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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第7話 続・選ぶと言うこと 01/10
まるで、夢遊病のようだった。耐えられなくて、深夜2時を回ったのを確認して、コートを羽織って廊下に出る。向かうのは、中庭。
『まさか。するわけがない』
その台詞を、どうしてもオレは信用できなかった。こないだの夜、二人は一緒に中庭にいたじゃないか。それを隠すくせに、二人でこそこそしてるくせに、そんなこと信用できるわけがない。
夜も、もしかしたら何かあったかもしれない。けれど、怖くてオレは部屋から出られなかった。
『馬鹿だな。あの女はずるいよ?信用したら、負けだ。利用される』
そういわれても、お互い様、としか思えなかった。
うすうす気づいてはいるさ、そんなこと。だけど、どうだっていいじゃないか。
中庭に続く通用門には、いつものように警備員が立っていたが、バッチを見せれば問題なく通してくれる。オレは挨拶もせず、警備員の横を通り抜け、中庭を走る。道を間違えないよう、この間と同じルートを通って、広場へ向かった。さすがに、魔物は怖い。
「よく会うな」
最悪だ。何でよりにもよって、サワダなんだ。ティアスがこの間座っていたベンチに、彼は一人腰掛け、タバコを吸っていた。
……いや、彼女といたわけじゃないかもしれない。この間のように、サトウさんと一緒にいたのかもしれないし。
「奇遇だな」
「そうだな」
夕方、屋上で会ったときも思ったけど……、こいつ、なんかおかしくないか?やっぱり。薄暗くて判らないけど、やっぱり顔色が悪い気がするし。いや、こっちのサワダはこんなもんなのかもしれないけど、よく知ってるわけじゃないけど、だけど。
なんだかよくわからなくなってきた。似すぎてて、オレの知ってる沢田と間違ってしまいそうになる。混同しないようにしてるけど。
「夜、いつもここにいるのか?」
何を話していいかわからなくて、どうしていいかもわからなくて、広場のベンチに座る彼と2mくらい距離をとったまま、オレは立ち尽くしていた。
「そういうわけじゃないけど」
「そんなんで寝てんのか?お前」
「寝てるよ」
「だって、朝から仕事してんじゃんよ、お前ら」
「そうだな」
……会話つづかねえし!!!
やっぱ変だ、絶対おかしい。だって、こっちのサワダと初めて会ったときや、昼間会話してる分にはほとんど違和感を感じなかったのに。
そうだ。サワダには違和感を感じなかったんだ。
だから初めて会ったとき、普通に沢田だと思ってた。顔が似てるから、だけじゃない。
「なあ……やっぱり」
お前、変じゃないか?
そう言おうとした時、薄闇の広場が、サーチライトで照らされる。沢田の顔色はわからなかったけれど、目が虚ろだったのが気になった。
サーチライトの正体は、ヘリだった。近くはない。結構上空にいて、音もかすかに聞こえる程度だった。だけど、何のために?
ヘリは、城の周りを回っているようだった。ぐるぐると旋回を続け、立ち去る気配がない。
「なんだ、あれ?」
ヘリを指さそうとしたら、サワダに止められた。
「定期巡回だよ。中王の」
「トウキョウからきてんのか?」
「まさか。オワリ国内だよ。N町に基地がある」
「……そんな」
「おとなしくしてたら、何もしないさ。名目上は、ニホン国内に蔓延る魔物を監視する……だからな。オワリにだけ、あるわけじゃない」
だけど、おかしいだろ。こんなの。
「N町に基地って……。もしかして、お前がN町にいたのって?」
「違う違う。まあ、それも半分目的だけど。学校に行ってるんだよ」
「学校?軍人なのに?あんな剣担いで?」
「週2だけどな。音楽学校に行ってる」
「いつのまに?!てか、なんで黙ってんだよ」
音楽学校!!なんか、そういう話聞くと、ますます沢田っぽい!まあ、あいつはまだ受験するかどうかで悩んでたから、こっちのサワダのほうがすごい気がするけど。ピアノもうまいし。
「いつの間にって言われても……。普通に通ってたぞ。大体、何でわざわざ言わないといけないんだ」
「でも、カントウ行ったりしてたし」
「業務に支障のない範囲で行ってるよ。……ていうか、まあ、特例みたいなもんだけどな。軍人増やすために、ずいぶん優遇された制度が整ってるし。時間の制限と、業務最優先て言う原則はあるけど、士官学校以外の学校に通うこともできるんだ」
軍人を増やすため。
その言葉に、オレはサワダの掘っていた墓を思い出す。
「軍に入らないで、学校だけ行くこともできたんじゃないのか?だって、王族だからって、別に軍に入る必要は……ないと思う」
「まあ、そういうやつもいると思うけど」
ヘリはまだ、上空を回ってた。サーチライトが時々、オレとサワダを照らす。
オレだけじゃなく、サワダも不愉快そうな顔でヘリを眺めていた。
「軍に入ってた方が、いいことも悪いこともある。学校だけ行ってても同じだ。オレは両方行く道をとった。それだけだ」
彼はそれが、誰のためなのか、何のためなのかは言わなかった。
「……おかしいな」
「なにが?」
「見ろ」
サーチライトがオレ達を照らさなくなっていた。そして彼は、城の屋上を指差す。
「とまってるな。なんかしてんの?あれがおかしいってこと?」
「おかしいだろ。定期巡回するだけだ。城に止まるなんて聞いてない」
サワダはあたりを見渡したあと、オレに部屋に戻るように告げた。だけど、オレはそれを拒否し、その場から動かなかった。
「戻れ」
「何で。サワダのそばのほうが安全じゃね??」
いやそうな顔で彼はオレを見ていたが、これは本音なのだから仕方がない。実際、サワダには助けられてきたし。それ以上に、オレの知らないところで何かあるのが嫌なのだけれど。
「アロー。こちらスペード。ダイヤどうぞ?」
あきらめたのか、納得したのか、サワダはもうオレには何も言わず、マイクつきの小型ヘッドフォンのようなものを取り出し、右耳に当てて話し始めた。
「なんかスパイみたいだな」
「黙ってろ、うるさい。こちらの話。どうぞ」
オレに突っ込みながら、無線機に向かって話を続けた。
「そう。鳥が屋上に。……了解」」
ヘッドフォンをちゃんと装着しなおし、勝手口に向かって彼は歩き出した。オレはそれについていった。
「誰?今の。何で携帯使わないんだよ?」
「時と場合による。相手はシンだよ」
「なんでコードネーム?」
「電波傍受されてたら困るだろ?」
あ、そうか。つーかそれって、携帯はフェイクってことか?普段はそっちを使っておいて、緊急時は無線。近いからって言うのもあるだろうけど。上に中王軍がいるから、余計に。
勝手口が見えてきたので、サワダから「黙ってろ」と釘を刺されてしまった。でも、イズミのことを思えば、サワダは口が悪いけど、なんだかんだ言ってちゃんと答えてくれる。
「サワダ中佐。今、屋上に……」
勝手口に立っていた警備の男は、サワダに向かって敬礼をした。彼もまた、屋上に止まったヘリが気になるのか、不安そうな顔だった。
「ああ。君は持ち場を離れるな。外にいるもの以外は、あれを見てないはずだから、口外も無用。追って指示が出るはずだ」
彼よりもずいぶん年上の警備兵は、緊張した面持ちでオレたちを見送った。