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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第5話 続・穴二つ 02/10


「君の言葉を聞きたい」

 座り込んだまま、彼女は真っ直ぐ彼を見つめた。その緊張感が、オレを潰す。
  やっぱり、何もなかったって言われても、彼のことをどうとも思ってないと言われても、それは信じられなかった。オレに触れたはずの彼女は、どうしてこんなに真っ直ぐ彼を見つめるのか。

「姫。オレはこれで。あなたも人が悪い……」
「そうね」

 今度は、ティアスも彼が立ち去るのを止めなかった。彼が音もなく消えたと同時に、ミハマとイズミが、サワダの後ろから現れた。
  それにしたって、「人が悪い」って。セリ少佐には似合わない言葉だな。

「テッちゃん、こんな所に突っ立ってると邪魔なんですけど。途中でいなくなるし」

 憎まれ口を叩くイズミに、隣にいたミハマも苦笑いをしていた。その様子をティアスは見ているかとも思ったが、大きく溜息をついて、膝に顔を埋めていた。
  真っ直ぐサワダに何かを求めるように、強い目をしていた彼女とは、まるで別人のようだった

「五月蠅い。元々オレはフォローだけだって言っただろうが。処理はしてきたのか?」

 ティアスに駈け寄ろうとするミハマの後ろから、イズミに促される形で二人もゆっくりこちらへ寄ってきた。ミハマは彼女の側に跪き、案ずる声を掛けた。

「親衛隊が来たし、カントウの護衛の人達も来たから。今ごろ、警備隊も来たけど、中庭に行ってもらった」
「中庭って?」

 思わず突っ込んだオレの言葉に、珍しくイズミが応えてくれた。

「あの魔物は、三位一体で行動するんだよ。こっちに二体来てて、中庭に一体いた。だからこそ、そんなに脅威もなかったわけだけど」
「妙だな。バラで行動するなんて。こないだも一体しかいなかったし」

 疑問を述べたサワダが一瞬、彼女を見たような気がした。気のせいなら良いけど。
  おかしいだろう。なんで魔物の行動のことで、彼女を見る必要がある?

「ティアス。悪いけど、オレ達は見てたんだ」

 彼女に確認させるように、ミハマはそう言った。真っ直ぐ見つめて。彼女もまた、彼を真っ直ぐ見つめ返していた。

「……ごめん。言えなかった」
「言えなかった?」

 まるで子供のような彼女の言葉を彼も繰り返す。彼女の謝罪の言葉に、彼は一体何を思ったのか。
  ミハマに任せているのか、突っ込むかと思ったイズミもサワダも、後ろから見守るだけだった。

「君たちが、少しずつ感づいてきてたこと、判ってた」

 ティアスもまた、オレと同じ不安に似たものを持っていたのだと。だけど彼女は、オレにも、もちろん彼らにも、彼女の部下にも言えなかったんだ。
  ミハマはただ黙って彼女を見つめていた。だけどその目には、不思議と威圧感のようなものはなかった。

「そのために、影で動いていることも知ってた」

 彼女の視線の先には、イズミとサワダ。影で動いていたのはもちろんイズミだろう。でも、もしかしたら、サワダもかもしれない。影で動いていたからこそ、二人がこっそり会っているように見えたのかもしれない。

 いや、それがオレの妄想でしかないことを、オレはよく判ってるはずだ。イズミがいる。

『テツが、ホントの所どう考えているか判んないし。彼女も』
『何?テッちゃん、心配した?』

 イズミの台詞が、オレの不安を、心配を、現実化していく。目の前の彼女の行動と台詞の意味が、もうそこしか指し示さなくなってきている。
  なんでオレは判ってるくせに、それを必死に否定しようとしてるんだ?

『ユウトは、私の味方でいてくれるよね』

 オレだけは彼女の味方でいる。彼女が言うことを信じたい。
  きっかけはオレのいた時代の彼女かもしれないけど。だけど、オレと秘密を共有している、オレに味方でいて欲しいと言ってくれた、目の前にいる彼女を……。

 多分、どうしようもないくらい好きになってるんだ、オレは。

「ティアス。良かったら事情を話してくれる?もしかしたら、オレ達は力になれるかもしれないよ?」
「……力になる?私の?」

 「力になる」と言ったミハマの真意は判らない。だけど、思いは判る。オレと同じなんだ。彼もきっと。
  ミハマはフラットで、生々しさもなくて、妙に綺麗だから判らなかったけれど。だけど、彼の一言一言に籠められた思いが、今ならよく理解できる。

「バカなこと言わないで。敵か味方かも判らないのに?むしろ……」

 彼女は中王の手のものだ。中王の支配下であるオワリ国の王子からすれば、敵でないかもしれないけれど、味方でもないだろう。それは、何より彼女が一番よく判っているはずだ。

「オレの敵かどうかは、オレが決める。味方は、判らないままでも良いんだよ」

 彼女は顔を上げ、しばらくきょとんとした顔でミハマを見ていたが、突然、笑い始めた。
  それにつられたわけではないのだろうが、何故かイズミとサワダも笑っていた。

「なんでみんなして笑うかな」
「別に……ミハマらしいなって思っただけよ。怒らないで」

 むっとした顔のミハマをフォローしたのは、ティアスだった。まるで、彼のことをよく知っているイズミが言うような台詞だったことに、オレは驚いていた。
  ついさっき、テラスで並ぶ二人を見たときに感じた綺麗なものを、再び見せつけられているようだった。
  彼が彼女を思いやり、彼女が彼を理解している。まるで理想的なカップルのようだった。綺麗な映画のようだと思っていたけれど、今は綺麗すぎて不愉快になった。

「でも、甘えられないよ」
「甘えろって言ってるわけじゃないよ。君に力を貸すことで、オレ達にもメリットがあるなら、それは対等な関係だと思うけど」

 そうだね。とティアスはまた笑う。今度は悲しげに。

「君の後ろに立つ人たちは、その台詞を受け入れられるの?」
「愚問だな、ティアちゃん。こんなの予想の範囲内でしょ。うちの王子様の台詞としちゃ」

 座り込む二人の側に寄り、同じ目線になるよう屈んで笑って見せたのはイズミだった。サワダは彼らから距離をとったまま動かなかったけど、大きく溜息をつきながら頷いていた。イズミが笑ってることは何とも思わないのに、サワダが微笑んでいたことは妙に腹が立った。胸を撫で下ろしているような、その態度が。

「いいんじゃない?ユノちゃんも、めんどくさがってたし。だからこそ、テッちゃんが一旦出した『疑問』を、押し込めたことを不審がってたけど……」

 押し込めた?
  思わず聞き返すとこだったけど、判りやすくティアスとサワダが動揺した表情を見せたので、成り行きを見守ることにした。

「……オレは別にそんな」
「そう言うの、後でやってよ」

 ミハマは特に強く言ったわけではなかったのだが、視線は真っ直ぐ二人を射抜いてた。意志のある強い瞳に、サワダもイズミも小さくなってしまった。最初のころは、この怪獣のような連中が、言い方は悪いけど、ミハマのような綺麗なだけの男に従っているのか判らなかったけれど、今は少しだけ判る。
  彼は再び、ティアスを正面から見つめる。こころなしか、彼女が一瞬震えたように思えた。

「ティアス、オレはお互い様だと思ってるよ。君はオレ達に隠し事をしてた、暗躍もしてたかもしれない、敵として動いていたかもしれない。だけど君の立場の微妙さは判ってるつもりだし、手をさしのべてくれたことも知ってる。オレは、誰がどう思おうと中王の楽師に感謝してる。この間のパスの件もそうだ。それに、中央に行ったときの君の話、ピアノと歌。それから、テツのことも」
「オレは……」

 とサワダは言い掛けたくせに、ミハマに一瞥されただけで黙ってしまった。

「別に、サワダ中佐のことは……」

 楽師がサワダに優しかったことは、オレだって知ってる。なのにどうして、あえて否定する言葉を出す?

「感謝してるよ」

  ミハマの言葉に、彼女は目を逸らしてしまった。
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