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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第5話 続・穴二つ 10/10


 彼女の肩を掴むイズミの手を、サワダが掴む。その行為が意味することを、彼は理解しているのかしていないのか知らないけれど。

「別に、何もないし。関係もないし。何が聞きたいか知らないけど」
「テッちゃん。しらばっくれてる状況じゃないと思うけど」

 サワダが彼から手を離すと同時に、ティアスも彼から距離をとった。

「違うよ、シン。何を疑ってるか知らないけど。どういうつもりか知らないけど」
「そう言うときって、なにを疑ってるか、十分理解してるってことでしょ?」
「だから、それは違うよ。私とサワダ中佐は、何もないよ?むしろ、私のことを彼は疑っている」

 彼女の目と雰囲気に、あのイズミですら飲まれていた。

「ミハマや、あなた達を心配して、私に近付いてきただけよ?あなたと同じように」
「だろうね」
「判ってるなら」

 飲まれたことが不愉快だったのか、他に何か意図でもあるのか、イズミは彼女ではなくサワダを見ていた。

「最初はね。ミイラ取りがミイラって言葉、知ってる?」
「ふざけんな。そんな話なら、後でしろよ」

 怒ってみせるサワダだったが、オレには逃げてるようにしか見えなかった。

「いいの。ミハマが私のことをどう思って、話をする時間をくれたのかは判らないけれど、私自身がシンにとって怪しい存在であることは変わらないし。だけど、それでも、シンが疑うようなことに、サワダ中佐は関係ない。彼は私を疑ってる」
「そのわりに……」
「全部きちんと話すから、安心して。ねえ、ミハマ?今からでも良いよ」

 ミハマが後ろにシュウジさんを従え、こちらに歩み寄ってきた。彼もまた、彼女にあらかじめ何かを話そうとしていたのだろうか?この場所にこんなに人が集まるのは不自然だし。

「いや、いいよ。君も準備があるだろ?」
「あなたも、私に何か話があったんじゃないの?」
「いや、そこでテッキさんに会って……」

 笑顔で彼女の隣に立つミハマの後ろで、シュウジさんがメチャクチャ嫌そうな顔をしていた。要するに、あの人に会って、彼はこっちへ様子を見に来たってことか。

「牽制されたから」
「ああ、そうですね。あんた達の世界では、あれを牽制って言うんですね。良いですけどね」

 シュウジさんの溜息が、哀れで涙を誘う。また大人げのない会話してたんだろうな、あの二人……。

「牽制、ねえ。変なの。ミハマの前だと、あの人まるで子供みたい。サワダ中佐の前ではちゃんと父親の顔してるのに」
「……ティアちゃん、それもちょっと違う気が。サワダテッキがテッちゃんの前で父親ヅラをしたことはあっても、父親の顔をしてるのは見たことがないよ」
「そんなこと無いよ?さっきだって、そうだったよ。見てたくせに」
「あれが?」

 イズミがオレに同意を求める行為に、ティアスが嫌そうな顔をして見せたが、オレも彼女とは別の意味で嫌な顔しかできなかった。あの人に関しては、概ねイズミと同意見だったから。あの人も、ミハマも、意味が判らない。

「何か込み入ってるみたいだけど、君は少しでも休んで、早く傷を治してよ。テツもね。あんまりうろうろしたり、ストレス溜めたりは良くないと思うけど」
「別に溜めてないし」
「眉間の皺が跡になりそうなくらい、考え込んだ顔してるのに?相変わらず、自分のことは見えてないよね。冷静さに欠ける守護者はいらないよ?」

 突き放したようなミハマの台詞に、サワダは噛みつきそうな顔を見せたが、すぐに引っ込めた。

「オレにも素直に『休め』って言えばいいだろうが。妙な気を回すな、バカ」

 長い間、サワダを心配して言って来た台詞を、ミハマなりの伝え方で彼に伝えていただけなんだ。だから、ミハマはサワダにだけ、少し違う気の使い方をする。敢えて彼を見ないように、彼のことを心配していないかのように。

「だって、テツはそう言ってもちっとも言うこと聞かないから。それより、シンに頼んで無理矢理にでも外出禁止とかにした方がいいのかな。休めっつってんのに、ピアノ室で練習してるって聞いたよ?大体、昨日だってケガを理由に引っ込んでることだって出来たのに」
「ちなみに、昨日の夜、訓練場に顔出してたよ?人がいない時間を見計らって」

 その後、温室に行ってサトウアイリと密会もしてるけどね。イズミは他にも色々見てるくせに、さすがにそれは言わないんだな、ミハマの手前。

「……何で知ってる、お前。ストーキングか?」
「だって、お仕事ですから、隠密として」
「ちょっとはおとなしくしてることは出来ないのかな。イムラ先生にもこの間怒られてたし。昼食まで横になってれば?」

 サワダの腕を掴み、引っ張るミハマ。シュウジさんもこっそりそれに加勢して、二人がかりで引っ張る。

「いや、もう、傷は埋まって……」
「はいはい。状況はイムラ先生から聞いてるから。宮殿にいる医者じゃ、君の言いなりだから」

 ……穏やかな顔して、有無を言わせない男だな……。引きずられていくサワダを、イズミもティアスも苦笑いしながら見送っていた。

「やられたな。完全にミハマに混ぜっ返された」

 部屋に戻ろうとしたティアスを、引き留めるために彼女の肩に手をまわす。

「馴れ馴れしいぞ、お前!」

 オレですら、昨夜はニイジマの監視が怖くて彼女には指一本触れられなかったのに、そんな簡単に肩を抱いて!!

「五月蠅いな。大事な話の途中だったろうが」
「終わったじゃない。何もない。今日、全部話すから。ちゃんと。私が悲劇の姫君なんかじゃないってこともね。あの王子様が、私のことを何か誤解してるんじゃないかと思って心配なんでしょ?それから、その守護者を誑かす悪い女なんじゃないかって、心配?」

 さっきまでのティアスとは違う。影と毒のある女の顔を見せた。サワダと二人の時とも、ミハマの前とも、オレの前とも違う顔。

「そうだな。前半はかなり心配だな。大分掴んではいるけど、真相は君しか知らないし、現場に行かないと判らない。後半に関しては、自業自得だよ。ミハマを裏切るような真似はさせないし、するなら……いや、それはいいや」

 自己完結。何か含んでるよな、イズミのヤツ。それをティアスが見逃すはずもなく、彼女もまた含んだ笑顔で彼に問うた。

「シンは、随分我が儘なのね?ミハマがあんなにサワダ中佐のことを守っているのに、彼らの間を引き裂こうとする。知らない方が、引っかき回さない方がいいこともあると思わない?」
「そうだね。守ってるけど……」
「そうでしょう?ミハマはサワダ中佐を守ってる。サワダ中佐はそれに負い目を感じながらも、それに甘えている。でもそれに関してはあなた達も、その程度の差こそあれ、同じ状態だと思うけど」
「テツほどではないさ。けれど、……そうだな」
「ミハマが、サワダを守ってる?逆じゃなくて?」

 オレの疑問に、ティアスは笑顔で応えた。その真意は、その表情からは読めなかった。作られた笑顔を浮かべる彼女からは。

「そうよ。ミハマはね、サワダ中佐を懐に入れることで、彼を守っているの。その行為によって、彼は以前にも増して攻撃を受けるだろうコトを、そのリスクを理解していながら。彼の親友は、自分の政敵である男のたった一人の息子なのよ。しかも、彼のすぐ下にいる、数少ない王位継承権を持った、ね」

 彼女の言葉の意味を、おそらくオレなんかより、イズミは遥かに理解をしていたのだろう。見たこともないような悲痛な面持ちを見せていた。

「よく……判らないけど……」

 おそらく、またイズミが怒りそうだったから、オレは小さな声でしか聞くことが出来なかった。それに気付いたのか、イズミがオレの顔を見て苦笑いを見せた。

「サワダ中佐は、派閥争いにも、権力争いにも、残念ながら全く興味のない人だわ。閉じちゃってるのよ、良くも悪くも。だから、ミハマはそれを理解して、彼にはあの態度だし、彼を自分の懐に入れている。ミハマは、サワダ中佐のためのシェルターになってるのよ、この狭い世界で攻撃に晒されないように。サワダ中佐にだけじゃない、彼の護衛部隊全てを、彼は守ってる」

 その言葉が、限りなく真実に近いことを、イズミの表情が物語っていた。イズミやサワダが不自由の中で、自由に考え動けるのも、彼らの主である、ミハマが彼らの盾になっているから。そしてその盾を守るために彼らは戦う。
  その状況を、ミハマはどんな思いで作り出したのだろう。

 だけど、オレの頭には、彼の笑顔しか出てこない。
  こんな状況でも、「敵も味方もいるから幸せ」だと、彼は笑うのだろう。


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