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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第5話 続・穴二つ 09/10


 中王である「オトナシ」と、オレが同じコトを言っていると、サワダ議員は言った。しかもこの人、それを楽しんでる。
  いやいや、そんなことより、この人が言ってることが本当なら。仮に、中王がオレと同じく「五百年前の世界」の話をするというのなら。
  この世界を支配している男は、この時代の人間じゃないってことだ。何があってこんなことに……。

「おもしろいな。あいつ、人が変わっただけかと思ってたけど。一人ではなく、二人なら。その話を信じてみても良いかもね」

 また一歩、彼はオレに近付く。多分、野生動物に目を付けられたら、こんな気分なんだろう。この人にそれを感じるなんて、おかしな話だけど。元傭兵だって言うサカキ元帥とかなら、判らないでもないけど。
  オレに手が届きそうなところまで近付いたとき、ティアスが再びオレ達の間に割って入った。

「変わった?」
「そう、変わったんだ。あの中王の座で、退屈そうにしていただけのあの男がね」
「いつ?判らなかった……」
「君では判らないよ。君は、所詮あいつに拾われただけの女だ。鳥かごに閉じこめてる小鳥が泣き叫んでるくらいにしか思ってない。最初に気付いたのは、カズキだったかな。オレの所に相談に来た」

 また、知らない名前が出てきたぞ?それより、この隙にオレは逃げた方がいいんだろうか。ティアスの部屋の前とはいえ、ここはオワリの王宮だ。この人達、何つー怖い会話をしてるんだよ。それに、中王のスパイとかだって、そんなこと知ってるのか?聞いてたらどうするんだよ?
  オレの不安を察知してくれたのか、ティアスがちらっとオレに目配せする。それをオレに立ち去れ、と言っていると判断して、そっと後ずさりする。

 いや、無理。それ以上の存在が、影から見てる。オレにだけ判るように、壁の隙間から、よく知ってる視線がオレを突き刺してきた。
  ここにいろってこと?オレなんかいなくたって、イズミがこっそり覗いてるなら、良いじゃんかよ。何でオレにここにいることを強制するんだよ。

「オレ達とすら、関わりを持とうとしなくなってきた。その代わり、酷く自分勝手になった。そして、人に妙な期待をするようになった」
「期待?」
「例えば、あひるが成長して、白鳥にでもなってしまうような。そんな期待をね」

 ティアスが唇を噛みしめ、次の台詞を必死に考えているのがよく判った。彼女のプライドの高さは、彼の台詞を許さなかっただろうことも。

「……だから、あなたはオワリにいるのね。中央にいればいいようなものを。その方が、あなたの息子さんも、いまよりずっと幸せなんじゃない?」

 何を思って、ティアスはサワダのことを口にしたのか、彼女の背中からは判らなかった。

「どうだろうね。あの子は、いまの状態を望んでいるし、それによって付随してくる不幸に甘んじている。君が気にすることではない」
「以前は、中央によく出入りしてたんでしょ?サカキ元帥に聞いたわ。それがここ何年かはちっとも出入りしなくなったって。私があそこに捕らわれてからは、サカキ元帥達とだけ会って、オトナシの元へは顔も出さなくなった。随分久しぶりだって聞いたけど」
「だから?」
「自分勝手になったオトナシに、見切りをつけたんじゃないかって」
「そんなことはないさ。ただ、それよりも大事なものが、オレにはずっと昔からあるだけだ。期待されなくなった分、彼との関係は随分楽になったよ」

 サワダ議員の言ってることが、オレには全くもって判らん。彼は一体何を目的に、彼女を、そしてオワリを振り回すのか。彼女の言うとおり、中央にいた方が自然だ。何しろ、彼の昔の仲間とやらが、いまの中央の支配者達なのに。何が楽しくて、こんな支配国の政治戦争を、自ら行ってるのか。

「……何で、この国にいるの?あなたがこの国にいて、良いとは思えないわ」
「ずいぶんな言い方だね。どこにいようと、オレの自由だ」
「あなたにはね。子供は、生まれる場所も、親も選べない」

 生まれる場所を選べなかったのは、サワダだけじゃないはずだ。ミハマも、イズミも、みんなそうだ。誰も選んでこの国にいないはずだ。

「辛辣だね。そんなに酷い親であるとは思ってないけど。君の親はそうだったのかい?」
「知らない」
「そんなこと言われたら、親が泣くよ?」
「泣こうにも、戦争で死んでしまったから」

 彼女の声に、全く揺らぎがなかったのが不思議だった。そして、自分の昔の仲間がその戦争を引き起こしたんだと判ってるくせに、顔色一つ変えないサワダ議員も。
  オレは、彼女のことを知っているようで、何も知らないのかもしれない。彼女の重い過去のことを、この世界に起きたことを、オレは何も知らない。知りたくもない。
  怖いよ。

「そんなところで何をしてる?」

 オレの後ろに誰かを見つけたらしく、声をかけた。もしかしてイズミが見つかった?間抜けすぎるぞ?!つーか、それってますます修羅場じゃないか!?

「……テツ」

 その名前に、ティアスも振り向いた。すぐに目の前のサワダ父の方へむき直したけど。
  イズミが見つかるよりはましな気がするけど、修羅場が待っていることには変わりない。つーか、何つータイミングで出てくるんだよ、サワダのヤツ。オレは姿を見たくもなかった。こちらを振り向いた時の彼女の泣きそうな顔を思い浮かべたまま、必死で彼女の後頭部を見つめていた。
  いままで聞こえなかった彼の足音が聞こえ始め、少しずつ近付いてきたのが判る。一体、彼はいつ頃からここにいたのか。

「いえ、たまたま通りかかっただけですから」

 振り向きもしなかったオレの背中を、彼は軽く叩き、ティアスの横に立った。悔しいけど、少しだけ楽になってしまった。

「また、今度って所だな。ぜひ頼むよ、アイハラくん」
「……や」
「一緒に、中王の元へ」

 蚊の泣くようなオレの声ですら、容赦なく叩きつぶすといった感じの強い口調と視線を残し、彼は立ち去った。息子から逃げたようにも見えたけれど。

「……いつから?なんで?いたにしても、影で見てればいいのに」

 彼を責めるように、彼女は彼を睨み付け、立て続けに質問をする。彼は一瞬、オレの様子を伺ったようにも見えた。
  躊躇しながら、彼は彼女に手を伸ばす。右手で彼女の肩に触れ、撫でるように首筋にも触れ、頬に手を当てた。

「そんな泣きそうな顔で強がられても、説得力ねえし」

 文句の一つも言ってやりたかったけど。サワダの台詞の方がよっぽど強がってるように聞こえて、笑顔がやっぱり儚すぎて、何も言えなかった。

「オレのこととか、関係ないのに。生まれる場所を選べなかったのは、お前も一緒なのに」
「でも、私は後悔してない」
「歯を食いしばりすぎると、血が滲むだけだ」
「それはテッちゃんのことだと思うけどねー」

 突然隣に現れ、サワダの頭を軽く小突くイズミに、彼も彼女も声が出ないくらい驚いていた。
  あれ?てっきりサワダもティアスも、イズミの存在に気付いているもんだと思ってたけど。知らなかったってこと?珍しくない?

「い、いつからいた?!お前!?ティアス、お前は気付いてなかったのかよ、コイツに!」
「だって……」

 何、その反応。何でそんな恥ずかしそうにしてるかな。真っ赤になりながらおたおたする二人は、微笑ましいっつーより不愉快!あからさまに怪しいし!なにこの二人の関係!
  そして、何故か二人揃ってオレを見る。

「何だよ。……ティアスもサワダも、オレ、何か悪いコトしたか?どっちかっつーと、お前らの方が……」
「そのためにアイハラを!?」

 あれ、オレのせいみたいな言われ方。

「テッちゃん、詳しく話そうか。オレ、ティアちゃんとテッちゃんにいろいろ聞きたいことあるんだよね。午後の話し合いまで時間もあるし」
「ミハマにそう言われてるんだから、それまで待てばいいだろうが。ちゃんということ聞いとけ」
「いや、状況把握しとかないとさ。ね?」

 逃げようとしたティアスの肩を掴む。魔物より怖い。

「関係ないだろうが。それに、コイツの状況は父の話でだいぶ判っただろうが?」
「だね。状況は……だけど」

 彼女の肩を掴む手を、彼は離さなかった。

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