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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第5話 続・穴二つ 04/10



「ティアス……。君は一体、何者なの?なんで、中央に……」

 オレの持った当然の疑問を、彼女は笑顔で流した。答えてくれる気はないらしい。
  だって、何となくの想像しかできないだろう?ニイジマやセリ少佐が彼女のことを姫と呼ぶことも、中央正規軍に属しながら、あの態度なのも。オレは何も知らないから、それ以上想像することすら出来ない。
  だからなのか?今となっては、サワダが彼女の正体を知っていたのは明白だ。知っていて、彼は、彼の仲間であるはずの護衛部隊の前で、それを言うことを途中からやめたと、彼らはそう言っていた。その理由はどうしてなんだ?サワダと、ティアスの間に何かあったと考えるイズミの方が、自然じゃないか。
  おそらくイズミは、オレ以上に何かを見ているはずだ。

「ユウトはもう、部屋に戻った方がいいわ?疲れたでしょ?」
「姫は、どうなさいます?」
「サワダ議員が迎えに来るわ。……きっとね」

 その言葉を受け、ニイジマとセリ少佐はどこへともなく消えた。それと入れ替えで、彼女の言葉通り、サワダ議員が現れた。テラスから歩いて。

「こんな所で何をしている?挨拶をしに戻ってきてくれないか。息子も待っているのでね」
「……白々しいわ」
「え」

 思わず出てしまった言葉を飲み込むしかなかった。彼女は隠し持っていたあのジャックナイフを、サワダ議員に向けていたのだから。

「彼は、元々知っていた?君のこと」

 ナイフを眼前に突きつけられているにも関わらず、彼は顔色一つ変えずにオレのことを彼女に聞いた。見ているオレの方がどきどきしてるんじゃないだろうか。動くことが出来なかった。

「顔を……知られていたから」
「へえ……」

 ちらっと、サワダ議員がオレを見た。見たって言うより、値踏みされているというか。飲まれそうな雰囲気を醸し出す彼が怖かった。

「別に、この子が何かを知っているというわけではないけれどね。残念ながら。さっさと行きましょう」

 ナイフをおさめ、彼女はテラスに出て、サワダ議員に謁見室の方へ戻るよう促すが、彼の視線はオレに注がれたままだった。

「ユウト。戻りなさい」

 ニイジマ達にはしても、オレに対してはしなかった強めの態度で、彼女はオレに動くよう命令した。オレはサワダ議員に飲まれそうなまま、動けなくなっていた体を無理矢理動かし、彼女の後へついていく。

「戻る必要はないだろう。君とももう少し話がしてみたいものだ。一緒に来たまえ」
「必要ないわ」
「それは君にとってだろう。私にとって、王の御前は、重要な場所だ。君にとってオトナシの前がそうであるようにね」

 彼女が彼を睨み続けているにも関わらず、彼はそれを無視してテラスの入口から廊下へ戻った。渋々ついていく彼女の後ろに、オレもついていった。なんかよく判らないけど、目を付けられてしまったようだし……。

「……なあ、ティアス。オトナシって?誰?」
「中王よ」

 呼び捨てかよ……。だからサカキって言うあの酔っぱらいみたいなおっさんとも仲良かったのかな。
  でもおかしな話だ。同じように仲の良いというか、知り合いっぽいあの酔っぱらいは、中王正規軍で元帥なんて地位についているのに、サワダの父親は地方で元老院議員だなんて。いくら王の妹と結婚したからって中央に入ればいい話だ。
  実は、仲が悪いとか?でも、それならサカキ元帥とも仲が悪いかな?

「……ユウト、ごめんね。巻き込んでしまって。疲れてるでしょ?」
「え?いや……オレは別に。大丈夫だけど」

 さっきは壁の向こうから見ていた、初めて歩く長い廊下を並んで歩きながら、彼女はオレを気遣ってくれた。その優しさに、やっぱりオレは期待をしてしまう。誰にでも、そうだと判っていても。

「……アイハラ?どうして?」

 謁見の間の前にある小部屋には、サワダが待っていた。汚れていた上着だけ着替えたらしく、妙に綺麗だった。

「オレが連れてきたんだ。王子はどうした?」
「中にいます。……オレは……」
「お前は、そうしていればいい。オレにも、あの王子にもついていれば」

 サワダが沈んだ顔を見せる。もうすっかり見慣れてしまったけれど。
  オレの知ってる沢田は、もっと偉そうだったし、もっと不躾だった。繊細な部分もあったけれど。バカみたいなことしか喋ってなかった気がするし、ティアスのことを除けば、オレはあいつのことが嫌いじゃなかった。
  だけど、今オレの目の前にいるサワダは、嫌いじゃないけど、むしろ好きかもしれないけど、ちょっと重くてめんどくさい。しかも、それを口にすることも適わないといった感じだ。重すぎて。

「……王子にも、あなたにも?」
「どうして、何かおかしいか?」

 ティアスの疑問に、サワダ議員は疑問で返した。

「おかしいかって言われても……。おかしいことだらけじゃない。意味が判らない。そんなこと言われたら、困るのは……」

 彼女の示すとおり、サワダだ。自分の息子を困らせて、何が楽しいんだか。ちょっとかわいそうな気がする。
  だけど彼女の言葉に、サワダもその父親も答えなかった。

 謁見の間には、王が玉座に座り、その横にミハマが立ち、一段下がってシュウジさんが控え、それと対称の位置に元老院のナカタ議員が立っていた。彼らの前には中央正規軍のサエキ大尉が一人で立っていた。
  オレ、とんでもない位置に立ってないか?さっきまで、あの壁の向こうでイズミと一緒にこちらを覗いていたのに。きっと今も、あいつはこっちを見てるのに。

「ミハマ。彼はお前の客人ではなかったか?」

 オレのことを一言、そう息子に聞いた王の言葉に、ミハマは表情一つ変えず、沈黙を通した。
  その後、どんなすごいことが起こるかと思ったら、本当にただ王の前で、サエキ大尉と挨拶を交わしただけだった。拍子抜けするほどあっという間だった。
  だけど、オレのことをミハマに聞いたあの王の台詞。多分あれが、全てなんだろう。誰が誰の味方で、誰が誰の影響を受けるのか。オレがここに立っているってことは、もしかしたらミハマに対して、オレが思っている以上に悪い影響を及ぼすことになってしまうんじゃないのか?今は、何も判らないけれど。
  きっとここを出たら、もうすぐにでも終わってしまいそうだけれど、イズミにまたオレは怒られるのだろう。いや、怒られるどころか、無視されるかもしれない。少しだけ態度が柔らかくなったと思ってたのに、怖すぎる。オレはあいつが怖い。

 あっという間に終わった挨拶の後、サワダ父がオレ達に外に出るように促す。それと同じく、別の入口からミハマとシュウジさんも出ていった。サワダ父も一緒に立ち去ろうとしているのに、ナカタ議員が王に話している言葉の中に、サワダ父の名が何度も出てきていたのが聞こえた。良く聞き取れなかったが、サワダ父のことを誉めているのは判った。
  ものすごく遠回しではあったけれど、ミハマが気が利かないから、サワダ父が気を使ったとかなんとか。おっさん、いい年してんだから、陰口叩いてんじゃねえよって、叫んでやりたかった。ミハマはそんなんじゃない……と思うのに。
  一緒に出てきたティアスにも、そしてサワダにも、聞こえているはずだった。オレに聞こえてるんだから。だけど、彼らは何も言わなかった。
  特にサワダは、彼の前では借りてきた猫のようだった。いや、普段もなんかそんな感じの時はあるんだけど、気持ちが悪い。

「……私はこれで。ユウトも一緒に戻りましょう?疲れたでしょ?」

 オレに声をかけてくれた彼女の気遣いに、どうしようもなく心が動く。やっぱりティアスは優しいし、オレのことを考えてくれてる。
  だけどティアス自身も一刻も早く、この場を離れたかったのかもしれない。謁見の間の前の小部屋を出てすぐに、呟くようにそう告げると、サワダ父に挨拶もせずに立ち去ろうとした。

「いや、アイハラくんと言ったっけ?君は残って。城を案内しよう。どうせ客室付近と王子の領域くらいしか知らないだろう?スズオカくんの考えそうなことだ」
「父上。アイハラは……」
「こんなバッジ一つじゃ、動きにくいんじゃないかね?」

 何か後ろ暗いことでもあるのか、止めに入ってくれたはずのサワダまで黙ってしまった。結局、このバッジって、なんなのかはよく知らないんだよな。結構自由に動けるけど。サワダ父の言ってることも、ちょっと気になるかも。

「サワダ議員。殿下が、彼を呼んでおりますので。今日はご遠慮いただけますか?」

 出た!!恐怖の大王!
  多分、またあの壁の向こうから覗いていたんだろう。しれっとした顔で窓際にある壁の方からやってきたイズミが、オレとサワダ議員の間に立ちふさがる。怖すぎる!!
  サワダ父は、苦笑いを見せると、無言で引き下がり、廊下を歩いて立ち去った。
  なんでだ?ミハマが呼んでるからってこと?無理強いしても仕方がないってこと?つーか、なんでオレが彼と話をする機会を、イズミまで止めに来た?
  サワダだけなら……オレに気を使ってくれたと思えたけれど。

 オレの胸で鈍く光るバッジも、言葉も行動も判らないイズミのことも、結局何も教えてくれないシュウジさんのことも、オレはあの人の一言で、全てを疑ってしまいそうだった。


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