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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第4話 続・敵と味方がいる幸せ 08/10



 イズミがテラスに出て魔物を睨み付ける。そのまま行動に移すのかと思ったら、彼もまた様子を伺うように、距離をとりながら歩くばかりだった。ティアスがちらっと彼の様子を伺ったが、構わず、魔物を見ていた。
  それに不快感を表したのはもちろん、カリン姫だった。その不快感を煽るように、彼女の部下が進言する。

「姫様。お下がりください。ここはこのイヅチがおさめますので……」
「ふざけたことを!あいつらは当てにならん!お前だけで何とかするとでも?!」
「しかし、姫をお守りするのが……」
「そんなことを言っている状況ではない!どうしてこの国の軍が来ないと思っている?!お前はよく判っているだろう」
「しかし!」

 カリン姫の言うとおりだ。どうして他に誰も来ないんだ?ここには仮にも王子がいる。来賓であるカリン姫もいる。なのに。

「シン。あなたは、広がる前には叩かないの?」

 イズミに問いながら、ティアスが動いた。ゆっくりと魔物から目を逸らさぬよう、空を見ながらオレが潜む壁際に近付いてきた。オレがいることを懸念してかどうか知らないが、イズミが少しだけ嫌な顔をした。
  つーか、この状況で、カリン姫の前でそんな言い方……仲が良いのか悪いのか判らないけど、距離は近いんだよなあ。イズミのヤツ、ずるいよな。ちゃっかりしてるというか。

「ティアちゃんこそ。さっさとここのヤツ叩かないと、被害が広がるし?」
「特殊部隊がいるでしょ?」
「役に立たないよ。だから早く始末したいんだよね」

 被害が広がるって……。ここ以外にも出てるってことか?オレ、ここにいても良いのか?大丈夫か?

「口ばかりね」

 オレの視界を塞ぐように、ティアスはオレの目の前の壁にもたれた。

「いつまでいるつもり?」

 彼女は軽く壁を蹴って、囁いた。もしかして、オレに向かって?だけど、彼女の視線は空を支配する魔物に注がれたまま。首を傾けていた。

「……う……動くなって、言われて」

 なんて答えて良いか判らず、思わずイズミのせいにした。真実ではあるけれど。聞こえているかどうかも判らないけれど。

「そう」

 ティアスがイズミの方を見たらしく、彼がちらっとこちら側を見た。

「このぉ!」

 カリン姫の叫び声に、オレは一瞬目を奪われた。その様子をイズミやティアスが見ていたかは判らなかったけれど。壁越しの、ティアスの背中越しに姫を確認する。
  彼女の掴んでいた長槍が、鈍く光を放ったまま、黒プテラノドンのたった一つの目玉に向かって飛んでいき、見事に命中した。
  お姫様だなんて言うから心配してたけど、カリン姫もかなりの手練れだ。

「……広がる」

 ティアスの言葉を受け、イズミが、そして廊下に追い出されていたサワダが動き出す。
ただし、サワダはミハマに止められていたけれど。
  カリン姫の槍をきっかけに、刺さった目玉から黒い霧が吹き出す。その霧は瞬く間に黒い雲になって空を覆い尽くす。

 広がるって、こういうことか。以前、オレとミナミさんを襲った、空から来た魔物は、既に「広がった」後だったんだ。
  だけど、カリン姫達は「広がる前にかたを付ける」って言ってた。てことは、この状態って、ホントはやばいんじゃないのか?何でティアスもイズミも、動かなかった?ティアスだって、イズミにそうしないのか聞いてたし。

「シン、動かないの?」
「残念ながら。王子様に危害が及ばない限りは。ティアちゃんこそ」

 彼女はゆっくり壁から離れ、黒い雲に向かって歩く。だけどイズミは動かない。

「もう、広がっちゃったよ?」
「……」
「戦う義理はない、だなんて言えないよね。あんなご大層なこと言ってるんだから」
「どういう意味?そんなことを言うつもりは……」
「さっき、カリン姫にもそう紹介されていたじゃない?サワダ議員にさ。だからあの人は後見についてるって、『国が北に近いから、脅威にさらされていた』なんてね」

 彼女がここにいるとしている、おそらく建前の理由を彼は今、出してきた。

「昨夜……抜け出たくらいだものね」
「戦うよ?」

 オレを助けてくれたときに持っていたジャックナイフを手に持っていた。おそらくどこか、服の中にでも隠していたのだろう。

「そんな武器じゃなくて」

 彼女の横に、人の悪い笑みを浮かべながら立つ。よく見たら、イズミは腰に下げられるほど小さなボウガン(改造?)以外、武器らしいものを携帯してない。以前、港で戦ったとき、イズミは何を持ってた?隠し持てるような武器だったか?サワダに武器を持ってきたくせに、自分は戦う気はないのか?無いくせに、サワダを後ろに追いやって?

「どっちが良いかな。君の手駒を使うか、君自身の武器を見せてくれるか」

 轟音と共に、テラスを囲んでいた檻が吹っ飛んだ。檻を構成していた鉄柵が、テラスに降り注ぎ、そこに立つ人々の脇を掠める。そして、オレが隠れるこの壁にも突き刺さった。当たらなかったから良かったものの、あまりに突然の出来事で、動くことすら出来なかった。腰が抜けた……。ここにいるのはやっぱり危険な気がする。イズミのヤツ……。
  そう言えば、あの魔物はどうやって入ってきたんだ?雲になった後ならいざ知らず、あのプテラノドン様の形態の時に檻を壊さずに入ってくるなんて真似、出来ないはずだ。

「カリンが!それに、ティアスも。テツ!オレが……」

 鉄柵がカリン姫と彼女の臣下にも降り注いでいた。臣下の足を掠めたらしく、カリン姫が彼を担ぎ、移動していた。

「良いからお前は引っ込んでろ!オレが行くから……ユノ、コイツ押さえてろ!」

 いつの間にか謁見の間から廊下まで来ていたイツキ中尉に、サワダはそう頼むと、剣を構え、飛び出す。

「シンってば……。殿下、ご存じでした?」

 ティアスを(そしておそらくはサワダをも)釣るための行為であることを、イツキさんは白々しくミハマに問うた。彼を押さえながら。

「いや。でも、何か考えがあるんだろ?……あ、いや違うな」
「違う?」

 彼女の疑問に、彼は笑顔で答えた。

「面倒くさくなったんじゃない?ユノと一緒で」
「一緒にしないでください。人には時期を見ろって言うくせに、自分が真っ先に飛び出るような人たちと」

 隠れていて良かったと、このとき心底思った。今、オレは本気でへこんだ顔をしてる。この人達、確信してるんじゃないのか?ティアスの正体を。必死に隠してたオレが、これじゃバカみたいじゃないか。
  オレの知らないところで、一体何が起きてたんだよ。

 大体、何でイズミはあんな行動に出た?サワダの前では、彼が彼女に手を出すなんて『あり得ない』と言うくせに、充分すぎるくらい疑ってたわけだし。ミハマに気を使ってるように見えたくせに、ミハマの前でティアスに決断を迫って見せたり。そしてサワダにも、武器を持ってきたくせに、あえて引っ込ませて自分は何もしなかったり。
  何となく、イズミの目的も、極端故の行動であることも判るけど。判るけど、いつの間にこんなコトに?オレはなんでこんな、蚊帳の外で見てるだけだ?関係ないことに振り回されないといけないんだ?

「まあ、大丈夫だとは思うけど……大丈夫かな?無茶しそうだけど」
「殿下が大切だとおっしゃるなら、大丈夫だって、殿下がおっしゃったんですよ?」

 唇をとがらせ、意地悪く言うイツキ中尉に、彼は再び笑顔を見せた。

「だから、おとなしく見ててください」

 ミハマが窘められたよ……。ある意味、護衛部隊最強はこの人かもしれない。言われたミハマは苦笑いしながら正座をしていた。

「……テッちゃん。出て来ちゃったね」

 イズミは振り返ることなく、彼の後方から歩んでくるサワダに声をかけた。サワダは不愉快きわまりない顔をしていたけど。
  暗雲が人の形を成して、カリン姫、ティアスとイズミ、テラスに現れたサワダを囲む。カリン姫に向かっていった、コールタールの塊のような人型に向かって、サワダが手に持っていた小さなナイフを投げた。ナイフの当たった箇所からゆっくりと溶け始め、動かなくなってしまった。

「何してる。お前がさっさと潰さないからだろうが。もう広がった。2体とも広がったら面倒だろうが」

 もしかして、イズミ達は「広がる」のを待ってたってことか?サワダも含め。カリン姫達とは戦い方が違うってことか?今のサワダのナイフと言い、コイツらにはなにか方法があるのかも。

「カリン姫に対抗策は?」

 ティアスの言葉は、サワダに向けられたものらしい。イズミは嫌味な笑顔のまま黙っていたし、答えたのは彼の後ろから歩み寄ってくるサワダだった。

「オレが知る限り『広がった後』ではないはずだ。シンは?どう思う?」
「オレの知る限りでも、残念ながら。さっきも「広がる前」に何とか片づけようとしてたしね。人間のことは判っても、魔物のことはよく判らないみたいだしね」

 その言葉が聞こえてないか思わず不安になって、カリン姫が逃げた方を確認したが、案の定、聞こえていたみたいだ。不愉快になって当たり前だけど、どうしようもできないといった感じだった。その思いが、オレには痛いほどよく判る。腰抜かしながら考えることじゃないけど。

「オレは、ティアちゃんが動くのを見たいんだよ。だって、テッちゃんしか見てないんだろ?彼女が戦うところ。テッちゃんは、何か最近はぐらかしたような言い方をするし」

 本気で、イズミって言う男がわかんねえ。確かにあいつはサワダのことを「敵」だと言ったけど。だけど、なんでこんな、子供が駄々こねてるような印象すら受けるのか。

「カリン!大丈夫?」

 カリン姫は、何とかミハマ達がいる場所までイヅチさんを連れてきていた。ミハマの心配に一瞬、彼女は喜びの笑みを見せた。けれど、唇をぎゅっと結び、空を、そしてイズミ達を睨んだ。

「……私は平気だ。それより、イヅチを頼む。私は戻る!」
「カリン!」

 ミハマの制止も聞かず、彼女は再びテラスに戻るために立ち上がった。

「戻ってきちゃうね、カリン姫。サワダ議員を後見につけてる君がこの場にいながら、彼女に何かあったら、立つ瀬がないよね」
「それは……あなた達も一緒だと思うけど」
「オレはそう言うの、どうでも良いや。言ったろ?うちの王子様に危害が加わらなければ、どうでも良いんだ。今は、はっきりさせることの方が大事だし。ねえ、テッちゃん?」

 サワダはどういうつもりだったのか判らないけれど、ティアスを見ることも、イズミを見ることもなく、目も伏せていた。

「別に、戦うよ。そのためにいるし。そうしてきたし」
「だから、そんな武器じゃなくてさ。それとも、隠れてる君の手駒に出てきてもらう?」

 わざとらしく、ティアスを指さし、その手を屋上に向かってゆっくりと持ち上げた。

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