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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第5話 続・穴二つ 03/10
その後、不思議なことに、ミハマは彼女に猶予を与えた。明日の昼、話をしたいと告げた後、サワダとイズミを伴ってカリン姫の元へ向かった。オレにもお咎め無し(イズミが何か言ったかもしれないけど)。
彼は一体、彼女をどうしたいんだろう。
オレと二人、取り残された彼女の元へ、今度はニイジマがセリ少佐を連れて現れた。階級的にはニイジマの方が下のはずなんだけど、どうしてそう言う構図になるのか。
ちょうどサワダとイズミが立っていた場所に二人は立っていた。座り込んだままのオレ達と少し距離をとっている形で。
「もしかして、話し合いの時間をくれたってことか?あの王子様は」
どこかで、一部始終を見ていたのだろう。ニイジマが、オレとティアスを交互に眺めながら、ぼやいた。
「でしょうね……ホント」
ティアスの苦笑いには悪意が感じられなかった。
「変わってるって?そんな一言ですまされるのか、これ。なに考えてんだ?」
「なに怒ってんの?」
「どうして良いか判らんから!」
「でしょうね。私も判んないわ」
二人して溜息をついた。
「どうすんだ?カナさんも来てるし。さっき、応接の方を見に行ったら、待たされてイライラしてた」
「心配してくれてるのはありがたいけど、わざわざ一人で前乗りしてくることはないでしょう……。いつものことだけど、どんな手を使ったんだか」
ニイジマの後ろで、セリ少佐はニコニコしているだけだった。なに考えてるんだろう。
それに、オレはどうしたらいい?
「あの王子が味方かどうかって言うのは、どう思うんだよ」
「2割……」
「少な!」
「違うわよ。敵である確率よ。あの子は信用しても良いと思う。サワダ中佐も……」
そこまで言って、バツが悪そうな顔して俯いた。そう言う顔されると、オレは口出しできないんですけど。
まあ、オレは嫌われたくないから出来ないけど、ニイジマは口を出せるみたいだった。
「その、サワダ中佐だけど。お前ら何、出来てんの?」
「もっと他の聞き方はないわけ?」
「ないな。つーか、他の聞き方ってなんだ。めんどくさい」
彼女はニイジマを睨み付けたまま、黙ってしまった。
「姫。どうなんですか?」
「どう、って何よ。コウタまで……。大丈夫よ、何もない」
なんでセリ少佐に対して、そんな風に弁解する?!ニイジマと違うだろ、その態度は。二人は同じようにティアスの部下じゃないのか?!
こんな所に伏兵が……。サワダやミハマにばかり気を取られていたけど、この人もか?しかも、ティアスに近い分タチが悪い。
「ユウトまで。しつこいわよ」
オレの視線を不愉快に思ったのか、怒られてしまった。
「はっきりしろよ、めんどくさいな。それでどう行動するかが変わってくるだろうが?あんたがどうしたいかも」
怒られることにも、むっとされることにも慣れているのか、ニイジマは彼女の態度を気にする風でもなく、続けた。
「関係ないでしょうが、そんなことは」
「じゃあ、とりあえず、あの王子様とその護衛部隊はどうする気だ?敵か?味方か?どういうつもりでオレ達は動くんだ?」
「そんなのは、転んでみなければ判んないよ。私の味方は、あんた達しかいないんだから」
彼女の世界の狭さに、狭くせざるえない彼女に、言いようのない焦燥感を覚えた。もしかしたら、ニイジマも同じ気持ちだったかもしれない。
「……2割……減らす?増やす?」
少しだけ柔らかい態度で、彼女に決断を迫る。
「その価値はある?」
柔らかくはなったけれど、その内容は、酷いものだった。
「減らしましょう。その価値は未知数だけれど。この国があいつにとって、何か大きな価値を持ってるのは確かだもの。取引材料になるかもしれない」
「だろうな。ここ最近の執着は、ちょっと異常だもんな。意味が判らん」
ティアス達が警戒してる相手って……
「……あいつって?もしかして……」
オレの質問には答えず、彼女は黙って、壁の隙間から東の空を見つめた。
「だけど、気をつけて。あの子達も決して、一枚岩ではないから。ミハマだけで良い」
「みたいだな。さっきの様子からすると。気をつけとくわ。理解した?コウタ?」
何を?と言った顔でニイジマに微笑み返すセリ少佐。この人、ホントに優秀なのか、ますます疑問は大きくなる……。
「明日は、そのつもりで話を進めるから。そろそろ戻るわ。カナにも姿を見せておかないと、心配してるでしょうし」
立ち上がり、オレにも立つよう促す彼女の表情には、いつもの自信が戻っていた。気が強く、真っ直ぐな彼女が。
いや……、「いつも」の?
オレは久しく、彼女のこんな顔を見たことがあったか?最近の彼女は、こんな風だったか?
でもあの覆面の中は、いつもこういう顔をしていたのだろう。それは容易に予想できた。
それが怖くもあり、嬉しくもあった。彼女の強さと弱さが、良くも悪くもオレを動かしたことを実感する。