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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第4話 続・敵と味方がいる幸せ 06/10
サワダの表情は見えない。しかし、声を聞く限り、彼は突き放しているように思えた。カリン姫を、そしてティアスを。
「さあ。オレに父のことを聞かれても?」
「ああ、そう。相変わらずだな」
本当に『相変わらず』なのだろう。カリン姫のサワダのあしらい方は、慣れたものだった。
「知人が、サワダ議員と知り合いだったので、そこで知り合ったんです。ね?」
カリン姫の思いに気付いているのかいないのか、ティアスはあえて、ミハマに同意を求めた。確かに、彼女とサワダ議員の繋がりは、そのようにここでは言われてるし、二人ともそう言っている。だけど、カリン姫が気にしてるのは、何もティアス自身のことだけじゃないはずだ。
彼女は、ミハマに会いにこの国に来ているのだから。
案の定、目配せをする二人に、カリン姫はあからさまに不愉快な顔をして見せた。
「鈍いなあ、ティアちゃん。天然かな?」
隣で同じように様子を伺っていたイズミの呟きに、オレは黙って頷いた。
「わりと、女子に嫌われるタイプかもね、ティアスって」
「ああ、かもね。女友達少なそうだし。良い子なんだけどね。サトウアイリとは違う意味で、女子の反感買いそうだな」
確かに……オレの知ってる佐藤さんも、綺麗だし、男にはいい顔するけど、女から見たらどうかなあって人だったしな。女友達と一緒にいるの、見たことないし。大概、違う男を連れてた。
ティアスは、そう言う女ではなかったけど。
「テツは何で、ああいうタイプばかり……」
「佐藤さんは綺麗だし、オレも好みの顔だったけど?」
「中身の軸も似てるよ。テツはドMだからな。あんな女が良いんだ」
酷いよな、自分で佐藤さんの名前を出したくせに、不機嫌になった。
「……アイハラって、テツと好みかぶってるよな」
「かぶってない!」
オレの知ってる泉と同じこと言った!最低だ!!なんでサワダと好みがかぶってないといけないんだよ。ティアスも佐藤さんも、普通に考えて可愛い顔の部類だろうが!?
あの二人の中身の軸が似てるって?そうは思えないけど……。
「ティアスも佐藤さんも、サワダの好みなんだな」
「ま、見るからにね。もうちょっとましな女を選べばいいのに」
否定して欲しかったかも。
何か、喋ってるときにカリン姫にこっちを向かれると、聞こえてるんじゃないかって心配になるよな……。話を聞いている限りでは、ミハマの気を引くのに必死みたいだから大丈夫そうだけど。
「いつ頃から一緒に……」
直接的な台詞を吐いてしまいそうになっていたカリン姫が、ちらっとサワダの方を見て、小さく舌打ちをしていた。多分、彼は嫌味な顔をしていたに違いない。
「いつ頃からこちらに滞在を?」
「ちょうど先回の中王の招集の後からです。中央にいたこともありましたし」
ティアスが先手を打った形だった。何か言われる前に、先に言ってしまおうというところか。ミハマやサワダ達にもそのことは言ってあるだろうし。
サワダ議員が、中王とその臣下であるサカキ将軍と懇意にしていることは、おそらくミハマ達が知るように、カントウの姫である彼女も知っているだろうから。
「カリン。そんな風に質問責めにしなくても……」
「質問責めにしているわけじゃないよ。ただ、君だって、サワダ議員の手の……」
カリン姫はサワダ父の存在を責めながら、再び、サワダの様子を伺った。ミハマの視線が、彼女を責めていたからかもしれない。
「……ティアスが父を後見に持ったのは、知人を通してだというのは本当だと思う」
そう言ったのはミハマではなく、サワダだった。当然だが、ミハマ以外の誰もが驚いていた。ミハマだけが、笑顔を崩さないまま、嬉しそうに彼を見ていた。
「別に、庇ったわけじゃない」
バツが悪そうに言うサワダに、ティアスがにじり寄る。
「でも……」
図らずも彼を見つめるティアスの瞳を、初めて真正面から見ることが出来た。
彼女は、オレが知る彼女と同じ瞳で、彼を見つめていた。
「嬉しいよ」
礼を言うわけではなく、彼女は自身の思いを彼に告げ、他の誰の目を見ることなく、正面をむき直した。その彼女の様子を、一瞬だったけれどミハマが伺った。その程度ですますことが出来るミハマは、一体何を考えているのか。
あれは、ない。本気でへこむ。オレなんか、こちらの様子を伺えるわけもないと判っているのに、サワダを睨んでしまう。
「何がおかしいんだよ?」
隣で同じように様子を伺っていたイズミが、声を殺して笑っていた。その毒のある笑みが、カンに触った。
「別に。ティアちゃん、完全にカリン姫に『敵』として認識されちゃったな、と思って」
「そうか?だって、カリン姫って、ミハマ狙いだし。ティアスは明らかにサワダのこと……」
「それを気にしてんのはアイハラだろ?ティアちゃんが誰に色目を使ってようが、あの方には関係ない。彼女にとっては、ミハマの意志の方が大事だろ?」
「いや、オレは気にしてないし。大体、ミハマもそんな、気にしてるようになんか……」
「充分だよ」
あれだけのことで?
でも、イズミの言う通りかもしれない。疑っていただけのはずのカリン姫の敵意が、ティアスに向けられ始めていた。
「カリン姫は、よく見てるよ。いろんなことをね。ミハマに関わることなら、特に」
「なら、今のこの状況は、お前の思惑通りってヤツ?」
「そういうこと」
悪びれず、彼は笑う。何だかバカにされた気分だった。
少しだけ、彼がオレをこんなに自由にしてくれてるのか、その理由が判った気がする。 彼のたくらみが、オレなんかにばれたところで、大したことがないって思われてるってことなんだ。
だけど、それだけじゃないって思いたい。