無料連載小説サイトwing of fragment です。 ファンタジー恋愛群像劇、学園恋愛物、学園恋愛FTをテーマにメルマガ、サイト上にて小説を連載しています。
Copyright (C) Erina Sakura All rights Reserved. Please don"t distribute any texts and images from this website without permission

連載,小説,FT恋愛,FT学園,BL,学園恋愛,携帯,女性向,ファンタジー恋愛群像劇,学園恋愛物,学園恋愛FT

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第6話 続・袖振り合うも多生の縁 02/10


  シュウジさんは賢い人だと思ってたのに、よりにもよってティアスのことを、魔族を統率する一族の王だなんて。どこからそんな発想が?!こんなに可愛いのに!!

「違いますよ」

 否定したのはティアスではなく、セリ少佐だった。彼もまた、イズミやサワダのミハマに対する盲目的な部分を、ティアスに対して持っているように見えた。少なくとも、今の必死な言い方からは。

「似たようなものよ?」
「姫、そこはきちんと否定してください。誤解をされやすいとハスヤ将軍もずっとおっしゃってましたから」
「もー、すぐにリョウのこと言う。めんどくさいな」
「誤解ですかねえ……。テツ、申し訳ありませんが、私の部屋からあの黒いファイルケース持ってきてもらえます?」

 空中にファイルケースらしきものを描くように手を動かしながら、サワダに指示をする。

「こういう話をするって判ってんだから、持ってから来いよ」
「待って、テッちゃん。それ、部屋にはないから。この間シンに貸してたじゃない、この人」

 部屋を出ようとするサワダを止めたイツキさんが、彼らを諭す。それにしてもシュウジさんがそんな大事なものを人に貸すかな?案の定、シュウジさんが嫌そうな顔をしていた。

「ああいうのは『貸した』とは言いません。勝手に持っていったんです。全く……」

 立ち上がり、ベランダに向かった。イズミはいつもベランダにいるわけではないけど、声をかけたら来るのかな?

「あんまり意地悪しないで、教えてくれないかな?」

 やっと口を開いたと思ったミハマの表情は、やっぱり変わらない。じっと黙ったまま、笑顔を崩すことなく彼らの話を聞いていた。

「意地悪も何も、間違ってるなんて言ってないし。あの大陸にある国の王族。間違ってない」
「要するに、『魔物を統率する力を持った一族』って言うのがちょっとずれてるのかな?ごめんね。シュウジに説明させないと、横やり入っちゃうからさせたんだけど、回りくどくなっちゃうね」
「言いにくい?」

 そう言った彼女の視線が一瞬だけど、ミハマの後ろに立つ男を見た。オレはそれを見逃さなかった。
  そして、おそらく目の前の笑顔のままの男も。

「いや。そんな関係じゃないから」

 笑ったままなのに、彼の視線が真っ直ぐ彼女を射抜いているのが判る。威圧感……と言うには柔らかすぎる気がするけど。

「昨日の魔物の襲撃。応接用のテラスに2体、中庭に1体。三位一体型のヤツが二手に分かれてきた。この魔物は通常、夜間をメインに現れるタイプだけど、今回は昼間に現れている。それから先日、君とテツが倒した魔物も同じタイプにも関わらず、二手に分かれて現れている」

 オレとミナミさんの前には一体しか現れなかった。二手にって言うことは、サワダとティアスが、もう2体倒していたってことか?別の場所で。それともイズミか?
  そんな色気のある話ではないと判っているけど、彼らがどれくらい一緒にいたか、随分変わってくる。

「随分、データが取ってあるのね」
「オレの護衛部隊が、オワリの魔物対策の要だからね。残念ながら」

 もしかして、データが取れるほど戦えないってことなのか?普通は。

「昨日のも先日のも残りカスをシンに採取してきてもらってる。分析した結果、2つのことが判った。この魔物が夜間、ニホン各国に現れるモノとは似て非なるものだと言うこと。それから、脳神経を操作した痕があったと言うこと」

 これは、オレの憶測でしかないけど……もしかしたら、ミハマが彼女に時間を与えたのも、それを彼の護衛部隊があっさりと了承したのも、彼女のためではなく、その事実を調査するためだったんじゃないだろうか。イズミが、サワダが独自に動くのも、ミハマの掌の上でしかなかったら。
  だとしたら、オレはどうしたらいい?彼女は彼を味方にしようとしていたのに?信用できる方だと言っていたのに?

「君か、あるいは君の協力者か、それとも君のバックにいる人か……いずれかがその魔物に対する操作を行ったと言うことになる。誰の意志で、どう動いているかはあくまで憶測でしかないかもしれないけど」

 さっきは「違います」と言っていたはずのセリ少佐に、オレは期待したけれど、彼は動かなかった。ミハマの言うことが正しいのか?だけどこのままじゃ、彼女の立場が悪くなる。
 
『今日の襲撃は、仕組まれたものよ。あの人と、私の手でね』

 けれども、オレも彼女のあの台詞しか知らないのだと言うことに、いま気付いた。

「先日の襲撃は、君たちの予想通り仕組まれたものよ。あの人達と、私の手でね」

 彼女は、オレに言った台詞と同じ言葉を、彼にも伝えた。

『なんでそんなことに、彼も君も、加担をする羽目に?』

 だから当然、サワダの父親に対して、ミハマも同じ台詞を吐くものだとばかり思っていた。

「意味が判らないや。中王にとって、この国がさほど重要にも思えないし。彼にとって昔なじみのサワダテッキという男がいて、その男に君と手を組ませて魔物を襲撃させる意味がね。テッキさんも現中王も、この国に執着する必要も意味もないと思うし」
「意味がないかしら。この国は充分巨大よ?中央での発言はカントウの次くらいに大きい。ニホンの中心部にある小国を束ねているのは、この国なわけだし」
「そうかな。所詮、従属国の一つだよ。中央から派遣されてくるスパイからの報告も、そう言ってると思うけどね。少なくとも、オワリの王は、中王に逆らう気もないし、それを動かす機関の意志も、基本的には」
「そうでしょうね。私にもそう見える」
「私には、あなたの行為がパフォーマンス的に見えたのですけれど?おかしいではありませんか?あなたはあの魔物を操作していたことを否定しない。仕組まれたものだというくせに、あなたはサワダ中佐と共に私とアイハラくんを助けに来た」

 責める様な口調で、彼女を追いつめようとしたのは、ミナミさんだった。立ち上がり、こちらに歩み寄ってくる。その彼女にサワダが近寄り、手を差し出そうとする。

「テツは……知ってるんじゃないのか?」

 彼女の手を取るサワダを、真っ直ぐ射抜く。彼女の必死さが、それだけでもオレには伝わる。彼と目を合わせるだけで、あんなに照れていたくせに。

「……何というか……魔物は、人の強さを判断して人を襲う。だから、まずアイハラを襲い、それからサラさんを襲った。それに関してあいつらは、オレのこともあの女のことも等しく判断していたよ。だから、操作したものと、それを使役してるモノは別、と考えることも出来る」

 どうして彼女を庇うような言い方をする?と、彼女が言いたそうに見えたのは、オレの思い違いだろうか。オレがそう言いたかったから。でも、余計なことを言いたくなかった。そう思ってしまったら嫌だから。

「ユノ、悪いけどシュウジ呼んできて。多分、外でシンに説教してると思うから」

 イツキさんが彼の命令を受け、ベランダに向かう。
  それにしてもミハマの指示って、意外と的確だよなあ。イツキさんならシュウジさんの説教もとめられそうだし。

「それからティアス。オレもね、テツの意見に賛成かな。もっとはっきり言うと、魔物を操作しているのは君、使役しているのはテッキさん。その後ろには中王がいると考えている」

 ミハマははっきりと、サワダの父親の名前を出した。そしてこのニホンの王の名を。オレも彼女も、そしてミナミさんもサワダを見てしまった。ミハマとセリ少佐だけが、表情一つ崩さぬまま。

「でも、それを考えても、この国に執着する理由が判らない。何もないよ、この国は。ゆっくりと、世界が腐っていくのと同じスピードで腐っていくだけだよ」
「……そう……。コウタ、トージを呼んで頂戴。それから、外を見てきて」
「はい」

 シュウジさんとイツキさんが戻ってくるのと入れ替わりに、セリ少佐が外へ向かった。その態度にミナミさんが再び噛みついた。

「外には、シンがいますよ」
「ああ……誤解しないで。シンの腕は知ってるの。だけど、私はよりコウタを信用している。それだけなの。それ以上でもそれ以下でもないの」
「逆の立場なら、オレも君を外に出すよ?セリ少佐の腕を知っているけれどね?」

 ミハマのフォローで、彼女は黙ってしまった。サワダに背中を触られ、椅子に戻るよう促されると、子犬のように体を飛び上がらせていた。普段冷静なくせに、ああいいう所が可愛い人だな……。噛みついていたときはちょっと怖かったけど。
  むしろ、それを笑顔で流そうとしたティアスの方が……。

「それだけ大事な話をしてくれるってことだよ。オワリの者にも、中王の手の者にも聞かれたくないような」

 微笑みを絶やさないミハマと苦笑いを見せたティアスにオレは背筋が寒くなる思いだった。
 prev<<<  Switch[The moratorium is selected] list >>>next
 >>>アルファポリスに登録中。
 >>>ネット小説ランキング>「Switch【モラトリアムを選ぶと言うこと」に投票
>>>「小説家になろう」にて連載中。ぜひレビューお願いします。

関連コンテンツ

 >>Switch Charactors(イラストつきキャラ紹介)
Copyright 2006-2009(C) Erina Sakura All rights Reserved
このサイトの著作権は管理人:作倉エリナにあります。禁無断転載・転用