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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第5話 続・穴二つ 08/10


 朝食のあと、ティアスの部屋に向かった。少し心配していたけど、彼女はオレを快く中に入れてくれた。
  黒いレースをあしらったコンパクトなワンピースに、ベロアのジャケット。それに太めのヒールのブーツを身につけていた。普段も柔らかい印象の服は着ない娘だけど、ケガをしていたせいか、もう少しラフな服装だった気がする。オレが心配しすぎてるから、そう見えるだけかもしれないけど。

「どうしたの、急に?」

 オレに、部屋の片隅にあるソファセットの横にある椅子を勧め、彼女自身はオレに断りを入れてからソファに座った。未だ、体が辛いのだろう。

「いや、今日、どうするのかと思って。ミハマ達に、どんな話するんだろうと思って。オレにも何か出来ることがあるなら、オレは協力するよ」
「そう」

 笑顔で頷いた彼女は、その表情を崩すことなく、続けた。

「でも、いいわ。あなたにも迷惑がかかる。自分だって大変なんでしょう?シュウジさんに聞いたわ」
「何を?」
「あなたの話。私に教えてくれたでしょう?それで、私のことを知ったシュウジさんが、昨夜……というか早朝、私の所に来たの。その時、あなたのことも聞かれたわ。彼から何か話を聞いてるかって」
「……オレが楽師のことを知ってるって……」
「そう言う風には聞かれなかったけれど。ここに来てから仲が良いみたいだけれど?って。その時、彼の仮説を聞いた。あなたが元の時代に戻れるように、調べてくれているみたいね」

 シュウジさん、ホントに動いてくれていたんだな。疑ったようなこと言っちゃって悪かったな……。

「それはまた別だよ。オレは……多分大丈夫だから」
「ホントに?心配だな」

 やっぱりティアスは優しい。

「大丈夫だって。今日、オレも話を聞いていて良いって、ミハマに言われてる。だから」
「……ミハマが、私に味方を付けようとしてくれてるのも判る。だけど、それはあなたが感情的に私の味方をしてくれていても、立場は中立だから。あなたが私のために動いてしまったら、あなたまで彼らの敵になりかねない」

 そう言って彼女は立ち上がり、オレを部屋から出るよう促した。彼女も一緒に部屋を出たかと思うと、廊下をオレと反対方向へ歩いていった。元老院のある方へ。
  元老院といえば、サワダの父親であるサワダテッキがいる。ミハマがあからさまに敵視をする、政治的にも感情的にも彼の敵。だけど、彼女にとってはここにいるための大事な後見人であり、中王を介してつながっている男。

『伝えて。「しばらく動けないから、2週間後に彼の合図で動く」と。「それまでに連絡を取れる体制を整備して」』

 彼女にそうとはっきり確認したわけではないけど。だけどおそらく、あの時ニイジマ達に伝えようとしていた、あの伝言が示す「彼」って言うのは、サワダ議員のことだろう。

『あの方とはきちんと話されているのですか?時期が早すぎる』

 だけど、彼と彼女たちは、連携がとれていない。だからこそティアスのあの態度だったわけだ。
  彼を探れば、何か判るかもしれないって思うけど……正直怖い。オレは彼に目を付けられてるわけだし、そこを利用すればって思うけど。思うけど、オレには無理だ。あいつらですら、あんな態度なのに。出来れば、関わりたくない。だけど、彼女のためには何かしたいのに。

「アイハラくん……だったね?どうしたの?こんな所で」

 出た!この人も神出鬼没!! オレの名前すらうろ覚えのくせに、親しげに彼は話しかけてきた。オレと微妙な距離を保ったまま、廊下を挟んで壁際から。

「……いえ……」

 こんな所と言えば、こんな所だ。ティアスの部屋の前だなんて。彼も、彼女に用でもあったのだろうか。それとも……。

「ちょうどよかった。君と話をしたいと思ってた」

 やっぱり。そんなに彼はオレに近付いているわけでもないのに、なのに逃げられない。蛇に睨まれた蛙って、多分こんな気持ちなんだろう。イズミ対サワダのケンカよりも、この人一人分の威圧感の方がある気がする。種類は全然違うけど。すごく怖いわけでもないけど。
  いや、いいタイミングじゃないか。オレしかできないぞ?この人に突っ込むのは。

「あの、オレ……ちょっと……」
「君、あの子のことを最初から知ってたみたいだけど?」

 オレ、断ろうとしてたのに!有無を言わさず話を始めるか?!しかも直球!いきなり!

「どうして?」
「えっと……知り合いに似てて……その……」

 なんて説明したら良いんだよ。楽師のことを知ってるって、この人にもばれたらまずいだろうし。ホントのこと言って、信じるとも思えないし。

「彼女は顔を隠していたのに?似てるも何もないだろう?王子が拾ったって言うのも、おかしな話だし」
「いえ、あの、オレをここに連れてきたのは、サワダ……あの、息子さんでっ!」

 変な汗が止まらない。
  落ち着け、落ち着け!別にそんな怖くないはずだろうが。口調も穏やかだし。彼はしゃべり方も冷静だし。怖い顔してないし。見かけだって、細っこいし、小綺麗な顔だし。別にオレには後ろ暗いことなんてないし。むしろこの人の方がそう言うのはいろいろ持っていそうじゃないか。何でオレがこんなに怖がらないといけないんだよ。
  でも、彼の穏やかな表情からは判らない、何かがオレにプレッシャーをかける。
 
「どうしたんですか?」

 オレと彼の間に入ってくれたのは、反対方向へと歩いていったはずのティアスだった。

「元老院の方に伺ったら、こちらだと」
「君に用があってね。たまたまアイハラくんがいたから、少し話をしていただけだよ」

 彼女はオレに苦笑いをして見せ、盾にでもなるようにオレの前に立った。オレのこと、心配してきてくれたんだ。

「何のお話?」
「聞こえていたろう?気になっただけだよ。それとも、言えないようなこと?後見である私に」

 脅迫めいた彼の台詞に、彼女は溜息をつく。

「この子は、500年前の世界からタイムリープして、ここに来たんですって。その世界に私や私の部下や、オワリ王子の護衛部隊の名前も同じそっくりさんがいたんですって」

 突然の彼女の台詞に、さすがのサワダ父も呆気にとられたような顔でオレ達を見ていた。

「それで?」
「私や彼らのそっくりさんの写真を、この子は持っていたの。驚くほど似てるんですって。それで、私が顔を隠していても判ったって言うの。だけどそんな話、あなたは本気に出来る?」

 そう言われるとそれはそれでショックですけど。けど、ティアスがオレをサワダ父の目から遠ざけるために、そう言っているのは判る。だって、彼女はオレの話を(正確にはシュウジさんの力で)信じてくれたから。だから今の彼女とオレの関係も、秘密を共有していた期間もあったわけだから。

「するよ。ただ、君の言葉では信用できないかもしれないけど」

 彼は、ティアスを見ることなく、笑顔でオレに近付いてきた。

「本当?」

 念を押す彼の笑顔に、オレは黙って頷くことしかできなかった。

「驚いた。オトナシと同じコトを言ってるんだ、君」
「……どういうこと?オトナシが?ユウトと同じコトって?」
「おっと。余計なことを言ったかな?ああ、でも、オトナシと会わせてみるのも面白いかもね。君たちの話が一致したら、お互いの話に信憑性が出てくるわけだから。聞いてみたい。オレ達は、タイムトラベラーを目の前にしてるわけだ。SFだな」

 邪気だらけの笑顔で言われても、不愉快なだけですけどね。余計なこと言ったかな、なんて嘯くくせに、どうでも良いって顔してる。いや、事態を引っかき回して楽しんでるようにも見えるかな。
  ティアスの2度目の溜息が、事態を悪化させてしまったことを物語っていた。

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