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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第6話 続・袖振り合うも多生の縁 07/10



 ティアスは彼らを、いや、彼を見つめているように見えた。ミハマか、サワダか、オレの位置からではその視線の先を追うことは出来なかったけれど。
  あっちはあっちで、いい年こいたおっさんを含めて、ぎゃあぎゃあと騒ぎながら話し合いらしきものをしていた。

「冷静な判断を、姫……」
「冷静?」

 ちら、っと隣に立つニイジマを確認してから、彼女は再び彼らに視線を戻す。今度は、彼女が明らかにサワダを見ていたことが確認できた。
  結局、ここでもオレは、サワダに彼女をとられてしまうってことなんだろうか。

「いつだって、冷静だけどね」
「冷静じゃないやつは、みんなそう言うんだ」

 それにしても、ホントに上司に向かって失礼なやつだ。

「冷静なら、どんな判断をするというの?」
「どうだろう。今、オレ達の動きは止まったままだ。この膠着状態から抜け出すために、何か策を打った方がいいというのは理解できる。だけど、その策が、彼らとは思えない」
「どうして?」
「手に余る」
「そうかしら?」
「未知数だ」
「それはトージの判断でしょう?それがあなたが私に求める『冷静な判断』ってやつ?」

 ニイジマは黙ってしまった。そして、言いにくそうに目をそらしながら、しどろもどろに話し始めた。

「つーか……完全なる、その、冷静な判断を求めるって言うのは、やっぱ無理があると思う。あんたはひどく人間くさいし」
「人間だもの、当たり前でしょ。失礼ね」
「人間は、理性だけでは判断なんかできやしない。計算や合理主義だけで何かをしようだなんて、無理な話だ」
「当然でしょ?」
「だからこそ、オレ達はあんたについてる」

 サワダ達から視線を移し、怪訝そうな顔でニイジマをみつめる。

「今更、どうして自分自身を説得しようとしてるの?いやなら降りればいい」
「いや、想定外っつーか……なんていうか、心配になる」

 そう言ってニイジマが見たのは、彼の主ではなく、サワダだった。

「決まったか?」

 見られてることに気づいたのか、そう聞いてきたのはサワダだった。ミハマもこちらを見ていた。

「……決まったか、って……」
「ミハマの意志が固まっている以上、こちらはその部分が揺らぐことはないですからね」

 シュウジさんはニイジマの疑問を、「ミハマの意思」という言葉だけで片付けてしまった。

「現場に落としこむのは、われわれの仕事ですから。判ってますね?」
「意味わかんないし。オレに喋るなってこと?」
「あんた、最近余計なこと言い過ぎなんですよ!自由に動きたいんなら、少しはおとなしくしてなさい」

 こっちはこっちで、王子様は王子様扱いされてないし。でも、誰も止めに入らないって事は、そういうことなんだろうな。

「大丈夫だよ。このままじゃいけないと思ってるから、君たちも動いてるんだろ?それはオレたちも一緒だよ。その目的は違っても、たまたま方向が同じところを向いていたくらいに考えればいいんじゃないのかな」
「そんな簡単なことじゃないでしょう?」
「巻き込むつもりだったんだろ?」
「そうだけど」

 彼女の心変わりの原因は、彼らにあるのは明白だ。

『だけど、やっぱりダメだよ。誤魔化して、巻き込もうと思ってた。でも甘えるわけにはいかない。そんな風に思ってくれてるのに』

 彼女は、彼の思いを知って、巻き込んではいけないと、そう言ったのだから。

「何か心配?巻き込もうとか、甘えないとか。オレたちと君たちは、そんな関係でもないでしょう?君の部下は、君が感情的になりすぎていることを心配しているのに」

 ミハマはみんなで騒いでいただけかと思ったのに、ニイジマとティアスの会話をしっかり聞いていたらしい。意外と侮れない。

「感情的ではないよ。申し訳ないと、考え直しただけ」
「どうして?君は重たいと言ってくれたけど、そんなことは、オレ達にしかわからない。たとえば……」

 話を続けようとしたミハマを、隣に座るサワダがとめ、代わりに話し始めた。

「オレの父親、サワダテッキと創世記メンバーの関係の話?端にうちの王子様が、思った以上に本気だったからって、気後れしたわけでもないだろう?」

 いや、気後れしてるって。ティアスは……ホントはやさしいいい子なんだって。絶対こいつ誤解してるって。
  大体、サワダはこんなときばっかりずるいんだよ。このタイミングで、どうしておまえが父親の名前を出すんだよ。
  気持ち悪い。サワダのずるさが、妙な割り切りが。なのに、周りがみんなサワダに気を使ってることが。その気遣いに、おまえは気付いているようで、本当の意味では気付いてないんじゃないのか?それをティアスも、ミハマも、どう思ってるんだ?
  なんかサワダって、結構いいやつだと思ってたのに、ただの大ボケのドンカン野郎なんじゃないだろうか。

「まあ、ゆっくり考えてよ。なんとなく、状況もわかってきたし。時間がないのは、多分オレ達ではなく、君達だし」

 あっさりと、いつもの穏やかな笑顔でそう言い放った王子様は、その台詞の重さを本当はどこまで理解しているのだろうか。彼女を追い詰めていることを自覚して、その台詞を吐いていること。……わかってるか、わかってるよな、ミハマなら。わかってて、この状況でリリース?今まで、何のかんのと言いながら、追い詰めたり突き放したりしたくせに。これって自然なのか?

「ミハマ、そういうわけにはいかないでしょう。あなたはよくても、状況も、彼女達も、そして我々もそれは……」
「大丈夫だよ。ここであったことを、ここにいる人間が、一切口外しなければいい。たったそれだけのことだ。彼女はさっき、口外しないと言った」
「……ですが」

 といって、シュウジさんが助けを求めるために視線を向けたのは、なぜかニイジマだった。

「しないよ。できるわけもない。わかってるでしょう?」
「そうだね。これは『取引』だ」

 まるで針で指されたような痛みを背中に感じた。これが、「背筋が寒くなる」ってやつなんだろうか。ミハマはあの穏やかな表情のままなのに、彼の言葉はいつもどおり重く温かいのに、なのに、彼の言葉がオレに重圧を感じさせる。
  隣で聞いてるオレがそうなんだから、それを向けられた彼女はどう思ったのか。

「まだ、納得できない?」

 彼女は、黙って彼を見つめていた……だけに見えた。彼を見つめたまま、頷いた。

「ずるいな、ミハマは。意外とうそつきなんだもの。……違うか、うそつきなわけじゃない」

 彼女の独り言のような言葉に、彼は微笑を返すばかり。

「言わないだけだ。ねえ、ミハマ。あなたにとって大事なのはいったい何?世界が見たいとか、そんなこと、本当はどうでもいいんじゃないの?私のこと……」

 どうでも良くはないんじゃないのかな?どうでも良いのに、危険を冒してまで動こうとするというのなら、そのほうがよっぽど意味がわからないし。それもひとつの理由のような気がするし。確かに、彼女を助けたいって言う思いが先だと思うけど。
  だけど、彼女のため、なんていったら、彼女は引いてしまう。なんと言うか、めんどくさいな。

 ……今オレ、めんどくさいって思った?

「うん。どうでもいいかな、多分。ティアスは多分、オレを誤解してる。オレは別に、君の国がどうとか、君の家族がどうとか、本当のところはきっと、どうでもいいんだよ。そんな高尚な人間でもないし。自分と、自分の回りのことしか考えられない、ごくごく普通のちっぽけな人間」

 自分のことなのに、まるで他人のことを言うように突き放した。

「そう?どう、ちっぽけ?ホントにそうなら、動く理由がないもの」
「どうして、立派な理由がある。オレは、自分と自分の回りのことしか考えてないって言ったろ?オレには守るべきものがある。この小さなコミュニティを守るために、オレは動く」

 彼の言う「コミュニティ」がなんなのかは明白だった。
  家族でもない、国でもない。王子様は、自分と、自分の護衛部隊がすべてだとそういった。

 思ったよりくだらなくて、思わず笑いそうになってしまったのを必死に隠していた。


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