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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第6話 続・袖振り合うも多生の縁 06/10



「もう、良いかな。これ以上、聞くこともないでしょう?」

 彼女はケガをしているはずなのだが、何事もなかったかのように、立ち上がった。立っている姿勢も歩いている姿も綺麗で、この国にいるどの軍人とも違う振る舞いをしているのが印象的だ。

『ティアス』

 オレの声も、ミハマの声も、彼女は無視して続けた。

「大丈夫よ、この国は出ていくから。正体が知れたとなれば、戻るしかなくなるから。中王にも誰にも、この場のことは言わないから、安心して」

 彼女の横に、ニイジマが黙って立っていた。彼は彼女の様子を伺っているようにも見えた。

「ティアス、座って」
「ダメよ」
「良いから座って。オレだってそんな、簡単に力になりたいなんて言ってないから」
「判ってるよ。だからこそ」

 彼女が声を荒げそうになったとき、ニイジマが動き、彼女の前に立った。

「ダメよ……」

 ニイジマの肩越しに、彼女はミハマを突き放した。

「最初は味方に引き込む気だったんだろ?座りなよ。そのまま続ければいいんだ」
「でも」
「取引だ。座れよ。うちの王子様は、こうなったらお前が座るまで言い続けるぞ?」

 溜息をつきながら、サワダが彼女を見つめていた。

「取引って?」
「お前に力を貸すために、オレ達に利益があるようにすればいいだけだ。良いから座れ」

 あくまで命令口調のサワダの言葉を、彼女はあっさりと飲んで座った。それと同時にニイジマもソファの後ろに移動する。
  二人で話してる所って、実は覗き見以外ではあまり見たことがなかったけど、いつもこんな感じなのだろうか。

「……利益なんかあるの?」
「あるかな?」

 考え込むミハマの代わりに喋ろうとしたシュウジさんを、サワダは押さえ込んで話し始める。

「あるよ。北の大陸に、オレ達も行きたい。世界の広さをオレ達も体感したい。充分だろう?」
「メリットかな。行きたいけど」

 サワダが彼女を納得させるためにとってつけたメリットに、突っ込んじゃダメだろう、王子様。こいつは、あんたのためにやってんだから。いや、彼女のため、彼なりの遠回しの愛情表現かも知れないけど。

「とりあえず、シュウジは大喜びだろう。それに力を貸すってことは、どうせ遅かれ早かれ行くことになるんだろうし」
「ええ。たまには良いこと言うじゃないですか、テツも」
「こうでも言わないと、コイツもそいつも納得しないだろうが」

 ミハマとティアスを指さすサワダ。後ろでイツキさんが苦笑いしている横で、ミナミさんが不愉快な表情を見せていた。多分オレも、彼女と同じ顔をしていただろう。彼らの距離の近さに腹が立つ。

「北にって言っても簡単には行けないのよ?」
「でも、北にある門を守ってるのは、ティアスと同じ正規軍の人じゃないのか?」

 オレの疑問に、彼女は首を横に振る。

「許可証がないと、正規軍でも簡単には。北の門を守ってるのは、ハスヤ元帥の息がかかったコノエ少将だし。それに、私のことを中王が……」
「そっか、中王が君を外に……」

 許可を出すわけがない。果たして中王が、彼女を簡単に北へ行かせるだろうか。

「それこそ、オレが動けば何とかなるだろ?」

 ミハマはいつもの邪気のない笑顔で、あっさりとすごいことを言ってのけた。どれだけ自信家だよ!と突っ込みたくもなったけど、実際、それくらいの力はあるのだろう。

「……オワリくらいの力があれば、確かに許可証が出るかも知れないけど」
「そんなときくらいしか、この立場は利用できないって。それに陸ルートがダメだったとしても海ルートもある。どこか、あがれる場所があればだけど」

 懸念事項をあげるミハマだったが、その口調に悲壮感はなかった。しかし、彼の言うとおり、地図を見る限り、海ルートは陸ルートと何ら変わりがない。どこから陸に上がるというのだ。もっと深刻に捉えるべきなんじゃないのか?

「……海からあがれる場所なら、あるはずだ」

 呟くように主に進言したサワダを、一瞬全員が見つめた。必死で目を逸らす彼に対してどう思ったのか、ミハマは何もなかったような口調で話を続けた。

「オレは君を北に連れて行く。オレ達は北を案内して貰う。この世界の果てを見たい。それを、オレ達のメリットだと思ってもらえたら、確かに立派な取引だ」

 世界を、その果てを見たいという思いは、別にシュウジさんだけのものではないのだろうか。ミハマもサワダも、簡単にその言葉が出てきた。でも何で、そんなことを?自分の世界を守っていくのが精一杯だろ?今の状況では。

「大したことではないようにおっしゃっていますが、どうなさるおつもりで?少なくとも僕があなた方をこの国で見ていた限りでは、あなた方にそんな自由はないように思えますが」

 まるで彼の主の思いを代弁するかのように、ミハマに問いただしたニイジマは、未だ彼女の前を動かなかった。

「そうだな。しばらく国を離れたいとでも父には言ってみようか。理由はいくらでも付けられるし」
「一番言ったらダメな理由を言ってしまいそうですけどね、あなたは」
「そんなこと無いって。ただ、他に思いつかないかも。中王にはなんて言ってみようかな。海外視察とか?」
「陸地の国境越えはお前の顔で問題なくできるんだから、とりあえず日本の端っこまで出て、勝手にニホン海を渡ってけば良いだろうが、許可なんか取らずに」

 この人達、気のせいか、今決めてないか?それで良いのか?

「どうします?姫」
「どうしますって言われても……困るわね」
「困るって言われても、オレ達の頭はあんたなんだから、あんたが決めないでどうする」

 それが『頭』に対する態度か?と突っ込んでやりたかったが、ニイジマもティアスも、いたってまじめな顔だったので、できなかった。

「どっちかだけ、はっきり指示をくれ」
「どっちか?」
「この人たちを、巻き込むのか?巻き込まないのか」

 『できれば味方にしたい』と言っていたはずの彼女の意思を、彼は再び確認した。


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