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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第6話 続・袖振り合うも多生の縁 08/10
「判った」
彼女は何を思ったのか、漏らすようにそう呟いた。その言葉に、ミハマは満面の笑みで答えた。
腹をくくったような彼女は、「役割を明確にするために」と前置きをして、改めて彼女の周りの者の紹介を始めた。彼女なりの情報開示なのか、オレにはよくわからなかったけれど。
「外にいるセリ・コウタ少佐は、主に『直接的な』情報収集を行なってるわ。おそらく、シンがあなたの下で行なっている仕事に近いと思う」
「そうみたいだね。実は、彼の存在は、港の襲撃時に見かけて以来、誰も見つけられなかったんだ。どこかにいることは判っていたのに」
さらっとそういったミハマに、さすがに隣のサワダが嫌な顔をした。ミハマが簡単にとんでもないことを言ったことに対してか、彼を見つけられなかったことに対してなのか。
ミハマの言うことなんか、サワダにとっては日常茶飯事だし、後者かな。
「そうね。あの時は、サワダ議員に挨拶を兼ねて、姿を見せていたから」
ティアスもそういうことをさらっと言うか。ついさっき、サワダ父とサワダの事を気にしてたと思ったのに。
何かオレだけが、一人で顔色をころころ変えながら彼女を見てるんだろうな。
神経の作りが違うんだな、コイツらとは。
「……で、ここにいるニイジマ・トージ中尉は普段はその手の仕事をしないから、すぐ見つかってたわけだけど」
「オレなりに隠れてたぞ。あんたがばらすまでは」
「自分で出てきたんじゃない」
その件にかんしては、ぐうの音も出ないな、ニイジマは。
「ニイジマって、普段何してんの?」
「お前!?お前が聞く!?」
「いや、セリ少佐は、何かスゴイ人だって、雑誌にも書いてあったし。あの人いるんなら……」
「お前、酷いこと言うよな」
サワダはオレに対してあきれたようにそう言ったのだが、それがニイジマにとっては余計にこたえたらしい。
「いや、ちょっと待って。サワダ中佐もそう思ってるってこと?」
サワダ、目を逸らすもののノーコメント。
「姫!」
「……で、サエキ・カナコ大尉だけど」
「無視かよ!」
思わず苦笑いしながら謝ってしまった。気にしてたのか。
「彼女は、随分情報をお持ちのようですね。統轄本部にいることからネットワークに介入しているのは予想がつきますが、それにしても、この情報は……」
シュウジさんは視線を泳がせながら、何かを考えながら、呟くようにサエキ大尉について述べた。
「ネットワークという意味では、彼女はおそらく正規軍の中でも独自の強固なものを持っているわ。そのおかげで、少なからず正規軍の中にも協力者が出来つつある」
「それは、中央に在籍している者だけですか?」
多分、これはシュウジさんのくせなんだろう。何か考え事をしながら、情報を集めているとき、彼はどこも見ない。目の前の彼女から情報を集めているはずなのに。
「いいえ。そう言うわけではないと思う」
「思う、というのは?」
「私も全てを把握してないの。トージ、どうなの?」
「ごめん、話がよく見えない」
オレにもよく見えない。オレだけじゃなくて良かった。
「……北に、誰か手引きできそうな者はいるか。シュウジさんはそう聞いてんのよ」
そうか。ミハマ達は「何とかする」とは言っていたけれど、確かに北に行くのに障害は少ない方がいい。中央正規軍に協力者がいれば、そんな良いことはないか。
ティアスも、軍の中では結構微妙な立場みたいだし。
「北……第1砦なら、この間まで兵器部に所属していたマツオ少佐か……でも、あの人はあんまりなあ」
「なによ」
「カナさんのこと本気っぽいから、オレ、苦手なんだよ」
この様子だと、ホントに付き合ってんのか、この二人。どう考えてもニイジマが尻にしかれてそうだけど。あの人、かなりもてそうだもんな。
「あんたが行かなきゃいいのよ。メンドクサイ」
「めんどくさいのはオレだって」
「他にはいないの?」
「いや、多分いるはずだ。確認しないとわからないけど。どっかでつながってるだろ。あと、第2砦に軍の内部ではないけど近隣にいるって言う話を聞いたような……」
「サエキ大尉と話す機会をいただけませんかね。それで、ちょっと考えてみます。いいですかね?」
彼女は黙って頷いた。いまさら、どうしようもないということなのか。
「トージ、先に戻ってて。あんた、挨拶って名目でここに来てるんでしょ?」
「了解。カナさん呼んでくるわ」
ニイジマはオレにさりげなく目配せをした後、ミハマ達に挨拶をしてから部屋を出ていった。
おそらく彼は、ミハマ達を完全には信用してないのだろう。その中に再び彼女をおいていくことが不安だからオレを見たんだと、彼の視線がそう言ってるように見えたのは、オレの考えすぎだろうか。外にセリ少佐がいるとは言え、この部屋で、彼女の横にいるのはオレだけだ。
……考えすぎだな。オレはどっちかっつーとバカにされてるような気がするし。いないよりましっつーか。
「で、ニイジマトージ中尉の役割は?」
このタイミングでそれを聞くか、ミハマは。
「見ての通り、私のガードよ?未だポテンシャルを秘めてるってレベルだけど、サワダ中佐に勝たせる自信もあるの」
「それは言いすぎでは……」
だって、確かサワダが優勝したって書いてあった武術大会で、ニイジマは、何位だったかも忘れるくらい中途半端だった覚えがあるぞ。限られた中とは言え、優勝した男に勝てるって、どんだけニイジマのこと評価してんだよ、ティアスは。
「言い過ぎじゃないよ?でも、普通に戦ったら未だ負けちゃうかな」
負かせると言われた当の本人であるサワダは気にした風でもなかったのに、後ろに立つイツキさんが、不愉快な表情を見せたのが不思議だった。ミナミさんがむっとしてる理由は判りやすいけど。サワダをバカにされたみたいで、いやなんだろうな。男が絡んでると、ホントに可愛い、あの人は。
「彼は元々、オワリの人じゃないのかな。話し方とか聞いてるとそんな気がするけど」
「……そう言えば、そんなことも言ってたような気がするわね」
以前、イズミがそのことを気にかけていた。同じコトをミハマも思っていたんだ。ミハマの喋り方が綺麗なのは判るけど、オレやニイジマの方言がきついって言うのは、よく判んないな。
「サエキ大尉やセリ少佐は判らないけれど、君がそれだけ評価しているニイジマ中尉は、君の国の人ってわけではない。3人とも君を追いかけて軍に入った可能性も考えたけど、そう言うわけでもないみたいだし。彼らを信用するみたいに、とは言わないけど、彼らを受け入れたように、少しはオレのことを受け入れて欲しいかな」
「……時間がかかるよ」
彼女が苦笑いを見せたとき、扉をノックする音が響く。サエキ大尉だった。
サエキ大尉は、ティアスを見ることなく、ミハマに敬礼し、一通り形式張った挨拶をして見せた。
そして、やっと彼女の方を見たかと思うと満面の笑みを見せ、近付いてきた。オレの存在、見えてるか?
「やっと動く気になったのね、ティアちゃん☆私、嬉しいわ」
動く気?ってどういうこと?
子供をあやすように頭を撫でるサエキ大尉に、彼女は無抵抗のまま、真っ赤になって俯くばかりだった。