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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第6話 続・袖振り合うも多生の縁 04/10


  オレの隣に座る彼女は、顔色一つ変えずに、シュウジさんの言葉を受け止めていた。だけど、こんな状態、ティアスのためによくないだろう。

「意味判んないし。何でそんな魔物を自在に操る人が、わざわざ魔物を退治するのさ?おかしくない?」
「可能性としては、パフォーマンスである……とか?」

 ミナミさんと同じコトを、シュウジさんも言う。だけど、ティアスは変わらない。オレだけが不愉快な顔を見せているのに、彼は無視して話を続けた。

「しかし、それを誰に対して行なっているか、判らないんですよね。オワリの王にならともかく、ミハマにそれをしているんだとしたら、ずいぶんと見くびられたもんです」
「どっちかって言うと、オレの方が軽く見られると思うけど。外から見たら、オレはご大層な護衛部隊に守られてるだけの、ただのお飾りでしかないんだから」

 確かに、ミハマは自身が言うとおり、お飾りに見られかねない。良くも悪くも綺麗過ぎる見かけだし、雰囲気は常にふんわりほんわかしてるし、それにオワリでは、王や元老院の前ではあまり喋らないし。

「ご大層だと言われてると知っていたら、それをまとめているあなたも、それなりの評価を受けていることも知りなさい。そう言うのは多少、頭の回るもの、ですけど。我々が、あなたをいかにもお飾りのように扱えていればよかったのですけれど、残念ながらそうではない。少なくとも、テツがここにいるだけでも、あなたの評価は高い。この国以外ではね」

『ミハマはね、サワダ中佐を懐に入れることで、彼を守っているの。サワダ中佐のためのシェルターになってるのよ、この狭い世界で攻撃に晒されないように』

 その評価を、ミハマ自身が望んでいるとは到底思えなかった。けれど彼の、彼らのシェルターになると言うことは、そう言うことなのだ。
  それにミハマは、そんなこと充分すぎるくらい判っているはずだ。

『ブラックリストに載ってる戦士が二人、中王に与する気のない研究者が一人。その3人が、一人の人間に仕えている』

 それが、ミハマの価値だと。この国に彼女が来た理由だと、彼女はそう言っているようだった。

「話がそれてるよ。なんかもう、シュウジは話が長いよ」
「懇切丁寧に説明してるんじゃないですか!あなたは率直すぎるんです!」
「……どっちもどっちだろ。わざわざ人払いに二人も出てるんだから、さっさと話を進めろ」

 サワダは溜息をつきながら、二人が座るソファを後ろから蹴った。
  ……コイツには借りがある、と思う。いろんな場面で。多分、オレはこいつを嫌いじゃない。むしろ好ましく思ってる。まあ、オレのいた時代の沢田みたく、友達になれるかっていったら、ちょっと暗すぎて難しいかもしれない。
  だけど疑念は、増えていく。どうしてこの場で、彼はほとんど口を出さない?ミハマと自分の立場を明確にしているのか?シュウジさんに気を使ってるのか?とも思ったけれど。だけど違う。明らかに彼が気を使っているのは、ティアスだ。
  だっておかしいだろう。あんなに二人きりでいたくせに、彼がなにも知らないわけがない。大体、シュウジさんの情報だって、いくらかはサワダ経由のはずだ。その証拠に、彼はサワダに気を使ったんだから。

「そうでしたね。せっかくこんな、なかなか見ることの出来ないモノも見せてもらえましたし」
「この国が、中王の標的にされてる理由を述べるだけにしては、その資料は重すぎない?ティアス?」

 ミハマの言葉に、彼女は応えなかった。仕方ない、と言った顔で、ミハマは続ける。

「だって、中王正規軍の軍人の名前も載ってるっていうのは、何というか、ちょっと意味合いが変わってくるよね。テツはあぶり出しだって言ったけど、それは、正規軍の中からも反乱分子をあぶり出してるのかな?それとも、危険分子?武術大会で上位に行ったからって反乱を企てるわけでも無し。名前をみたら判るだろ」

 後ろに立つサワダに携帯を渡し、もう一度きちんと見るように指示をした。

「オレより、シンの方がよく調べてるよ。オレは話したことがある奴しか正規軍は覚えてない」

 イズミは表にも出てこないはずなんだけどな。どんなデータベースだ、あいつは。
  文句を言いながらも、サワダはリストとにらめっこしていた。

「明らかに子飼いのヤツもいるな。意味が判らん。でも、反乱分子とか危険分子をあぶり出してるなら、『創世記』メンバーは楽師の正体を知ってるのに、その下にいるセリ少佐やニイジマ中尉をブラックリストに入れておきながら出世させる理由が判らん。……中王から見たら、墓の女なんて、危険分子でしかないはずだろう?」

 オレには、ミハマがその言葉を受けて微笑んだ理由が、少しだけ判るような気がした。彼は、サワダが彼女に対して絶対的に悪いと思ってないことが嬉しいのだ。彼はそう言う男だ。けれど、オレは不愉快だった。彼の彼女に対する思いが。

「出世くらい、大したことじゃないのよ。だって、飼い殺してるんだもの。私のことも、この人達のこともね。反乱分子だろうと危険分子だろうと、彼は知ったことじゃない」
「……知ったことじゃないとは、また随分酷い扱いですね。中王があなたにそう言ったのですか?」

 シュウジさんが、メガネの奥から彼女を見つめる。彼女の反応を見逃さないように、じっと。

「残念ながら。そう言ったのはサカキ元帥よ。中王であるオトナシには、何もかもどうでも良いんですって。私は聞かない。彼が本当の言葉を伝えるのは、『創世記』メンバーだけ」
「サワダ議員は聞いてないんでしょうかね」
「さあ?本人に聞いてみないと」

 疑われても仕方ないのかもしれないけれど、それでも、そんな風に見られる彼女が辛かった。

「大佐があの方と会ったのは、この間の広場が初めてだよ。よく知ってるはずだ」

 ニイジマがシュウジさんを責めるような言い方をしたことに、オレは少しだけ驚いた。
  いや、驚くことでもないか。彼はあの時、彼女の正体がばれることと、彼女の身の安全を天秤にかけ、彼女を守ることを選んだくらいだから。驚いたのだとしたら、オレが思っていた以上に、ニイジマが彼女のことを大事にしていたと言うことだ。彼女がいるとは言っても、コイツも怪しいもんだ。

「あんたもめんどくさいな。誤解されてんの判ってんだから、ちゃんと説明しろよ」

 彼の言う「あんた」が、オレの隣に座る彼の上司だと判ったから、思わず振り向いてしまった。彼女は、彼を無視していたけれど。

「大佐殿」

 怒ってる……怒ってるよ……。ニイジマって本気で怒ると、結構怖いんだ……。怒鳴ったり喚いたりするのは知ってるけど、怒ったのを見るのは初めてだよ。特にこっちのニイジマは、強そうだから余計怖い。

「オレもめんどくさいの、あんまり好きじゃないな。オレ達が知ってることなんて、この程度だよ。だから、ちゃんと教えて欲しいし」
「この程度って?」

 彼女はそう言ったミハマを見て、シュウジさんを見て、再びミハマを見た。その間、もちろんミハマは眉一つ動かさなかった。

「知ったことが、事実とズレを持ってるってこと。そのズレの正体は分からないけど」

 彼の隣でシュウジさんが嫌そうな顔をしていたけれど、彼は真っ直ぐに彼女を見ていた。

「そうでもない。大体合ってるよ。その場に行けるわけでもないのに、よく調べたな、って思うよ。それに、トージの言う『誤解』を誤解と言っていいのか、私には判らないし」
「誤解だ。あんたが悪く見られる意味がない」
「けれど、一つの事実を、誰がどんな感情で見るかを、わざわざ曲げる必要はないと思うよ」
「曲げるわけじゃない。誤解を解くんだと言ってる。解く気がないなら別だけど」
「そうだね。ニイジマ中尉の言うとおりだと思う」

 少しだけ困ったような笑みを見せたのはミハマだった。彼は、随分大人びて見えた。

「『東の果て』と『西の果て』。この国はあの地殻変動後、世界が変わり、魔と呼ばれる存在の出現と共に、世界を統べる中王が現れたのと同じ時期に現れた国。この二つの国にはそれぞれ一人ずつ『果ての王』が存在する。『西の果て』は魔を生み出し、『東の果て』は魔を統率するものが住む」

 シュウジさんの目が輝いたのが判る。思わず前のめりになった彼を、後ろからサワダが引っ張った。

「それはこの国では隠されているけれど、君の国には残っている話?」
「ええ。この世界の、国の成り立ちに関わること、そしてこの国を存続させるためにも大切な話」
「ああ……その話、証拠が少なすぎて、仮説以前の話でしかなかった、この……」

 ああ、やばいやばい。目がいっちゃってるよ、この人。サワダが必死で止めてるけど、押さえ切れてないし。かなり大事な話だと思うんですけど。

「シュウジ、ちょっと黙っててよ」

 サワダに加え、ミハマまで、彼の頭を小突いて止めた。良いのか、この30代は。

「君は、その東の果ての王族ってこと?そんな話を知ってるってことは。そして、生かされ、中央にいるってことは」
「人質って所かしら。直系の王族は、もう私と兄しか残っていないわ。みんな殺されたから」

 彼女は簡単に言うけれど、その事実は重すぎた。

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