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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第7話 続・選ぶと言うこと 02/10


  「また、シンに文句言われるじゃねえか」

 そう文句を言いながらも、サワダは自分から離れないようにオレに指示をして、早足で歩き出した。オレはそれに必死でついていく。普段使っているエレベーターではなく、中心部にある上層階へ直通のエレベーターを使うからと、普段は通ることのない、北側の兵舎とつながっている廊下を進む。
  どうして走らないだろうと疑問に思っていたが、それはすぐに解決された。
  走っていると、すれ違う夜勤中の兵士たちに声をかけられるからだ。普段オレやサワダのいる階ではほとんど見ることのない、小さな階級章をつけた若い兵士たちばかりだった。不思議なことに、屋上に止まった中王軍のヘリのことを、誰も知らなかった。確かに、中庭からなら見えたものが、この廊下からは見えない。見えないけど、外の様子を判るようにはしてないのか?
  なんか、風通し悪い感じだな。

「サワダ中佐。屋上ですか?」

 エレベーターに乗ろうとしたオレたち……て言うかサワダに声をかけたのは、カグラミキだった。よく考えなくても、年齢的にはさっき廊下で見た兵たちとそんなに変わらないはずなのに、彼は親衛隊に属し、それなりの階級についている。

「ええ。親衛隊は……」
「今、動き始めたところです。殿下から『大事にするな』と……護衛部隊もですか?」

 チラッと、オレを見た。うん。理由はすごく良くわかるけど。
  3人でエレベーターに乗り込む。サワダがあたりを確認して、カグラ少尉に返事をした。

「ええ。殿下の周りに、親衛隊からはどなたが?」
「キヅ大佐と、ノモト大尉が。護衛部隊からは?」
「スズオカ准将とミナミ中佐がついています」

 同じ『王子の部下』のはずなのに、こんなとこで情報交換してるのもなあ。緊急事態だからか?ここに来たばかりのときも不思議だったけど、なんかミハマを取り巻く環境って、不健全だよな。

「大事にするな、とは言っても、中庭からは見えていましたからね。屋上に停まるのが」
「……内部の様子は、何か聞いてますか?」
「いや、まだ……大丈夫、のようですよ」

 サワダもカグラ少尉も、ひどく言葉を選んでいた。サワダがそうする理由はわかる。王子に対していい印象を持っていない、サワダ父含む元老院のナカタ議員の一派を気にしているからだろう。カグラ少尉が遠慮がちに言う「内部」とはおそらく、他ならぬ彼らを指していると考えていいと思う。
  ただ、カグラ少尉がそれを気にする理由がわからない。サワダ(というか護衛部隊)に気を使ってなのか、それとも、ほかの理由があるのか?たとえば、親衛隊も元老院とは仲が悪いとか。そもそもこの国の軍部と元老院がかなり仲悪そうだから、それは十分ありえるな。
  もともと、オワリがどんな国政を行ってたかとか知らないけど、軍事国家なら台頭してきた政治家集団である元老院に対していい感情を持たないのは当たり前だし、逆にしたって、この世の中じゃ軍事力はかなり重要視されてるわけだから、軍部が力をつけてきて以下略……てだけの話だろうし。

「しばらく、緘口令をしいたほうがよさそうですね」

 でも、少なくともカグラ少尉は、サワダの味方のように見えた。

「ああ、それなら外側の警備のものには、すでに連絡が行ってるはずです。ただ、ちょっと遅かったかもしれませんね」
「面倒ですね……」

 いや、彼は特別にサワダの味方なわけではなくて、元老院の反王子派を警戒してるというべきか。しかしそれならば、サワダという男は扱いに困るはずだ。
  詳細は聞けなかったけど、ミナミさんのあの態度から察するに、王位継承に関する争いの様なものが合ったはずで、それは継承権の無いサワダ父を含めて地味に継続中。そして彼女があんなふうに感情を顕にするのは、サワダに関すること……。
  となれば、サワダの意思はともかくとして、反王子派って言うのは彼を何とかしようって言うか、ミハマの代わりに第1王位継承者にしようとしてるって考えた方が自然だ。反王子派にサワダ父がいるメリットも明確。ただ、当のサワダ本人は王子派って言う……。

 考え込んでいたカグラ少尉が、急にポケットを探ったかと思うと、無線を取り出した。もしかして、私用と公用で、携帯と無線を使い分けてるってことだろうか。それも変な話だ

「失礼。……はい。カグラ、了解しました」
「親衛隊に、出動許可は下りましたか」

 彼が無線を切ったことを確認してから、サワダは話しかけた。まるで、彼への無線の内容が判っていたかのように。

「ええ……。王子が屋上に向かったそうですから。護衛部隊は……」
「我々は、内部であまり表立っても、いい印象を与えませんので。ここで、失礼します」

 エレベーターが12階を指し示す直前にボタンを押した。扉が開くと同時にカグラ少尉に敬礼し、出て行ったサワダに、オレは必死でついていく。

「屋上って言ったじゃんよ」
「いいんだよ。親衛隊は、あの様子なら全員ミハマの護衛っつーか、止めるのに駆り出されてる。一緒にいったら、巻き込まれるだけだ」
「なんで?ミハマの護衛は?……つーか、わざと?」
「わざとって言うか、なんかあったんだろ。直接出てかないといけない理由が」

 彼が向かっているのはおそらく、先日謁見の間が覗けるようになっていた隠し部屋への入口だ。あそこなら、裏からいろいろつながってるみたいだし、屋上にも向かえるのだろう。

「そういやさ、親衛隊と護衛部隊って、何が違うんだよ。両方とも、ミハマの護衛してるのに」
「なんだよ。シンあたりが言ってなかったか?」
「……護衛部隊は、ミハマが選んだって」
「そ。そういうこと。親衛隊は、陛下がミハマのためにつけた。教育係も一緒だ。もともとナカタ氏が教育係の統括で、シュウジは家庭教師ってとこだったんだけど、ミハマが選んで、シュウジが進言した」
「だけどカグラ少尉って、サワダの味方っぽかったぞ?」

 おかしくないか?といってしまいそうになったが、さすがにそれは飲み込んだ。しかし、案の定サワダには伝わってしまったらしく、彼は返事に窮し、立ち止まってしまった。

「敵の敵は味方……て言葉を知ってる?」

 そういったのはサワダではなく、廊下の影から現れたカリン姫だった。

「何やってんだ。ここは、客室用のフロアじゃねえぞ、カリン」

 周りに誰もいないと思って、気遣いゼロ。てか、元々サワダはカリン姫のことあまり良く思ってないみたいだったし、幼馴染みたいなことも言ってたから、これが本来の態度なのかも。
  彼女も彼の無礼を気にする風でもなく、彼の前に歩み寄り、行く手を遮る。

「いいじゃないか。小さいころは、よく3人でここに忍んで遊んでいたじゃないか」
「こういうときだけそういうことを言うか?いいからさっさと戻れ」
「いやだよ。屋上に停まってるやつの目的を知るまではね。行くんだろう?」
「オワリの問題だ」
「そうかい?カントウからしたら、あれは何をしに来たかは判らないけれど、あまりいいようには考えられない。たとえば……定期巡回の振りをしているだけで、実は裏で手を取っていたとか」
「馬鹿なことを。だとしたら、こんな大騒ぎにはならないだろう」
「例えばの話さ。私は何も知らないのだから、そう考えてもおかしくないだろう?それに、そんな疑問をぶつけるような一等兵よりは、私のほうがよほど役に立つと思うけど?」
「怪我人の手はいらん」
「お互い様だ」

 幼馴染……のはず……ですよね?仲悪いな、この二人。国同士の関係も絡んでるのかな。この様子から察するに。

「アロー。カリンが1205にいる。そっちは……そうか」

 突然無線に手をあて、カリン姫と相対してることを誰かに報告した。本人の前でわざわざやるんだから、サワダも人が悪い。

「下の客室フロアでは、お前を探して護衛が大騒ぎしてるらしい。戻ったらどうだ?大切なお客様だから、王の親衛隊も一部動いてるそうだし」
「誰の報告?」
「教える必要は無い。ミハマの命令で見に行ったのは確かだけど」

 多分、彼女も彼がわざとミハマの名前を出したのは判っているだろう。それでもちょっと反応しちゃうところは、普段のギャップと相まってなんだかかわいかった。
  照れた顔を必死に取り繕い、彼女が彼をにらんだ瞬間、かすかな音であったがサワダの無線が鳴った。今までは鳴らずに振動だけだったのに。

「だから、カリンがいるって!」

 無線に怒鳴りつけたが、次の瞬間、彼の顔色が変わったのが判った。

「アイハラ、ここで待ってろ!」

 そういって彼が走って向かったのは、例の覗き部屋への入り口ではなく、エレベーター側だった。しかし待ってろと言われて、こんなところに放り出されても困るし、カリン姫は彼を追いかけたので、オレもそれに続く。しかし、二人とも足速い……。

「何があった?」
「だから、てめえもついてくるんじゃねえよ!!!」

 よほど急いでいるのか、舌打ちしただけで、彼女にもオレにもそれ以上何も言わず、廊下の窓に向かった。

「ティアス……」

 その窓の前にいたのはティアスとサワダ父。ナイフを向ける彼女、不敵な笑みを浮かべる彼。搾り出されたサワダの声が、あまりに哀れだった。

「中佐……」

 ティアスがちらと彼を見た一瞬、サワダ父が彼女からナイフを奪い、代わりに突きつけた。

「ちょうど良かった。アイハラくん、一緒に行かないか?」
「……なに言って……」

 ナイフを近付けられ、彼女は言葉をとめる代わりに彼を睨み付けた。

「……君は……」

 カリン姫までオレを怪訝そうな顔で見てるし。ただでさえ、「こんな奴が」みたいな顔されてたのに!!

「オヤジ、それ……」
「なんだ。人前ではちゃんとしなさいと……」
「いや、そんな場合じゃ……。彼女から……ティアスからナイフを……」
「オレがそんなことするように見えるか?」

 ナイフが、彼女の頬をなでる。

「見えるっつーの!!!何やってんだよ、こんなところで。その女は……」

 チラッとカリン姫を見てから、ため息をついた。この状況は、カリン姫が知っていても知っていなくても、あまりいい状況じゃない。

「見えるのなら、話は早いだろう。おいで、アイハラくん。この子が大事だろう?」

 大事って!!何つー言い方!!恥ずかしいっつーの!!てか、ばればれってことか、こんな人にまで?

「だめよ。この人のこと……」

 ティアスの台詞に、オレは黙って頷く。だまされないぞ。いくらなんでも、サワダもいるし、さすがにそんなひどい事はしないだろう。……と思うけど、サワダがこんなに心配してるのもな……。
  それにしても、何でこんなにオレのこと。

「君と同じことを言ってる奴に、会わせてあげるよ」

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