君もだ。用があるのはアイハラくんだけなんだから、こいつらは置いていこう」
あ、やっぱそうなるよね。ティアスはオレをここに連れ込むためのえさでしかなかったし。その後は邪魔なだけか。ティアスは、逆らっても仕方ないっていうか、事態を悪化させないためにおとなしくしてた節があるし。
彼女に迷惑かけたくないから……とはオレは言えんな……。正直、戻ってこれるか心配だし。カリン姫の扱いとか、ひどかったしなあ。多分、サワダは父親の目があるから丁寧に扱われてるって感じだし、ティアスもお姫様呼ばわりだったし。
これでオレが、彼らの期待に即してなかったら、何の保証もないんだよな。いや過ぎるぞ。でも、さすがにティアスの前でそれは。この無駄なオレのプライドが憎いけど、逆らえない!!
「いや、そういうわけにはいかないし」
一見、丁重に扱われてるとはいえ、一応つかまってるくせに、やけに落ち着き払ってるサワダも気になるけど。……多分、何か考えがあってのことだろう。サワダを捕まえたのは、あの怪獣を足蹴にする男だ。
「サワダ中佐はともかく、私は別についていっても差し支えないでしょ?」
ティアスもサワダも、オレを心配してくれてるのかな。二人して……。
「あるよ。ほら、トラが甘やかすから」
「オレのせいかよ!」
「……この状況になった以上、逆にお姫様がついて来たがる理由はわかるが、お前は?たまたま街中で拾っただけだって聞いてるけど、あの王子と何かたくらんでる?」
よりにもよって、息子に喧嘩ふっかけなくても!!