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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第6話 続・袖振り合うも多生の縁 05/10



「あなたの兄君は、今、東の果てにいると言うことですか?国は?」
「お前、ちょっと黙ってろ、先走りすぎだ」
「シュウジさん、立って、テッちゃんと代わってください。テッちゃん、殿下の隣に座って!」

 業を煮やしたイツキさんがシュウジさんを引っ張る様子を、ミハマは苦笑いしながら見ていた。ソファの後ろで、シュウジさんの隣に立つイツキさんの手には、手綱が見えるようだった。
  仕方ないといった顔で、主の隣にサワダが座る。二人が並んで座っている姿が、何だか妙な感じだった。

「あはは。シュウジさん、私の国に行けば、もっと面白いものが見られるわよ?」
「国?墓になっているというのにですか?確かに、あなたの兄君がいると言うことは、未だ国として……」

 サワダに振り向かれた上で睨まれ、イツキさんに抓られながらも、彼はソファの背に手を置いて身を乗り出す。またミハマに怒られそうだけどな。

「残っていると言えば、残ってる。あの国は、中王にとって残しておかないといけない国なのよ、未だね」
「それは、西の果ても同様と言うことですか?と言うことは……」
「わざと、進軍をしなかったって言う可能性もあるね。そして、東の果てだけを押さえた。君を中央に連れてくることで」

 やっぱりミハマは怒ってるような気がした。シュウジさんがあんなにテンション上がってるのに、わざわざ間に割って入るくらいだから。

「私が生まれたときには、あの国は既に『魔を統べる国であり、魔物のいる国』としてニホンでは認知されていた。兄の話では、今の中王に『変わる』前にもそう認知されていたと聞いてるわ」
「あなたの兄君は今おいくつなのですか?ご存じの通り、こちらにいては、大陸の情報は歪んだ形でしか入ってこない。魔を統べる一族と言われるだけで、人の形を成していないと思っている者もいるくらいですからね」

 シュウジさんの言葉に、当のティアスは苦笑いを浮かべただけだった。オレ達の代わりに、イツキさんが再び彼を抓ってくれていた。

「情報が操作されている、良い証拠だわ。ティアスがあの空から来る魔物のようには見えないもの。ですよね、殿下」
「そうだね」

 そう言ったイツキさんも、黙ったままこちらの様子を伺っているミナミさんも、不愉快そうな顔をしている理由が判らなかった。ティアスに対する疑いもあるのだろうけど。

「化けてるだけかもよ?だって、魔を統べるし、操るんだから。魔を生み出す西の果てと、東の果ては、密接な関係にあるんだから」
「君が化けてようが関係ないよ。そんなことは、君の国に行けば判るし、行かなきゃ判らない」

 ミハマは彼女を真っ直ぐ見つめた。その顔に笑みは浮かんでいなかった。

「魔を統べるということは、魔を操ることが出来る。それがどの程度かは判らないけれど、君の国のどの程度の人がそれを出来るか判らないけれど、それは確かだと言うことだ」

 ミハマに圧倒されたのか、彼女は黙って頷く。彼の周りにいる者も、誰も何も言えない。もちろんオレも。

「東も西も、このニホン、いや中王にとって重要だからこそ、情報操作をされた上でこの国から隔離された。そしてその国を自身の思い通りに動かすため、適当な名目をつけて東の果てに中王は進軍、君は中央にやってきた」
「そうね」
「おかしくない?」

 彼は、彼の護衛部隊を見渡し、最後にオレ達を見た。

「人質って言うけれど、顔を隠してはいるけれど、君は何で中王軍にいるの?」
「殿下、やはり彼女は……」

 ミナミさんが立ち上がり、ミハマのそばに駈け寄ろうとするが、それを彼は笑顔で制した。

「……なあ、ティアス。そんな突っ張った言い方するけどさ、ホントは無理矢理なんだろ?中王に無理矢理連れてこられて、協力させられてるんだろ?ティアスが魔物を操れるから、国をたてに、強力を無理強いさせられてるんだろ?」

 彼女の腕を掴み、そう聞いても、応えてくれなかった。ティアスだけでなく、ニイジマですら。ここはお前がフォローに入らなくてどうするんだよ。
  ティアスは何も悪くないし、そう考えたら、自然じゃないか。彼女は悲劇の姫君で、それで良いじゃないか。

「軍にいる必要も、理由もない」

 ミハマは、ティアスのことを好きなんじゃないのかよ。何でそんな突き放すようなことをするんだよ。……サワダは?

「……そうだな。敵じゃないのか?」

 今まで控えめに彼女をフォローしながらも、黙って様子を伺っていたサワダが、やっと口を開いたかと思ったら、彼女を突き放すような疑問をぶつけてきた。

「オトナシ……あの男は私に部下をくれ、場所をくれ、チャンスをくれた」

『カズキ元帥は、彼女から魔物について情報を得ていたのではないでしょうか?』

 中王が自分に好機をくれたと言う、彼女の言葉も行動も、やっぱり矛盾だらけだ。だけど、彼女より矛盾だらけなのは……

「やっぱり、オレにはあの中王が何を考えているのか、全く判らないよ。君が望むにしろ望まないにしろ、君が人質だというのなら、軍にいる必要はない。かつて、前中王の姫が軟禁されていたように、あの広場で飼い殺せばいいだけだ」

 ミハマの隣で頷くサワダ同様、オレにも中王の考えは判らなかった。

「あの男は矛盾を孕んでいた。でも、彼は何も危険がないと思っているかもしれない。私をただ飼い殺すことも、軍に置くことも、あの男には同じなんでしょうね」

 自身の存在の小ささを、彼女は嘆くようにそう言った。

「軍にいることを望んだのは、君なんだ」
「ええ」

 彼女を真っ直ぐ見つめる彼を、彼女は見つめ返す。睨み合っているのとも、恋人が情熱的に見つめ合っているのとも違う。穏やかで重い見つめ合いだった。

「私が望んだ。ただ、捕らわれたまま、何も出来ないまま、国が墜ちていくのを待つのはいやだった。私には、『果ての王族』としての責任がある」
「軍に入らなくても、責任は果たせそうですけどね。そんなこと言ったら、うちの王子も前線に立たなくてはいけなくなりますよ」
「オレは別に良いのに」

 ミハマの嘆きを、サワダが一瞥する。話を振ったシュウジさんは、溜息と苦笑いを零すだけ。

「でもよかった。やっとホントのことを言ってくれて」
「ホントのこと?」
「君の意志を、聞きたかった」

 微笑むキラキラ王子。それで良いのか?オレは、不安になったぞ?だって、ホントにティアスから意志なんて聞けたのか?自分を追いつめた中王をどうしたいとか、国をどうしたいとか、そう言う話じゃないのか?
  ティアスは悲劇の姫君だ。オレは彼女を判ってやれる。だけど、彼女が味方にしたいと言った、この人達にそれが通じたのか?疑ってたし未だ疑ってる可能性があるのに、そんな簡単に結論出されても。

「よかったら、もう少し聞かせて欲しい。君がどうしたいか。オレに何か出来ることはないか」
『ミハマ』

 サワダとティアスが、同時に彼に声をかけた。少しバツが悪そうな顔を見せた二人に、彼は微笑んだまま応える。

「オレは君の力になりたい」

 まるで告白のような彼の言葉に、彼女は俯いた。照れながら。
  昨日「力になる」と言ったときには伝わらなかった彼の思いが、やっと彼女に届いたようにも見えた。だけどオレはやっぱり、綺麗な映画を見せつけられているような気分だった。

「異論はないだろ?」
「殿下がおっしゃるなら、いたしかたありません。時間が経てば判ると言うことでしょうから」
「あら良いじゃない、はっきりして」
「まあ、今さら何を言ったって、聞きやしないし、だれも逆らう気がないですからね。シンの反応も、大体予想つきますし」

 隣で頭を抱えるサワダを除いて、彼の護衛部隊は彼に逆らう気はなかったようだ。多少の文句はあったようだが。

「ありがとう。君たちが味方になってくれることは心強いよ。味方に引き込めれば、とも思ってた」
「……姫?何言って……」

 ニイジマ同様、オレも言葉にならなかったが、彼女を止めようとした。そんなこと言ってどうする気だよ。

「だけど、やっぱりダメだよ。誤魔化して、巻き込もうと思ってた。でも甘えるわけにはいかない。そんな風に思ってくれてるのに」

 ミハマから目を逸らす彼女は、やっぱり照れているように見えた。確かに、あんな風に見つめられたら、オレだって照れちゃうけど、その反応はちょっと無いぞ!?生々しさがないからと油断してたけど……。

「シュウジさん、さっきあなたが言ってた『仮説以前』の話。してもらっても良いかな?それって、この国の成り立ち、果ての国と中王の関係じゃない?」
「え?ええ。しかし、あくまで……。いいでしょう。地殻変動後のこの星は不安定でいつ崩れ去ってもおかしくない状態だったものが、奇跡的にもっている。それは実は東の果て、西の果て、中央の3点のバランスがとれているときだけであるという話です。しかしこれは、あくまで記録に残った事象を照らし合わせた結果から導き出したもの。他の可能性の方が高いでしょう。特に、昔のことは、どこまでが事実か判りませんしね、今の状況では。イムラ先生の持っていたデータですから、それなりに信頼できるとは思いますが」
「良い線いってるよ。このリストに載ってる人が二人いたら、そこまで行き着くんだ。意外と、このブラックリストは的を射てるのかもね」

 思い出したように、サワダはティアスに携帯を返した。シュウジさんに「覚えた?」と聞いてから。あんなにたくさん名前が並んでるのに、覚えれるのか?この短時間で。

「『中王』と二人の『果ての王』がこの不安定な世界を支えている。だから『果ての国』は滅ぼされない。だけど今の中王は、あの国を生かさない」
「ティアス……」

 彼女の声は震えていた。泣いてはいなかったけれど。

「君たちに責任があるわけじゃないのに、そんなの重すぎるでしょう」

 彼女には兄しかいない。その事実よりも、重くのしかかる責任が、彼女を震えさせているのだろうか。

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