無料連載小説サイトwing of fragment です。 ファンタジー恋愛群像劇、学園恋愛物、学園恋愛FTをテーマにメルマガ、サイト上にて小説を連載しています。
Copyright (C) Erina Sakura All rights Reserved. Please don"t distribute any texts and images from this website without permission

連載,小説,FT恋愛,FT学園,BL,学園恋愛,携帯,女性向,ファンタジー恋愛群像劇,学園恋愛物,学園恋愛FT

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第5話 続・穴二つ 07/10


 結局、眠れないままミハマの元へ行き、いつものように護衛部隊のみんなで一緒に朝食をとるための部屋に入った。ただミナミさんは未だ調子が悪いらしく、いなかった。彼女を見舞っていたであろうイズミの到着を待って、朝食が始まった。
  さすがに2晩続けて徹夜はきついはずなのに、不思議と眠気はなかった。
  だけど頭はぼんやりとしてもやがかかっていた。ミハマを囲む姿が最後の晩餐だとしたら、一体誰が裏切り者なのか等とバカなことを考えてしまう程度には。徹夜明けってやつは、ろくなことを考えない。

「どうです?こっちでの生活にも、だいぶ慣れてきたんじゃないですか?」

『いっそ、この時代を満喫してみたらどうですか?』

 シュウジさんがいつものように新聞を読みながらも、珍しくオレに気を使ってくれたのに。どうして、裏があると考えてしまうのか。そしてその台詞は、最初からずっと一貫していたことにも、何で今さら気付いてしまうのか。
  彼はずっとオレに対して、「帰ることへの希望」より、「この時代への希望」へ目を向けさせようとしていたじゃないか?
  オレの朦朧とした頭が、そう思わせているのか?

「……オレのこと、何か判ったんですか?何でこんなことになったのか、とか……」
「現在調査中です。私もあまりおおっぴらに動けないんで、勘弁してくださいよ」

 何か誤魔化された気がするな……。

「シュウジのヤツ、ああ見えてちゃんと動いてるからさ。あんまり突っ込んでやるなよ」

『「滅びることが判ってる時代」に戻ってどうする?』

 シュウジさんのフォローをするサワダの言葉にすら、別の意図を感じてしまう。実は何もしてないんじゃないかとか、何もしてないのをサワダも知っていて、あんなフォローなのか、とか……。
  大体、ティアスとのことをあんなに隠してるんだから。それは、彼女もそうかもしれないけど、意図が判らないし。

「シュウジさん、そんな安請け合いしてたわけ?もう少し、自分の力量を計った方が……」
「安請け合いしたわけではありませんよ。流れでそうなったんです。失礼なこと言うんじゃありません。そんなこと、判らないでしょうが?」

『なんでも。平和のためさ。何事も、タイミングが肝心なわけよ』

 コイツだ。この男が究極にわざとらしい。ヘラヘラして、だけど全てを影で覗いてる。
  でも、怖いけど、嫌いになれやしない。どうしてだ?この男がずるいから?
  隣に座る、笑顔のイツキさんだけが、憩いのオアシスだよな……。敵に回したら本気で怖そうだけど。つーか。敵に回してるのかどうかもよく判らないし。
  ミナミさんも敵か味方かっつーたら、中立ではいてくれるけど、オレの優先順位はかなり低そうだしな。ミハマがいてサワダがいて…・ってなるだろうし。

「あ、そうだ。アイハラ」
「……なに?」

 ミハマは……どうなんだろう。彼は綺麗だ。だけど、ここでは誰よりも強い。その強さなんてオレには判らないけれど。だけど、彼がこの中で、唯一オレをフラットに見てくれているような気はしている。

『2割……敵である確率よ。あの子は信用しても良いと思う』

 ティアスの評価も高かったし。

「今日、3時からティアスと話をしようと思うけど。君も来る?」

『オレは君の味方でいるつもりだけど、オレの味方が君の味方とは限らないし、オレ達の敵が、君の敵とは限らない。それは、オワリの国にいようと、中央にいようとね。だって、オレだって、そうなんだから』

「え?いいの?」

 彼の意図は判らないけれど。だけどオレは、彼の発した「味方でいる」という言葉を嘘だとは思えない。

「ミハマ~」

 当然だが、抗議するような口調で主を責めたのはサワダだった。シュウジさんは苦笑い。何故かイズミは何も言わなかった。こういうことは、真っ先にミハマに文句を言いそうだったのに。

「どうして?オレは良いと思うけど。彼女に対して感情的にはともかく、中立の立場の人間がいた方がいいと思うし。むしろ、ニイジマ中尉とかで周りを固められても困るけど。今、監査に来てるサエキ大尉も実質上、彼女の部下だろ?オワリにこれだけ彼女の手のものが集まっているこの状況で、余計に警戒心を強めるように追い込んでどうするんだよ」
「……そりゃ、お前が考えた『良い方』の理由だろ?」
「何がそんなに心配かな?」

 ミハマの笑顔の圧力に、サワダごときが敵うわけもなく、彼は黙ってしまった。
  でも、確かにミハマの言うとおりだ。ミハマは彼女の味方になると言ったんだ。その言葉を信じるなら、彼女に頑なな態度に出られても、戦う姿勢を見せられても、良い方向に話はいかない。彼女とミハマの距離が縮まる結果になったとしても、そっちの方がいい気もする。

「お前は、あの女のためにどこまでする気だ?」
「……どこまでって?」
「話を聞いて、味方になりたいっつって、どうやって味方でいるつもりかって聞いてるんだ」

 そこまでサワダが話したタイミングで、イズミが席を立った。しかし、その様子を気にする者は誰もいなかった。彼は窓を開け、ベランダへ出ると、小さな拳銃を取り出した。その先は考えたくもなかったし、見たくもなかった。

「面倒なことに首を突っ込む羽目にならないか?あんな、中王の子飼いの女なんか」

 イズミがその台詞を言ったのなら、オレは納得できたかもしれない。だけど、その台詞を吐いたのはサワダだった。

「うーん。テツが言う面倒なことって言うのが、どの程度のことなのか、オレにはよく判らないけど」
「判らないフリしてるだけだろうが。……判りたくないと言うか」
「だって、テツもそう思ってないのに、何を持って面倒だと言ってるのか判らないや」
「オレに面倒じゃなくても、お前には面倒なこともあるだろうが」
「それはテツの考えであって、オレはそうとは思わないけど。話してみないと判らないし、どんな状況になるかも判らないし。アイハラがいることが嫌ってわけじゃないなら、別に良いんでない?どう転ぶかなんて、誰にも判らないよ」

 そう言われて、サワダは黙るしかなかった。彼らは二人とも、何か含んだ物言いをする。けれどもそれが、お互いを思ってのことだと、端から見ていてもはっきりと判るからこそ、彼らの言い争いは険悪にならないのだろう。少しだけ、羨ましい関係だった。
  この城の中で言われてるような、派閥争いなんて、彼らには関係ないのかもしれない。だけど、関係ないからこそ、辛いのかもしれない。この城にいて、彼らと話をして、やっとそれが分かってきた。

「……で、アイハラはどうする?彼女がこっちに来てから、仲良くしてるみたいだし」

 何か、釘を差された気分だけど、ここは聞こえなかった振りをしておこう。さりげなさ過ぎて怖いってば。もしかしなくても、ミハマって結構、嫉妬深いんじゃ……。

「いてもいいなら」
「よかった」
「話はまとまった?」

 爽やかな笑顔を見せながら戻ってきたイズミが聞いたのは、サワダだった。元通り彼の横に座り、食事を再開する。何をしてきたのかあんまり考えたくないけど、よく平然と飯が食えるもんだ。

「まとめられた」
「ま、そうだろうね。テッちゃんがミハマに勝とうなんて、そんな図々しい」
「お前なら勝てるとでも?」
「そこはそれ、交渉術でしょ?テッちゃん、真っ正面からぶつかるから。口は時として、剣よりも強いよ?」

 目の前で噂話みたいなこと喋ってんなよ。ミハマが気にするとか、考えないのか?

「じゃあ、3時に呼びに行くから」

 気にしてないみたいだった。判っててあの態度か、コイツらは。イツキさんもシュウジさんも平然としてるし。
  でも、3時か……。今が8時半だから、未だ結構時間がある。

『お前、誰の味方なの?』

 オレはティアスの味方でいたい。今なら、あのニイジマの言葉にも即座に答えられる。
  彼女だけが、本当の意味でオレの味方だ。


 prev<<<  Switch[The moratorium is selected] list >>>next
 >>>アルファポリスに登録中。
 >>>ネット小説ランキング>「Switch【モラトリアムを選ぶと言うこと」に投票
>>>「小説家になろう」にて連載中。ぜひレビューお願いします。

関連コンテンツ

 >>Switch Charactors(イラストつきキャラ紹介)
Copyright 2006-2009(C) Erina Sakura All rights Reserved
このサイトの著作権は管理人:作倉エリナにあります。禁無断転載・転用